義歯が合わないことによる痛みや不快感は深刻なものです。
そうした不具合を解消するためには、どのような方法をとればよいのでしょうか。
義歯を調整する手順や噛み合わせの変化の理由・義歯の調整を行うタイミングを解説します。
義歯の調整内容の種類と手順
義歯に不具合が生じた場合、どのような調整が行われるのでしょうか。その種類と手順を見ていきましょう。
義歯調整
義歯の不具合を確認し、適切に調整する作業を義歯調整と呼びます。義歯床を光に透かして破損の有無を確認したり、義歯の凹凸を手で触れて確認したりすることが含まれます。
外した義歯を確認し終えたら、次は患者さんに装着してもらいながらの調整です。
試験剤を使用し、患者さんに噛む動作をしてもらうことで痛む箇所を特定します。その後必要に応じて削る、磨くといった処置を行います。
義歯調整では、義歯そのものの状態だけでなく、患者さんのお口の中の特徴をつかむことも大切です。
粘膜調整
義歯が合わずに歯茎が痛んでいるときには、入れ歯と歯茎の間にやわらかく弾力性のある材料(ティッシュコンディショナー)を貼って調整します。これは歯茎の粘膜の変形や傷を健康な状態に戻すことが目的です。
やわらかい材料を使うことで傷を刺激から保護し、治療を促進させます。
リベース
義歯の内面を削り、新しく貼り替える治療をリベースといいます。粘膜調整後の義歯や、合わなくなった義歯に対して行う治療です。
リラインとも呼ばれる治療で、厳密にはリラインとリベースは区別されます。リラインは床裏装法とも呼ばれ、義歯床粘膜面がうまく合わなくなった際、義歯床粘膜面を一層削って置き換えることです。
一方リベースは改床法や床交換法と呼ばれ、人工歯部分以外の義歯床を置き換えることをいいます。ただし、広い意味では両者をリベースと呼ぶこともあります。
リベースには直接法と間接法があり、直接法はその場で義歯を調整すること、間接法は義歯を預かって技工室で調整を行うことです。それぞれに利点があり、義歯と患者さんの状態に応じて使い分けられます。
義歯の不具合を感じて、義歯の作り直しを希望する患者さんもいるかもしれません。しかし保険適用で作った義歯は、製作してから6ヶ月以上(歯型を取った日を起点とする)経過しないと、保険で新たに作成することができません。製作する場合は全額自己負担となってしまいます。
ただし以下の場合は例外となります。
- 遠隔地への転居のため通院ができなくなった場合
- 急性の歯科疾患のため、なくなった歯の数が変わってしまった場合
- 認知症または要介護状態のため義歯の管理が困難であり、義歯を使用できなくしてしまった場合。修理が困難なまでに破折した場合を含む。
- その他特別に認められる場合
以上のケースでは6ヶ月以内でも、保険診療での新たな作成が認められます。
義歯(入れ歯)の噛み合わせが変化する理由
義歯の噛み合わせはどうして変化してしまうのでしょうか。その理由を解説します。
変形しやすい素材のため
保険適用内で作った義歯は、プラスチックの部分が多い入れ歯です。プラスチックは変形しやすい素材のため、長期使用で噛み合わせが変化します。
入れ歯の状況は過酷です。冷たいものや熱いものなど温度差の厳しい状況下にあり、常に噛む力を受け止めていますが、この咀嚼圧は人の体重に近い程のものです。
また、不注意により義歯を落としたりすると強い衝撃も加わります。義歯の使用期間が長期にわたると人工の歯はすりへり、変形を起こす場合も少なくありません。
保険適用外では、プラスチック以外の素材を使用した義歯が作られる場合があります。例えば、金属床義歯は粘膜に接する部分が金属製です。
これにより清潔さが保たれ、薄くて丈夫、装着感がよいといった特徴があります。また、熱伝導性が高く、食事中に温度が伝わることで、食事をより楽しむことができるでしょう。
またBPS義歯とよばれるものでは、ライセンスを持った歯科医師が人工の歯や歯肉の樹脂により品質の高い材料を用い、長期間変化しにくく噛みやすい入れ歯を作製します。
歯茎や顎骨が変化するため
年齢とともにお口周りも変化します。歯茎が下がったり顎の関節や筋肉の変化のために顎の形が変わったりといった現象が起こるのです。
またお口の手入れが行き届いていないと、バネをかけている歯がむし歯や歯周病になり、噛み合わせが変わる原因になります。
変化した顎に合わなくなった義歯は不安定になり、痛みを招きます。また、入れ歯が割れる原因ともなるでしょう。
患者さんの変化に対応するためにも、義歯の定期的な検診が大切です。たとえ不具合を感じていない場合でも、歯科医院で検診を受けることをおすすめします。
義歯の調整を行うことで得られるメリット
義歯の調子が悪かったり痛みがあったりしても、我慢をしてそのまま使い続ける方は少なくないようです。また、入れ歯安定剤を使用する方もいらっしゃるでしょう。
しかし義歯は、我慢して使っていても自然によくはなりません。義歯の不具合を感じたときには、早めに歯科医院で調整することをおすすめします。義歯の調整を行うことで得られるメリットは以下のとおりです。
噛み合わせを適正に保てる
噛み合わせの状態や噛み方のクセにより、義歯のすり減り方にも箇所によって差が出るものです。その結果噛み合わせが変化し、快適に義歯が使えなくなってきます。
また、噛み合わせが悪くなると、むし歯や歯周病のリスクが増します。咀嚼がうまくできなくなり胃腸障害を引き起こすかもしれません。
人間の身体同様お口の中も、力がかかっても大丈夫な箇所とそうでない箇所があります。噛み合わせの力に耐えられるところと耐えられずに痛みが出るところがあるので、義歯を定期的に調整して、常に使う方に合った状態にすることが大切です。
口腔内・顎骨の状態を維持できる
義歯を常に適切な状態に保つことで、口腔内を健康に保ち、顎の骨の変形を防ぐことができます。噛み合わせがずれたままの放置は顎の関節に大きな負担を与え、顎関節症の原因にもなります。
また合わない義歯の使用により、歯肉や舌・粘膜の状態が悪化するかもしれません。それが原因で感覚や味覚の障害が生じる場合もあります。また唾液の分泌を妨げるので、口腔内の乾燥を招きます。
合わなくなった義歯を使い続けることは、痛みや不快感だけではなく体力低下や免疫力低下など身体全体に悪い影響を及ぼすでしょう。
義歯の寿命を延ばすためにも、毎日の適切なお手入れと定期的な検査はとても大切です。修復不可能になる前に調整をすることで、快適に入れ歯を使える状態を長く保つことができるでしょう。
義歯の調整を行うべきタイミング
義歯は定期的な調整を受けることが重要です。以下のタイミングで歯科医院を受診することをおすすめします。
痛みや不快感が生じている
痛みや不快感があるときは、早めに義歯の調整を行いましょう。我慢しているうちにさまざまな症状が現れ、悪化していくケースが少なくありません。
痛みを我慢し続けていたためお口のなかに潰瘍ができ、それがひどくなってしまうこともあります。重症の潰瘍は治療に時間がかかり、患者さんにも大きな負担です。
また、痛みや不快感により食事が難しくなると、全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。不快感を我慢しながら過ごし続けるのは、患者さんの生活の質を大きく落とします。
痛みを感じながら義歯に慣れることはあっても、不具合が自然に治ることはありません。痛みや不快感を覚えたときは、歯科医院で義歯の調整を受けることをおすすめします。
特に、以下のような症状がある場合は、入れ歯に問題があるかもしれません。
- 顎を動かすと入れ歯が鳴る
- 入れ歯を使うと痛くて噛めない
- 上の入れ歯が落ちてくる
- 下の入れ歯が浮く感じがする
- 口内炎ができる
- 入れ歯の金具が舌に当たる
- 入れ歯を入れるときにきつくて入りにくい
- 入れ歯をすると味がわからない
このような症状が感じられる場合は、歯科医院の受診をおすすめします。
前回の調整から1~2ヶ月経過している
歯茎の形が変わったり、義歯が部分的に壊れたりすり減ったりするので、義歯は特に痛みがなくても定期的な調整が必要です。おおむね1〜2ヶ月に1度、調整を受けるのがよいでしょう。
こまめに義歯の状態を検査し、調整を続けていくことで、義歯による痛みや不快感を予防します。また早めの対応をすれば、調整・治療の期間も短く費用も少なくすみますので、患者さんの負担軽減が可能です。
義歯の調整で重要な検査内容
義歯の調整では以下のような複数の検査を行い、さまざまな角度から義歯の状態をチェックして、患者さんにぴったりの義歯に整えるよう処置をしています。
咬合検査
噛み合わせの部分を調べる検査です。咬合紙(検査用の紙)を使用し、患者さんに噛んでもらうことで、色がついた箇所を確認して噛み合わせを調べます。噛み合わせのバランスに悪い箇所があれば、調整して整えます。
お口の中の感覚はたいへん繊細なので、噛み合わせの調整には精密さが必要です。
圧力検査
入れ歯の床部分の内面が歯茎に当たる強さを調べるものです。入れ歯の床の内面にペースト状の検査剤を塗り、歯茎への接触具合を確認します。検査剤が抜けている箇所は強く当たっている場所なので、調整します。
口腔内が空の状態や、ものを噛んでいる状態など、さまざまな条件での検査です。
適合検査
入れ歯の床と歯茎との適合性をみる検査です。シリコン系・ペースト系などの材料を用い、固まったときの厚みで判断します。総入れ歯の吸着向上を図る場合にも使用するものです。
動的印象(ダイナミック印象)
入れ歯の内面にやわらかい変形可能な材料を貼り、患者さんに着用してもらうことで、日常使用時の歯茎の動きを記録します。リベースの間接法の場合にも使用される方法です。
自分で義歯を調整できる?
入れ歯の痛みを感じて自分で削る方もいますが、自分での調整はおすすめできません。
自分で削ることで痛みが悪化したり、部分入れ歯の針金を曲げて入らなくなったりするケースも少なくありません。針金を折ってしまったという事例も存在します。
入れ歯が歯茎に当たって痛む場合は、内面が強く当たっているケースと、噛み合わせが原因で動いているケースがあります。まずそのどちらが原因で痛みが発生しているのか見極めなくてはなりません。
噛み合わせが原因である場合は、ご自身で入れ歯を削っても解決にはならず、削り方を誤ると義歯がゆるくなってしまいます。
義歯がゆるむと口腔内で動きやすくなり、噛み合わせがずれて痛みが悪化することがあります。我慢をしてもよくなるものではありません。また、義歯の無理な使用は顎の土手を減らす原因になります。
歯科医院では専門的な検査を行い、入れ歯の内面が当たって痛いのか噛み合わせが原因で痛いのかを判断して調整を行います。自分で入れ歯に手を加えて痛みを増す結果になるよりは、歯科医院で調整を受けて根本的な原因を解決し、適切な処置を受けましょう。
自分で義歯に手を加えることは避けるべきですが、日常の手入れで義歯を良好な状態に保つことはできます。
義歯は毎日・毎食後と就寝前に清掃をしましょう。入れ歯を外してから、お口とは別に清掃します。義歯専用のブラシを作って、水を注ぎながらきれいにしますが、洗面器の中で清掃すると、床に落として割れる心配がなくなります。歯磨き粉は使わないようにしましょう。義歯に傷が入り、汚れやすくなります。
義歯についた細菌はブラシだけでは取れません。週に1〜2界は入れ歯洗浄剤を併用しましょう。ただし入れ歯洗浄剤だけでもすべての汚れは落ちません。ブラシでの清掃も行いましょう。
就寝時は義歯を外すようにしましょう。寝ている間の口腔内は細菌が繁殖しやすく、義歯を入れておくと義歯に細菌が溜まってしまいます。また歯茎を休ませるためにも就寝時には義歯を外すのがよいでしょう。
義歯専用の容器を用意し、清潔な水の中で保管しましょう。水はきれいな状態のものを保つことが大切です。義歯を紙などに包んで置いておくと、破損したり誤って捨ててしまったりするおそれがあります。
これらに気をつけたうえで、義歯の定期検診を受けるようにしましょう。入れ歯の寿命や口腔内の健康を保つために、定期検診は欠かせません。
まとめ
合わない義歯を使用することは患者さんご自身に苦痛や我慢を強いるだけでなく、顎の骨の変形を招いたり、食べ物の摂取に障害を与えたりして全身の健康に影響するものです。
また義歯を調整せずに使いつづけることで義歯自体にも悪影響を及ぼし、義歯の寿命を縮める結果になります。義歯に不具合を感じたら、我慢をせずに歯科医院での調整を受けましょう。
義歯は使い続けるうちに摩耗したり変形したりしていきます。患者さんご自身の歯茎や顎の状態も変化していくでしょう。そのため義歯は、定期的な検査を受け、微調整を繰り返してよい状態を保つのがよいとされます。
ご自身で義歯に手を加えるとかえって義歯を傷めます。使えなくなる場合もあるので、義歯は必ず歯科医院でメンテナンスを受けましょう。
参考文献
- 入れ歯が痛いので自分で調整してみてもいいですか?|岩手医科大学歯学部歯科補綴学講座有床義歯補綴学分野
- 4班発表
- 【研究成果】「新入れ歯用粘膜治療材」を開発!製造販売を厚生労働大臣が承認|広島大学
- リラインとリベースのガイドライン|社団法人日本補綴歯科学会
- 入れ歯も定期検査を|福岡歯科大学医学歯科総合病院
- 有床義歯の管理について
- 義歯って調整必要なの?|岩手医科大学歯学部歯科補綴学講座有床義歯補綴学分野
- 入れ歯にはどのような種類があるのでしょうか?|岩手医科大学歯学部歯科補綴学講座有床義歯補綴学分野
- PIPとフィットチェッカーの違いについて|岩手医科大学歯学部歯科補綴学講座有床義歯補綴学分野
- 入れ歯・義歯|大阪大学歯学部附属病院