歯周病は、静かに進行しやすい沈黙の病気ともいわれ、気付かないうちに歯や健康に深刻な影響を及ぼす重大な疾患です。歯周病検査を受けることで早期発見が可能になり、予防や治療がぐっと楽になります。
このような検査や治療にはどのような内容が含まれ、費用はどれくらいかかるのでしょうか。
この記事では歯周病の検査内容や費用・予防のポイント・治療方法についてわかりやすく解説します。また、普段の生活で実践できる予防方法についても記載しています。
歯医者の歯周病検査の内容
下記に記載する検査は歯周病の早期発見や進行度を正確に把握するために欠かせません。
検査の結果をもとに、患者さんに合った治療計画や予防策を提案することができます。定期的な検査を受けることで、健康な口腔環境を維持する助けとなります。
口腔内全体の確認
口腔内全体の状態を把握するための初期評価です。以下を確認します。
- 歯の欠損やむし歯の有無
- かぶせ物や詰め物の状態
- 歯並びや噛み合わせ
- 舌や口腔粘膜の異常
全体像を把握することで、問題が歯周病だけでなくほかの疾患と関連している可能性を探ります。
歯茎の状態の確認
歯茎の炎症や腫れの有無を調べ、健康状態を評価するため、以下を目視で評価します。
- 歯茎の色
- 腫れ
- 出血の有無
健康な歯茎はピンク色で引き締まっていますが、炎症があると赤みや腫れが見られます。
歯茎が退縮している場合、歯周病が進行している可能性が高いです。視覚的な評価を通じて、歯周病の兆候を早期に見つけます。
プロービング検査
プロービング検査とは、歯と歯茎の間にある歯周ポケットの深さを測定し、歯周病の進行度を確認することです。
プローブという専用の細い器具を使って歯周ポケットの深さを測ります。
正常な歯周ポケットの深さは1~3mmですが、歯周病が進行していると4mm以上になることがあります。また測定中に出血が見られる場合、歯茎に炎症があることの証拠です。
エックス線検査
骨の状態を確認し、歯周病による骨吸収の程度を評価する検査です。
歯を支える歯槽骨の高さや密度を確認します。
X線を使うことで、肉眼では確認できない骨の損失や隠れた問題も把握できます。歯周病が進行すると、歯槽骨が溶けてしまうため、この検査は特に重要です。
視覚的な診断を補い、精密な治療計画を立てるために役立ちます。
プラーク付着率の検査
歯の表面に付着しているプラーク(歯垢)の量を測定し、口腔衛生状態を評価します。
染め出し液を使ってプラークの付着部分を色付けし、どの程度付着しているかを確認します。
プラークが多い場合は、歯周病やむし歯のリスクが高いと判断される指標です。プラーク付着率を数値化し、改善の指導が行われます。
日々の歯磨き習慣を見直すための参考になります。
歯周病検査を受けるタイミング
歯周病検査を受けるタイミングは、以下のような状況で特に推奨されます。
- 定期検診時
- 歯茎に異常を感じたとき
- 妊娠を計画している、または妊娠中の場合
- 持病(高血圧・糖尿病・心血管疾患・骨粗鬆症など)がある場合
- 喫煙をしている場合
- 歯科治療前
推奨頻度は半年~1年に1回です。歯周病は初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、定期的に検査を受けることで早期発見が可能です。
特に40代以降の方や、歯周病リスクが高い方は年に1回以上の検査が推奨されます。
妊娠中はホルモンバランスの変化により歯周病が悪化しやすく、低体重児出産や早産のリスクが高まる可能性があるため、妊娠前後の検査が推奨されます。
糖尿病・心血管疾患・骨粗しょう症などの疾患は歯周病の進行速度に関係しているとされているため、注意が必要です。
また高血圧や糖尿病を持っている方の場合、持っていない方より歯茎が腫れやすい傾向にあるため、定期的に検査を受けることが推奨されます。
喫煙は歯周病リスクを高めるうえ、歯茎の出血や炎症が目立ちにくく隠れ歯周病になりやすいため、定期的な検査が特に重要です。
インプラントや歯列矯正など、歯周組織に影響を与える治療を受ける前には、健康な歯茎でないと治療の成功率が下がる可能性があります。そのため事前に検査を受けて必要に応じた治療を行うことが重要です。
また以下の症状がある場合は早めの受診をおすすめします。
- 歯茎が赤く腫れている
- 歯磨き時に出血する
- 口臭が気になる
- 歯茎が下がって歯が長く見える
- 噛むと違和感や痛みがある
- 歯がぐらつく
これらは歯周病の典型的な症状で、進行を防ぐためにも早急に検査を受ける必要があります。
歯周病検査の費用相場
歯周病検査の費用は、検査の内容や診療機関によって異なりますが、日本では多くの場合、健康保険が適用されるため安価に受けることができます。
歯科医院によって料金や保険適用の範囲が異なることがあるため、受診前に事前確認をすることがおすすめです。以下に費用の目安や保険適用について説明します。
保険適用について
健康保険が適用される条件は、以下のとおりです。
- 歯周病の診断や治療
- 歯周病の診断を受けた後の定期的な検査やメンテナンス
- 必要と判断された場合のスケーリングやルートプレーニングの処置
健康診断の一環として歯周病検査を受ける場合は、自由診療扱いになることが一般的です。
検診目的で保険が適用されない場合や高度な検査を希望する場合は、自由診療として費用が増加します。
定期的に歯科医院で検査やメンテナンスを受けることで、治療費を抑えられる可能性があります。
費用の相場
歯周病検査の費用相場は基本的な歯周病検査だと約500~1,500円です。
検査内容は歯周ポケットの深さ測定、出血や炎症の有無の確認、歯の動揺度のチェックなどです。歯石除去も行った場合、金額は約2,000~3,000円になります。
ほかに保険適用される治療の費用目安はルートプレーニング1,000~2,000円(1回)・フラップ手術約5,000~10,000円(1歯あたり)などです。
保険外診療(自由診療)の場合では、高度な検査や治療法が用いられるため費用が高くなることがあります。
- PCR検査(歯周病菌のDNA検査):1回あたり約5,000~20,000円(税込)
- 相差顕微鏡検査(口腔内の細菌を顕微鏡で観察する検査):1回あたり2,000~10,000円(税込)
- 骨再生療法(GTRなど):50,000~200,000円(税込)
- レーザー治療:1回10,000~50,000円(税込)
一般的な歯科検診との違い
歯周病検査は、歯茎や歯周組織の状態を詳しく調べ、歯周病の有無や進行度を診断するために行われます。
具体的な内容は以下のとおりです。
- 歯周ポケットの測定
- 出血や炎症の確認
- 歯の動揺度の確認
- 歯垢や歯石の付着状況の確認
- レントゲン検査(必要に応じて)
具体的な検査内容は前述したとおりです。一方で一般的な歯科検診は、口腔全体の健康状態をチェックするために行います。
主な内容は以下のとおりです。
- むし歯の有無のチェック
- 歯垢や歯石の付着状況の確認
- 歯茎の状態の簡易チェック
- 噛み合わせの確認
- レントゲン撮影(必要に応じて)
- 口腔粘膜のチェック
歯周病検査は、歯周病の有無や進行度を診断するための専門的な検査で、歯茎や歯周組織に特化しています。
一方一般的な歯科検診は、口腔全体の健康状態を広く確認するもので、むし歯や歯並びなども含めた総合的なチェックです。
どちらも目的が異なるため、定期的な歯科検診を受けつつ、歯周病が疑われる場合には専門的な歯周病検査を受けることをおすすめします。
歯周病が見つかった場合の治療方法
歯周病が見つかった場合、進行度に応じて治療法が異なります。
軽度の場合はセルフケアの改善や歯科医院での基本的なケアで治療可能ですが、重度の場合には専門的な治療が必要です。以下に一般的な治療方法を説明します。
重度になると治療期間が長くなるため、定期検診を欠かさず受けることが予防にもつながります。また、治療後のメンテナンスを怠ると再発するリスクが高いので、継続的なケアが大切です。
基本治療
歯周病の基本治療は、以下となります。
- 歯石除去(スケーリング)
- セルフケア指導
- 生活習慣の改善指導
- 抗菌性マウスウォッシュの使用
- ルートプレーニング
- 歯周ポケット内の洗浄
- 薬物療法
- 抜歯
歯周病の進行が初期段階の場合、歯の表面や歯と歯茎の間に付着した歯石や歯垢を専用器具で取り除きます。そして歯磨きの方法や生活習慣の指導を行い終了です。
しかし歯周病が中等度となり、歯周ポケットが深くなったり歯槽骨の一部が破壊されていたりする場合、ルートプレーニングを行います。ルートプレーニングとは歯根の表面を滑らかにして、再び歯垢が溜まりにくくする治療法です。
歯周ポケットがある場合ポケット内を抗菌薬や消毒薬で徹底的に洗浄し、細菌を減らすことが必要です。必要に応じて抗菌薬や抗炎症薬が処方されます。
歯周病が進行した歯をいつまでも放置しておくと隣の歯までいたんでくることがありますので、思い切って歯を抜くことが必要な場合もあります。
外科治療
歯周病が進行して歯茎や歯周組織が深刻なダメージを受けた場合、外科治療が必要になることがあります。
外科治療では、歯茎の下に溜まったプラークや歯石を徹底的に除去し、歯周組織を再生させることが目的です。
これは、通常のスケーリング(歯石除去)やルートプレーニング(歯石除去・根面平滑化)だけでは改善できない場合に行われます。
主な外科治療の種類を以下に記載します。
- フラップ手術
- 再生療法(GTR法・エムドゲイン・骨移植)
- 歯肉切除術
- 歯肉移植術
フラップ手術(歯肉剥離掻爬術)は、歯茎を一部切開して剥離し、直接目視しながら歯周ポケットのなかにある歯石や炎症組織を除去します。手術後は歯茎を元の位置に戻して縫合し終了です。
これにより、歯周ポケットが浅くなり、歯と歯茎の健康を回復させます。
再生療法は歯周病によって失われた骨や組織を再生する治療法です。
主な方法としてメンブレンという特殊な膜を用いるGTR法・エムドゲインという歯の周囲の骨や歯根膜の再生を助ける薬剤を用いる方法・患者さん自身の骨や人工骨を移植して骨を再生する骨移植があります。
歯肉切除術は深くなりすぎた歯周ポケットを改善するため、歯茎の一部を切除して形を整える治療です。これにより、ポケットを浅くして清掃しやすい環境を作ります。
対する歯肉移植術は、歯茎が大きく後退した場合に、ほかの部位から組織を移植して歯茎を補う治療法です。歯の根元が露出している部分を覆い、見た目の改善や知覚過敏の軽減を図ります。
外科治療は歯周病の進行が深刻な場合の最後の手段です。治療の成功には、患者さん自身が治療後のセルフケアをしっかり行うことが欠かせません。歯科医師と十分に相談しながら適切な治療を選ぶことが大切です。
口腔機能回復治療
外科手術を含めた歯周病治療で改善が見られた場合、治った歯に対してクラウン(被せの歯)・義歯・ブリッジ・インプラントなどを装着します。
これにより、噛み合わせ・咀嚼・審美・発音機能などを向上させます。
メンテナンス
治療が完了した後は、再発を防ぐためにメンテナンスが不可欠です。具体的なメンテナンスの内容は以下のとおりです。
- 3〜6ヶ月ごとの通院でスケーリング、クリーニングを行い口腔内を清潔に保つ
- 歯周病検査を継続し、歯周ポケットの深さや炎症の有無を定期的にチェックする
- 自己でセルフケアの見直しを行い、歯科医院では日々の歯磨きを継続的に改善するためのアドバイスを受ける
歯周病の予防方法
日々自分で行える歯周病の予防と、歯科医院で行う予防方法について解説します。
日々のセルフケアを徹底しつつ、歯科医院で定期的に専門ケアを受けることで、歯周病を効果的に予防できます。歯周病は進行してしまうと治療が難しくなることがあるため、早めの予防が大切です。
自分でできる予防方法
自分でできる予防方法を以下で説明します。
- 正しい歯磨き
- デンタルフロスや歯間ブラシの使用
- マウスウォッシュの利用
- 生活習慣の改善
- ストレス管理
タイミングは食後30分以内、時間は1回につき2〜3分行うのが理想的です。歯と歯茎の境目を意識し、小刻みに動かすバス法やスクラビング法が有効です。
歯ブラシはやわらかめでヘッドが小さいものを選び、1ヶ月ごとに交換しましょう。歯と歯の間に溜まった汚れは歯ブラシだけでは落とせないため、デンタルフロスや歯間ブラシを併用しましょう。
また抗菌作用のあるマウスウォッシュ(クロルヘキシジンやセチルピリジニウムを含む製品)は、歯周病菌の増殖を抑える効果があります。
生活習慣では禁煙と栄養管理に注意しましょう。タバコは歯周病の大きなリスク因子です。
歯周病リスクを減らすなら禁煙することを推奨します。食事ではビタミンC(抗酸化作用)やカルシウム(骨や歯の健康を維持)を含む食品を積極的に摂取しましょう。
またストレスは免疫力を低下させ、歯周病を悪化させる可能性があるため、適切なストレス解消法を見つけましょう。
歯科医院で行う予防方法
歯科医院で行う予防方法には以下があります。
- 定期検診
- 歯のクリーニング
- スケーリング
- ルートプレーニング
- 定期検診
定期検診の目安は3〜6ヶ月に1回です。歯科医院のクリーニングは専用の器具を使用して歯垢や歯石を徹底的に除去します。
自分では届かない部分も清掃でき、歯の表面もツルツルになります。
前述したとおり、スケーリングは歯石を取り除く処置・ルートプレーニングは歯根の表面を滑らかにし、歯周ポケットを改善する処置です。
まとめ
歯周病は適切なケアと早期対応で十分に防ぐことができ、進行を食い止めることが可能な病気です。歯周病検査を定期的に受けることで、早めの予防や治療につながり、歯だけでなく全身の健康を守ることができます。
日々の歯磨きやデンタルフロスの使用、健康的な食生活を取り入れることで、歯周病のリスクを減らせます。歯と健康を守るために、ぜひ今日からできるケアを始めてみませんか。
参考文献