部分入れ歯は奥歯だけに入れられる？失った奥歯を放置するリスクや部分入れ歯の種類を解説

「奥歯がなくても大丈夫」と思っていませんか？実は、奥歯がないと咀嚼力が低下し、全身の健康にも悪影響を及ぼすことがあります。
本記事では部分入れ歯は奥歯だけに入れられるのかについて以下の点を中心にご紹介します。

• 奥歯の役割について
• 部分入れ歯の種類について
• 部分入れ歯は奥歯だけに入れられるのか

部分入れ歯は奥歯だけに入れられる？について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。

奥歯の役割とは

奥歯は、食事や口腔内の健康において欠かせない歯です。食べ物をしっかりと噛み砕き、すり潰して食塊と呼ばれる状態に整えることで、スムーズな嚥下と消化を助け、栄養の吸収効率も高めてくれます。なかでも第1大臼歯は、強い噛む力を持ち、歯列全体のバランスを保つ要ともいえる歯です。

また、奥歯は咀嚼だけでなく、噛み合わせを正しく保つうえでも重要な役割を担っています。奥歯を失うと噛む力が低下するといわれており、前歯に過度な力がかかることで問題が起こることもあります。

さらに、奥歯は顔の下半分の輪郭を支える構造にも関わっており、失ったままにしていると、見た目にも影響を及ぼします。

失った奥歯を放置するリスク

奥歯を失ったまま放置すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。主なリスクには、以下のようなものが挙げられます。

顔のバランスが変化する

奥歯を失ったままにしていると、見た目にも影響が表れます。奥歯は咀嚼の際に主に使われるため、失ってしまうと噛む力が偏ってしまいます。

例えば、片方だけで噛む癖がついてしまうと、使わなくなった側の咬筋（こうきん）が衰え、頬のハリが失われて顔の輪郭が内側に引き込まれるようになります。その結果、頬がこけたように見えてしまい、老けた印象を与えてしまうこともあります。

また、咀嚼のバランスが崩れることで、顔全体の左右差が目立つようになり、顔の歪みへとつながる可能性もあります。見た目の変化は周囲に気付かれやすく、ご自身でも鏡を見るたびに違和感を覚えるかもしれません。

歯並びが乱れる

奥歯を失った状態を長期間そのままにしておくと、歯並びにさまざまな悪影響を及ぼします。失った歯のスペースを補うように、隣の歯が傾いたり、噛み合う歯が徐々に伸びてきたりします。こうした歯の移動によって、全体の歯並びが乱れ、見た目だけでなく機能面にも支障が生じます。

歯並びが崩れると、歯と歯の間に食べかすがたまりやすくなり、むし歯や歯周病のリスクが高まる原因にもなります。さらに、片側でばかり噛むクセがつくと、噛み合わせのバランスが崩れて顎関節に負担がかかり、顎関節症や肩こり、頭痛といった全身の不調にもつながりかねません。

消化器官に負担がかかる

奥歯は、食べ物を細かくすり潰し、飲み込みやすい形に整える役割を担っています。この奥歯を失ったままにしていると、食べ物を十分に噛めずに大きなまま飲み込んでしまいがちです。その結果、胃や腸などの消化器官での処理が追いつかず、消化不良を引き起こす可能性があります。

また、噛む回数が減ることで唾液の分泌量も減少します。唾液には、お口の中を清潔に保ち、食べ物の消化を助ける働きがありますが、その量が不足すると口内環境の悪化やむし歯、歯周病のリスクが高まります。加えて、口腔内や消化器の不調は、口臭の原因になることもあります。

発音が悪くなる

奥歯を失うと、発音にも影響が出ることがあります。歯は言葉を発する際に空気の流れや舌の動きをコントロールする重要な役割を果たしており、その一部が欠けることで、発音時に息が漏れたり、舌の動きに変化が生じたりします。その結果、言葉が聞き取りにくくなったり、滑舌が悪くなったと感じることもあるでしょう。

また、奥歯の欠損を放置すると周囲の歯茎や筋肉のバランスが崩れ、口元や頬の輪郭に変化が現れる場合もあります。

部分入れ歯は奥歯だけに入れられるのか

部分入れ歯は、奥歯を1本だけ失った場合にも対応している補綴治療のひとつです。 人工の歯と固定用の金具などで構成されており、残っている周囲の健康な歯を支えにして装着します。

そのため、ほかの歯を大きく削る必要がなく、身体への負担も少なく済みます。見た目の自然さを重視した設計もでき、日常生活における咀嚼機能の回復や会話のしやすさといった面も特徴です。

奥歯を部分入れ歯にするメリット

ここでは、奥歯を部分入れ歯にする主なメリットをご紹介します。

健康保険が適用される

奥歯を補う方法として部分入れ歯を選ぶメリットのひとつが、健康保険の適用を受けられる点です。保険が使えることで、自己負担を抑えながら機能的な治療を受けられます。

保険診療の部分入れ歯は、プラスチック製の床部分と金属製の留め具で構成されており、隣接する歯に固定して使用します。費用面での負担が少なく済むため、経済的な事情を考慮したい方や初めて入れ歯を検討する方におすすめの選択肢です。

適応範囲が広い

部分入れ歯は、幅広い症例に対応できる治療法です。1本だけ歯を失った場合はもちろん、複数本、あるいはすべての歯を失った場合にも対応し、治療の自由度が高い点が特徴です。また、外科的な処置が不要なため、全身疾患がある方や手術に不安がある方にも推奨されています。

健康な歯を削る必要がなく、周囲の歯に過剰な負担をかけることもありません。さらに、麻酔や骨の状態に関する条件も厳しくないため、年齢や体調に関わらず選択しやすい治療法です。こうした理由から、部分入れ歯はリスクを抑えつつ取り組める補綴手段のひとつといえるでしょう。

取り外しができる

部分入れ歯の大きなメリットのひとつは、ご自身で簡単に着脱できる点です。食後や就寝前に取り外して丁寧に洗浄できるため、口腔内を清潔に保ちやすく、むし歯や歯周病の予防にもつながります。固定式のブリッジやインプラントと異なり、目に見える形で汚れを落とせるため、毎日のケアがしやすいのも魅力です。

また、入れ歯の使用に慣れるまでの間は、装着時間を調整することで違和感や痛みへの対処もしやすくなります。さらに、必要に応じて調整や修理ができるため、長く使い続けやすい治療法です。

奥歯を部分入れ歯にするデメリット

ここでは、奥歯を部分入れ歯にする主なデメリットをご紹介します。

違和感を感じやすい

部分入れ歯は手軽に歯を補える反面、装着時に違和感を覚えることが少なくありません。入れ歯は歯茎に乗せて使用する構造のため、ブリッジやインプラントのようにしっかり固定されているわけではなく、動きや圧迫感を感じることがあります。

特に保険適用のタイプでは、強度を保つために床部分が厚めになっており、その分、装着時の異物感や話しづらさ、食事中の熱の伝わりにくさといった不便を感じるケースもあります。

こうした違和感は、使い続けるうちに徐々に慣れていきますが、最初は戸惑いや不快感を感じることを理解しておく必要があります。

噛む力が弱くなる

部分入れ歯は、噛む力が低下するというデメリットがあります。

特に保険適用のタイプは、プラスチック製の義歯床と金属製のバネで構成されており、天然歯よりも十分な強度を得にくいため、しっかりと噛む力が発揮しづらく、硬い食品を食べる際に違和感を覚える方も少なくありません。

また、入れ歯に慣れるまでの間は噛み合わせが安定しにくく、無理に使用すると痛みが出ることもあります。

自費診療ではより噛みやすさを追求した選択肢もありますが、費用や治療期間の面で制限がある場合もあるため、ライフスタイルに合わせた選択が求められます。

審美性や強度が劣る

保険適用の部分入れ歯はコストを抑えて治療できる一方で、見た目や耐久性の面でデメリットがあります。金属のバネ（クラスプ）は装着時に目立つことがあり、笑ったり話したりする際に気になる方も少なくありません。

また、歯茎を覆う部分はプラスチック製であるため、強度を保つには一定の厚みが必要です。この厚みによって装着時の違和感が出ることもあります。逆に、快適性を優先して薄く仕上げた場合は、割れや欠けが起きやすくなるリスクもあるため注意が必要です。

審美性や耐久性を重視する場合には、自費診療でより自然で丈夫な素材を選ぶという選択肢もありますが、費用や治療方針とのバランスを見ながら検討することが重要です。

奥歯に使用される部分入れ歯の種類

奥歯に使用される部分入れ歯には、いくつかの種類があります。
ここでは、保険適用と自由診療に分けてご紹介します。

保険適用の部分入れ歯（レジン床義歯）

保険診療の範囲内で製作されるレジン床義歯は、奥歯の欠損に対して広く用いられている部分入れ歯の一種です。

歯茎に接する部分はプラスチック樹脂でできており、人工の歯と金属製のバネ（クラスプ）を組み合わせることで、周囲の歯に固定します。保険が適用されるため、費用を抑えながら短期間で治療を進められます。

また、破損時にも修理がしやすく、調整も容易です。ただし、先述したように強度を確保するために床部分が厚めに作られており、装着時に違和感を覚えることがあります。また、金属のバネが目立ちやすく、見た目が気になる方にとっては審美性に課題が残る場合もあります。

自由診療の部分入れ歯

自由診療の主な部分入れ歯について、5つ解説します。

シリコーン義歯

シリコーン義歯は、歯茎に触れる部分にやわらかいシリコーン素材を使用した自由診療の部分入れ歯です。シリコーンの弾力性により、装着時の痛みや圧迫感を軽減し、噛んだときの衝撃も吸収してくれるため、入れ歯に慣れていない方や歯茎が敏感な方に推奨されています。

また、歯茎の形状に沿ってしなやかに変形するため、高いフィット感が得られ、動きにくく安定性もあります。ただし、やわらかい素材ゆえに強度面ではやや劣る点や、汚れが付着しやすく手入れに手間がかかるといった注意点もあります。

ノンクラスプデンチャー

ノンクラスプデンチャーは、金属のバネ（クラスプ）を使わずに作られる審美性を持つ自由診療の部分入れ歯です。装着時に目立ちにくく、入れ歯であることが気付かれにくいため、見た目を重視する方に好まれています。

柔軟性のある特殊な樹脂素材でできており、歯茎や周囲の歯に優しくフィットし、装着感も軽やかです。

一方で、樹脂素材は耐久性にやや劣り、使用状況によっては数年で交換が必要になることもあります。また、破損時の修理が難しく、再製作が必要になる場合もあります。

金属床義歯

金属床義歯は、入れ歯の土台部分に金属を使用することで、薄くても強度のある部分入れ歯です。素材にコバルトクロムやチタンなどの金属を用いることで、丈夫で耐久性を持ち、長期間の使用にも耐えられるのが特徴です。

床部分が薄く仕上げられるため、装着時の違和感が少なく、会話や食事がスムーズに行えるというメリットもあります。 さらに、金属の熱伝導性により、食べ物や飲み物の温度を感じやすく、食事の楽しみが損なわれにくい点もメリットです。

ただし、設計によっては金属部分が見えてしまうことがあり、審美性に配慮が必要なケースもあります。また、金属アレルギーを持つ方は使用できない可能性があるため、事前の確認が重要です。

コーヌスクローネ義歯

コーヌスクローネ義歯は、内冠と外冠という二重構造を持つ特殊な部分入れ歯で、残っている歯に内冠を被せ、その上から入れ歯側の外冠をぴったりとはめ込むことで固定されます。

見た目に金属のバネが露出せず、審美性に配慮された部分入れ歯です。さらに、装着時の安定性があり、会話や食事中にもズレにくいため、快適に使用できます。

また、力が歯に対してまっすぐ伝わる構造のため、歯への負担が少なく、残存歯の保護にもつながります。ただし、精密な加工技術が必要となるため治療費が高額になりやすく、支えとなる歯を削る必要がある点には注意が必要です。

マグネット義歯

マグネット義歯は、磁力を利用してしっかりと固定するタイプの部分入れ歯で、安定感と見た目の自然さを両立する自由診療の選択肢です。

残っている歯やインプラントの上部に磁性体を取り付け、入れ歯側には小型の磁石を埋め込むことで、磁力によって入れ歯がずれにくくなります。

バネを使用しないため、装着しても金属が目立ちにくく、見た目が気になる方におすすめです。また、着脱がスムーズで手入れがしやすく、使いやすさも魅力です。 ただし、磁石を取り付けるには歯を削る必要があるため、事前に十分な検討が必要です。

奥歯に使用される部分入れ歯の費用

これまで述べてきた奥歯に使用される部分入れ歯は、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。 最後に、保険適用と自由診療の部分入れ歯の費用を解説します。

保険適用の部分入れ歯の費用

保険診療で製作する部分入れ歯は、3割負担の場合、奥歯1本分の部分入れ歯であれば、5,000円〜1万円程度が相場となります。

費用は全国一律で設定されているため、どの歯科医院で作ってもほとんど差はありません。コストを重視したい方や初めて入れ歯を検討する方にとっては、手軽に始められる選択肢といえるでしょう。

自由診療の部分入れ歯の費用

自由診療の部分入れ歯について、代表的な種類ごとの費用の目安を紹介します。

• 金属床義歯：30万〜50万円
• ノンクラスプデンチャー：15万〜35万円
• シリコーン義歯：20万〜30万円
• コーヌスクローネ義歯：30万〜60万円
• マグネット義歯：20万〜60万円

自由診療は、同じ種類の入れ歯でも歯科医院によって価格が異なることもあるため、事前の見積もりや説明を受けることが大切です。

まとめ

ここまで部分入れ歯は奥歯だけに入れられる？についてお伝えしてきました。部分入れ歯は奥歯だけに入れられる？の要点をまとめると以下のとおりです。

• 奥歯は、食事や口腔内の健康において欠かせない歯で、咀嚼により栄養の吸収効率も高めたり、噛み合わせを正しく保ったり、顔の下半分の輪郭を支える構造にも関わっている
• 部分入れ歯の種類は、保険適用のレジン床義歯や自由診療のシリコーン義歯、ノンクラスプデンチャー、金属床義歯、コーヌスクローネ義歯、マグネット義歯などがある
• 部分入れ歯は、奥歯を1本だけ失った場合にも対応している補綴治療のひとつ

奥歯の喪失は生活の質にさまざまな影響を与えることがわかりました。ご自身に合った部分入れ歯を上手に活用し、健康的な食生活を取り戻しましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。