歯の治療法のなかでも、デジタル技術を活用したセレック治療が注目を集めています。セレック(CEREC)とはCeramic Reconstruction(セラミック修復)の略称で、コンピューター制御によってセラミックの詰め物や被せ物を設計、そして製作するシステムのことです。従来は型取りや歯科技工所での手作業が必要だった詰め物や被せ物治療が、セレックの登場によって一変しました。この記事では、セレックの概要や従来法との違いや仕組み、メリットとデメリットや費用目安などを解説します。
セレックとは

セレックを初めて耳にする方もいらっしゃると思います。本章では、セレックとはどのような治療なのか、また従来の方法との違いを解説します。
セレックの概要
セレック治療は、むし歯などで削った歯の形を3D光学カメラで撮影し、そのデータをもとに補てつ物(詰め物や被せ物)をコンピューター上で設計し、院内の専用機械でセラミックブロックから削り出して作製する治療法です。
欧米では以前から広く活用されてきたシステムで、歯の型取りが不要なため患者さんの負担も軽減されます。歯科医院内で修復物を一貫して製作できるため、最短1日で白いセラミック歯による治療が完了する点が特徴です。
セレックと従来の方法との違い
セレックシステムと従来の治療法の違いは次のとおりです。
項目 | 従来法 | セレック |
---|---|---|
治療期間と工程 | 歯を削って印象材で型取り、技工所に製作依頼し、装着まで1~2週間以上かかります。 | 口腔内スキャン後、コンピューター設計、院内で加工します。最短即日でセット完了します。 |
型取りの方法 | シリコンなどの素材を使用します。 | 光学カメラによるスキャンを行います。 |
修復物の製作方法 | 技工士が模型をもとに手作業で製作します。 | 歯科医師がデジタル設計し、機械が自動加工します。 |
費用負担 | 技工士の作業料がかかりますが、保険が適用されると自己負担が少ない傾向です。 | 自由診療で保険適用外が中心です。 |
仕上がりの審美性 | 技工士が色や透明感を細かく調整でき、自然で美しい仕上がりです。 | 単色ブロックを削り出すため、色調再現に限界があります。 |
セレック治療は、短期間で精度の高い補綴物を提供できるのが大きな利点です。一方で、審美性を重視する前歯などでは従来法の方が適している場合もあります。治療部位や希望に応じて適切な方法を選ぶことが大切です。
セレックの仕組み

セレック治療の背景にある仕組みを、もう少し詳しくみてみましょう。セレックはCAD/CAM(キャドカム)技術を歯科治療に応用したもので、コンピューター支援設計(CAD)とコンピューター支援製造(CAM)によって成り立っています。
まず歯科医師がむし歯の部分を削り、土台となる歯の形を整えます。次に、小型カメラで口腔内をスキャンすると、患者さんの歯列や噛み合わせが即座に3次元データ化され、モニター上で歯型が再現されます。
このデジタルデータをもとに、歯科医師が専用ソフト上で修復物の設計を行います。適切な噛み合わせの調整や形状をコンピューター上でシミュレーションできるため、精度の高い設計が可能です。
設計が完了すると、そのデータが院内のミリングマシンに送られます。ミリングマシンにあらかじめ選んだ色調のセラミックブロックをセットし、コンピューター制御で自動加工を開始します。高速度で回転する切削バーがブロックを少しずつ削り、わずか20分前後で精巧な詰め物や被せ物が完成します。
削り上がった修復物を一度口腔内に合わせてみて、適合や噛み合わせを確認します。問題がなければ最終的に専用の接着剤で歯にしっかりと装着します。
以上のようにセレックは、デジタル化された一連の流れで治療が進む仕組みです。
参照:『歯科用CAD/CAM CEREC 3Dシステムを用いた セラミック修復の臨床』(松本歯科大学)
セレック治療のメリット・デメリット

デジタル技術を用いたセレック治療ですが、受ける前に知っておきたい長所と短所があります。ここではセレック治療の代表的なメリット・デメリットを挙げ、それぞれ解説します。
セレックのメリット
セレック治療には、従来の方法と比べて患者さんにとって大きな利点が数多くあります。主なメリットは下記のとおりです。
メリット | 内容 |
---|---|
治療期間が短い | 従来は型取りや技工所での製作により数週間かかることもありましたが、セレックなら最短1日で装着まで可能です。通院回数も減り、忙しい方でも治療を行いやすい |
型取りの負担が少ない | 粘土のような印象材を使わず、口腔内スキャナーで撮影するだけで完了します。不快感や嘔吐反射の心配がなく、快適に受けられる |
見た目が自然で耐久性も高い | セラミック素材は白く自然なツヤがあり、変色しにくさがある。金属アレルギーの心配もなく、適合精度が高いため二次むし歯のリスクも軽減される |
費用を抑えられる場合がある | 外注の技工料が不要なため、従来のセラミック治療より費用が安くなるケースもある。自費診療ではあるものの、経済的な負担を軽減しやすい。 |
精密なデジタル治療 | デジタル設計と自動加工で安定した品質を実現できる。適合性がよく外れにくい。データ保存により再作製もスムーズに進む |
このようにセレックは、治療期間や快適性、見た目の美しさ、費用面まで幅広いメリットを備えています。特に忙しい方や、より自然な見た目と快適な治療を望む方にとって、大きな選択肢となるでしょう。
セレックのデメリット
セレックには多くの利点がありますが、一方で注意すべき点や従来法の方が望ましいケースも存在します。主なデメリットは次のとおりです。
デメリット | 内容 |
---|---|
適用できない場合がある | ブリッジのような大きな欠損や複雑な噛み合わせには利用できないことがあり、歯の状態や位置によって従来法が選ばれる場合もある |
セラミックが割れるリスク | 硬い一方で衝撃に弱いため、歯ぎしりや噛む力が強い方では割れや欠けが生じる可能性がある |
歯を多めに削る必要 | セラミックは一定の厚みが必要なため、金属よりも歯を削る量が多くなることがある |
色調の再現性に限界 | 既製ブロックから削り出すため、隣の歯と完全に同じ色合いにできない場合がある。審美性を重視する前歯では従来法が推奨されることもある |
費用が高額 (保険適用外) | 公的医療保険が適用されないため、銀歯治療と比べると費用は高額になる。条件によっては保険適用となることもある。 |
セレック治療は、多忙な現代人にとって大変利便性の高い治療方法といえます。特に「短期間で治療を終えたい」「銀歯を自然な白い歯に替えたい」と考える方には大きなメリットがあります。
また、従来の型取りが苦手な方や嘔吐反射が強い方にとっても、口腔内スキャナーを用いたセレックは負担が少ないです。さらに、歯科医院内で完結するため治療の流れがシンプルで、データが保存されることで将来的に再製作がスムーズに行える点も安心材料でしょう。
一方で、すべての方に適しているわけではありません。例えば、前歯の微妙な色調にこだわる方や、噛み合わせが複雑な方、ブリッジなど大規模な修復が必要な場合には従来の方法のほうが適切なこともあります。
また、セラミックは強度がある一方で衝撃に弱く、歯ぎしりや食いしばりの癖が強い方では破損のリスクを考慮しなければなりません。費用についても保険適用外となるケースが大半であるため、経済的な負担が気になる方にはデメリットになるでしょう。
このようにセレック治療には明確な適応と限界が存在します。治療を検討する際には、ご自身のライフスタイルや希望する見た目、経済面を含めて総合的に判断することが大切です。
セレック治療の流れ

実際にセレック治療を受ける際の大まかな流れを以下に記します。従来の治療と異なる点も含めて、一連の流れを確認してみましょう。
カメラで口腔内を撮影する
まず診察にて歯科医師がむし歯の箇所を治療し、詰め物や被せ物の土台となる形に歯を削ります。その後、従来なら型取りをする場面で、セレックでは専用の3D光学カメラで口腔内をスキャンします。2~3分程度、細長いカメラをお口のなかに当てるだけで高精度の歯型データを取得できます。スキャンした結果はその場でコンピュータ画面に表示され、歯科医師と一緒に自分の歯の状態を確認することもできます。
コンピュータにて修復物を設計する
続いて、取得した歯型データを使ってコンピューター上で詰め物と被せ物の設計を行います。歯科医師が3Dソフトウェア上で噛み合わせの調整や形態の微修正を行い、理想的な歯の形を作り上げます。患者さんの要望も考慮しながら、噛み心地や清掃のしやすさにも配慮してデザインします。設計が完了したら、患者さんの歯の色調に近いセラミックブロックの色を選択します。
セレックが修復物を作製する
デザインデータをミリングマシンに送り、いよいよセラミックブロックの削り出しを開始します。高速回転するバーが自動でブロックを削り、20分程度で精巧な詰め物・被せ物が完成します。従来なら技工所で数日~1週間かかっていた工程が、データ連携と機械加工により院内で即日に行われるのです。削り上がった直後の修復物は少し光沢がなくくすんだ質感ですが、必要に応じて表面を研磨し滑らかに仕上げます。
口腔内に設置する
できあがったセラミック修復物を実際に歯にあてて装着します。まず仮付けの状態で噛み合わせや隣の歯との適合を細かく確認します。高すぎる箇所や当たりが強すぎる部分があれば調整し、問題がないことを確認します。フィットが良好で見た目も問題なければ、歯科用接着剤(レジンセメント)を用いて接着します。数分で接着剤が硬化し、セラミックが歯にしっかり固定されます。最後に噛み合わせの確認を行い、問題がなければ治療完了です。必要に応じて、セラミックを長持ちさせるための歯磨き方法やナイトガードの案内などアフターケアの指導を受ける場合もあります。
セレック治療にかかる費用の目安

セレック治療は主に自由診療となるため、費用は歯科医院ごとに設定されています。クリニックや材料の種類によって幅がありますが、詰め物(インレーまたはアンレー)と被せ物(クラウン)で大まかな相場を把握しておきましょう。
治療内容 | 費用の目安 |
---|---|
セレックインレー(詰め物) | 1本あたり 4~7万円程度 |
セレックアンレー(詰め物) | 1本あたり 5万円程度 |
セレッククラウン(被せ物) | 1本あたり 5~12万円程度 |
このように、セレックの用い方や歯科医院によって価格に差があるため、治療を検討する際は複数のクリニックの料金表を比較してみるとよいでしょう。
そして、 一般的にセレック治療は保険が効かない自由診療ですが、実は特定の条件を満たせば保険適用でできます。保険で作れるセレック系修復物は材料や色に制限がありますが、その場合、患者さんの自己負担は1本あたり6,000~10,000円程度と安くなることがあります。ただし、前提となる歯の条件や使用素材が細かく規定されており、オールセラミックは保険適用外です。保険診療でセレック相当の治療が受けられるかどうかは歯の場所や噛み合わせによるため、事前に歯科医師に確認しましょう。
まとめ

セレック治療は、デジタル技術によって短期間で精密なセラミック修復ができる治療法です。型取り不要でその日のうちに白い詰め物や被せ物を入れられる手軽さから、多忙な方や銀歯を白く替えたい方にも選ばれています。一方で、従来法に比べて歯を多く削る必要があることや、色調再現の限界、保険が利かず費用が高額になることなど留意すべき点もあります。
治療をご検討の際は、セレックがご自身の症例に適しているか、メリット・デメリットや費用も含めて歯科医師と十分に相談するとよいでしょう。セレックと従来の方法それぞれの特徴を理解し、ニーズに合った治療法を選択してください。
参考文献