歯医者さんで行われている、セレックという治療をご存じですか?
この記事では、セレック治療の具体的な方法や、治療のメリットとデメリットなどを詳しくご紹介しています。
セレック治療に興味がある方、治療を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
セレックとは
セレックはアルファベットでCERECと表記され、Ceramic Reconstructionという言葉の一部をとったものです。
日本語に直訳するとセラミック再建、またはセラミック修復となり、セラミックで歯を治す治療を意味するものとなります。
セラミックは天然の歯と近い白さや透明感が実現可能であるため、審美性の高い歯科治療を行うための素材としてよく利用されています。
セレックはこのセラミックを使用した歯科治療を、コンピューターによる制御で行うというものです。
セレックは治療の名称ではありませんが、デンツプライシロナというアメリカの歯科機械メーカーが販売しているセレックシステムを用いて行われることから、セレック治療と呼ばれています。
セレックでできること
セレックシステムには、複数の機能が搭載されています。
一つ目が光学スキャナによる印象(歯型)の採取です。
従来の治療では修復物を設計する際にシリコンなどの印象材で時間をかけて歯型を採取していましたが、セレックシステムでは光学スキャナによる短時間の撮影で印象をとることができます。
従来の治療に用いられていた印象材は独特のにおいなどもあって苦手な方もいますが、光学スキャナーで撮影するのみなのでストレスも少なく、スピーディに印象が採取できる点がメリットとなっています。
二つ目の機能が、光学スキャナーで撮影したデータをもとに、歯型を3Dで再現して、修復物の設計を行う機能です。
セレックシステムのマシンにはモニターが付属していて、撮影したデータから作成した3Dの画像をここに写し出します。
そして、コンピューターによる補助を利用しながら、作成する修復物(インレーやクラウン)の設計を行うことができます。
三つ目の機能が、設計された修復物を実際に作成する機能です。
セレックシステムでは、セラミックでできたブロック状の素材を、ミリングマシンと呼ばれる機械で削りだすことで、修復物の作成を行っていきます。
作成されたデータをもとに、コンピューター制御でセラミックブロックを削りだしていくため、データどおりの精密な修復物を、素早く作り出すことができます。
削りだされたものはそのまま使用できる場合と、焼成が必要な場合があり、これは使用する素材の種類によって異なります。
修復物が完成したら、後は歯科医師により患者さんの歯に装着が行われて、治療が完了となります。
セレックシステムで作ることができるものは、セラミックによるインレー(詰め物)やクラウン(被せ物)です。
技術的にはブリッジの作製も可能なようですが、症例データの少なさや実現できる強度の兼ね合いなどから、ブリッジの治療には対応していないという歯医者がほとんどとなっています。
一般的なセラミックの歯との違い
セレックシステムを利用しない一般的なセラミックの治療では、歯科技工士が手作業で修復物の作製を行います。
従来の治療の流れとしては、まずシリコンなどの印象材で歯型をとり、その歯型をもとに歯並びの模型を作ってから修復物の設計を行い、手作業で修復物を作っていくというものであったため、治療には長い時間が必要でした。
治療に時間がかかることに加え、関わる人の労力も多いため、どうしてもコストがかかってしまうという点が、セラミック治療の難点となっていました。
セレックシステムはコンピューターの補助により治療に時間がかからず、人の手がかかる部分も少ないため、治療時間の短さだけではなく、コストを抑えやすいといった点もメリットとなっています。
場合によっては1日で修復物を作成して装着するといった治療も可能であるため、忙しくて歯医者に何度も通う時間がとりにくいという方にとっては、とても便利といえるのではないでしょうか。
一方で、従来のセラミック治療では歯科技工士が一人ひとりの歯に合わせて精密に作製を行うため、細部までより審美性の高い修復物を作ることが可能です。
色の細かな調整なども、セラミックブロックを削りだして修復物を作るセレックシステムでは対応が難しいですが、歯科技工士による製作であればより自然な色合いの歯を作ることもできます。
そのため、特に前歯のような見た目にこだわる必要がある歯は、セレックではなく従来の歯科技工士によって作られたセラミックの歯による治療が推奨される場合もあります。
セレック治療の流れ
セレック治療の流れは、まずはじめに光学スキャナーでの撮影から行われます。
むし歯の治療などがある場合は先にむし歯を削り、詰め物や被せ物をする部位の治療を終えてから、撮影を行います。
その後、修復物の作製などを即日で行う場合でない限りは、仮歯などをかぶせて削った歯を保護します。
次に、コンピューター上で歯の形状や噛み合わせを考慮しながら、修復物の設計を行います。
即日治療など歯科医院内で修復物を作製する場合はその場ですぐに設計が行われますが、契約している歯科技工士にデータが送られ、そこで修復物の設計が行われるケースもあります。
修復物の設計ができたら、その設計どおりにミリングマシンが人工歯を削りだしていきます。
削りだした歯を装着し、必要に応じて調整を行ってから、歯科用の接着剤で固定して治療が完了となります。
ジルコニアなど焼成が必要な素材で治療を行う場合は、調整の後で焼成をしてから最終的な装着を行います。
セレック治療のメリット
セレック治療にはさまざまなメリットがあります。
短期間で治療できる
セレック治療における特に大きなメリットは、短期間で治療が完了するという点です。
従来のセラミック治療では、型取りから製作、そして装着までに数週間、場合によっては1ヶ月以上の期間がかかってしまうこともありました。
治療に長い時間がかかるということは、その期間はずっと仮歯で過ごさなければならないということです。仮歯は噛み合わせに対して十分な設計となっていないことや、本格的な治療の際にすぐ取り外せるように軽く固定されているだけになっているため、硬いものや粘着力があるものは食べてはいけないなど、さまざまな制限が生じてしまい、どうしても日常生活でのストレスの原因となってしまいます。
セレック治療では最短当日に修復物の作製と装着までが終えられる程、スピーディな治療が可能な治療法ですので、こうしたストレスの少ない治療を受けやすいという点がメリットとなります。
また、治療期間が長いということは、それだけ人件費などもかかってしまうということでもあり、治療期間を短く済ませられるというメリットはコストを抑える点でも有効です。
歯型の採取方法が身体に優しい
前述のとおり、従来のセラミック治療では歯型の採取にシリコンなどの印象材を用いていました。
しかし、印象材は独特なにおいがあり、お口のなかにしばらく設置して固める必要があることから、ストレスを感じやすい工程でもありました。
人によっては口腔内に異物を入れることで吐き気を催してしまい、なかなか歯型がとれないというケースもあります。
セレック治療では、歯型の採取を3Dカメラによるスキャンのみで行うことが可能で、カメラをお口にくわえて十数秒程で撮影が完了するため、身体への負担が少なく、楽に治療を受けやすいといえます。
二次むし歯のリスクが少ない
セレックによる治療はセラミックの修復となるため、合着という方法で修復物を固定している銀歯などの金属製の歯とよりも、二次むし歯のリスクが少ないとされています。
また、セレック治療では修復物の製作がスピーディに行えるため、歯を削った後の脆い状態を素早く解消することが可能であり、これも二次むし歯のリスクを抑える要因といえます。
セレック治療のデメリット
セレック治療にはさまざまなメリットがある一方で、デメリットも存在しています。
対応可能な症例が限定される
セレックによる治療はどのような場合でも行えるというものではなく、詰め物や被せ物といった治療の際に利用できるものです。
ブリッジによる治療が必要なケースでは現在のところ対応していない歯医者がほとんどとなっているほか、クリニックによっては前歯の治療にはセレックでの対応をしていないなど、治療を受けられる範囲などにも制限がある場合があります。
基本的に自由診療
セレック治療に限りませんが、セラミックを使用した治療は基本的に自由診療となります。
そのため、治療にかかる費用が歯医者ごとにバラバラであり、費用もそれなりに高額になりやすい点がデメリットといえるでしょう。
ただし、ハイブリッドセラミックというセラミックと歯科用レジンのかけ合わせによる素材を使用した治療では保険適用が認められていて、2024年6月の診療報酬改定によってすべての歯で利用が可能となっています。
保険適用となるためにはいくつかの条件があるため、まずは歯医者で相談してみるとよいでしょう。
歯科技工士が製作したものより品質が劣る可能性
セレック治療はコンピューター制御によって精密に修復物の製作を行うことができますが、それでもやはり熟練の歯科技工士が製作するものと比べると、品質が劣ってしまう可能性があります。
歯と修復物に細かい隙間ができてしまうと2次むし歯のリスクにつながるため、この隙間が極力出てこない治療を行うために、歯科技工士による治療を推奨している歯医者もあります。
セレックと保険診療
上述のとおり、セレックシステムを使用した治療は基本的に自費診療の扱いでした。
それというのも、そもそも近年まで保険適用となる歯科治療は銀歯による治療が基本で、一部白い歯科用のプラスチック素材を使用したものが利用可能という程度であったため、銀歯に対応していないセレック治療は保険適用が難しかったのです。
しかし、近年になってハイブリッドセラミックというセラミックと歯科用プラスチックをかけ合わせた材料を使用して行う、CAD/CAM冠やインレーの治療が保険適用で行えるようになってきました。
CAD/CAMとはコンピューターによって修復物の設計や作製を行うというもので、まさにセレックがこの治療に該当します。
また、これまでは奥歯の治療など限定的に認定されていた治療が、2024年6月からはすべての歯で保険適用が可能となったため、セレック治療が低コストで受けられる可能性が高くなっています。
ハイブリッドセラミックはオールセラミックと比べれば審美性などの面で劣ってしまいますが、銀歯での治療などと比較すればとても自然な治療が可能です。
むし歯の治療をしたいけれど、銀歯は入れたくないという方や、過去に銀歯などの治療を受けた方で、保険適用で白い歯にしたいというような方は、セレック治療を導入している歯医者で一度相談してみてはいかがでしょうか。
歯科医院で使用されるセラミックの種類
ハイブリッドセラミックによる治療が保険診療で認定されたとご紹介しましたが、セラミック治療で使用される材料にはさまざまなものがあり、それぞれに性質や特徴が異なります。
ここでは、代表的なセラミックの素材とその特徴をご紹介します。
ポーセレン
ポーセレンは陶材と呼ばれるもので、陶器などを作る際の材料と同じ、セラミックといって想像しやすい材料です。
高温で焼くと白さや自然な透明感が実現可能で、天然の歯と近い、審美性の高い歯を作ることができます。
硬く丈夫で、汚れが付着しにくいことから変色なども少ないという特徴がありますが、強い力がかかると割れてしまうリスクがあり、奥歯には利用が難しいといった特徴があります。
e-max
強化ガラスセラミックとよばれる素材で、ポーセレンの強度をさらに高めたような性質の材料です。
天然の歯と近い、審美性が高い歯を作ることができるうえに、より割れにくい性質であるため、力が加わりやすい歯でも利用しやすい素材といえます。
ただし、やはり奥歯に使用すると割れてしまう可能性などがあるため、基本的には審美性が求められる前歯などの治療で利用されます。
ジルコニア
人工ダイヤモンドとも呼ばれる素材で、とても硬く丈夫な性質のセラミックです。
奥歯で使用しても問題がない程の耐久性がありますが、一方で審美性についてはポーセレンやe-maxに劣るため、前歯よりも奥歯で使用されることが多い素材となっています。
ハイブリッドセラミック
セラミックと歯科用プラスチックをかけ合わせた素材で、適度な硬さと審美性を持ちます。
ポーセレンなどのセラミック素材と比べると自然な透明感の演出などが難しいものとなりますが、保険適用で利用することができるのでコスト面を抑えて治療を受けたい場合に適しています。
まとめ
セレックは、コンピューター制御で素早く修復物を作り出す治療方法です。
従来のセラミック治療には長い時間がかかり、そのために費用も高くなりやすいものでしたが、セレックでは治療がスピーディに完了するため、コストも抑えた治療が受けやすいというメリットがあります。
近年ではセレック治療が保険適用で受けられる場合もありますので、治療に興味があるという方はまず一度歯医者さんで相談してみてはいかがでしょうか。
参考文献