合わない入れ歯に対しては、いろいろな方法で調整を加えることができます。人工歯が摩耗していれば新しいものに交換したり、クラスプを調整したりすることで、使用感・装着感を向上できます。そのなかには入れ歯の裏打ちという少し大がかりな調整方法もあります。ここでは入れ歯の裏打ちの特徴やメリット・デメリット、処置の流れについて解説します。歯科医院で入れ歯の裏打ちを提案され、どうしようか迷っている方は参考にしてみてください。
入れ歯の裏打ちについて
はじめに、入れ歯の裏打ちの特徴や目的、必要となるケースなどについて解説します。
- 入れ歯の裏打ちとは何ですか?
- 入れ歯の裏打ちとは、その名のとおり入れ歯の裏側に専用の歯科材料を貼り付けて、適合性を高めるための処置です。専門的にはリラインと呼ばれています。入れ歯の裏打ちは、入れ歯を使っていくなかで不具合を感じたときに行うものなので、すべてのケースで必要となる処置ではありません。
- 入れ歯の裏打ちを行う目的を教えてください
- 入れ歯の裏打ちを行う主な目的は、以下のとおりです。
◎入れ歯の適合性を高める
入れ歯は、義歯床の部分が口腔粘膜に密着する形で適合します。そのため歯茎や顎の骨の形状が変化すると、入れ歯の適合性が低下し、違和感や異物感が生じることになります。そんなときに入れ歯の裏打ちを行うことで、低下した適合性を高められるのです。
◎入れ歯による痛みやガタつきを軽減する
安静時にぴったり適合している入れ歯でも、会話や食事の際に痛みやガタつきが生じることもあります。私たちの口腔内は、言葉を発したり、食べものを噛んだりする際にとても複雑な動きをするため、入れ歯がその運動についていけないのです。こうしたケースでも適切な材料で裏打ちすることで、入れ歯による痛みやガタつきを軽減できます。
◎入れ歯の寿命を延ばす
適合性が低下したり、ガタつきが大きくなったりした入れ歯は、口腔組織の変化に合わせて新しいものに作り直すことをおすすめしますが、患者さんの経済面や心身にかかる負担を考えた場合、裏打ちで対応した方がよいこともあります。入れ歯の裏打ちなら、入れ歯を新しく作り直すよりも安い費用で済みますし、患者さんの心身にかかる負担も軽くなります。
◎お口の健康を維持する 合わない入れ歯を無理に使っていると、口腔粘膜に炎症が起きたり、細菌・真菌への感染リスクが高まったりします。これらのリスクを軽減する目的で入れ歯の裏打ちを行うこともあります。
- 入れ歯の裏打ちはどのような素材を使いますか?
- 入れ歯の裏打ちに使用する素材は、硬質リライン材と軟質リライン材の2つに大きく分けられます。
◎硬質リライン材
硬質リライン材とは、文字どおり硬めの素材でアクリルレジンが主成分です。常温で固まるものと、光照射をして固めるものがあり、歯茎や歯槽骨に異常がないケースに適応されます。
◎軟質リライン材
軟質リライン材とは、粘膜が薄く、歯槽骨が入れ歯にあたりやすくなっているようなケースに適応される素材で、シリコーンが主成分です。口腔粘膜にやさしく沿うようにフィットするため、痛みなどの不快症状が現れにくいです。
- 入れ歯の裏打ちはどのようなときに必要になりますか?
- 入れ歯が合わないと感じていて、人工歯の高さや粘膜面の調整だけでは改善が難しい症例に必要となります。合わない入れ歯に対しては、裏打ち(リライン)のほかにも義歯床の部分を大幅に修正するリベースや入れ歯を作り直す新製があり、どの方法が適しているかは症例によって変わります。
裏打ちするメリット
次に、入れ歯の裏打ちを行うメリットについて解説します。
- 入れ歯の裏打ちをすることで得られるメリットは何ですか?
- 不具合がある入れ歯に対して裏打ちを行うと以下に挙げるメリットが得られます。
◎入れ歯の安定性が高まる
裏打ちによって入れ歯がぴったり適合するようになると、安定性や装着感が向上します。
◎噛み心地が改善する
入れ歯と口腔粘膜との間に不要な隙間がなくなり、食べものをしっかり噛めるようになります。
◎安心感が得られる
ズレたり外れたりする入れ歯を使っていると、日常生活においてストレスを感じやすくなります。裏打ちによって入れ歯の安定性が高まれば、食事や会話で不便やストレスを感じる場面も少なくなることでしょう。
◎医療費を抑えられる
合わない入れ歯に対しては、新しく作り直すという選択肢も用意されていますが、裏打ちで対応することで治療にかかる費用を大きく抑えられます。
- 裏打ちによって入れ歯の寿命はどのくらい延びますか?
- 裏打ちを行うことで、入れ歯の寿命がどのくらい延びるかは一概に語ることが難しいです。裏打ちによって入れ歯の寿命が半年から1年くらい延びることもあれば、大きな改善が見られず、2〜3ヶ月でリベースや入れ歯の新製が必要なることもあるからです。
- 裏打ちをすることで噛み心地が変わるのか教えてください
- 入れ歯の状態によっては、噛み心地が改善されることがあります。特に入れ歯で噛むとガタついたり、ズレたりしやすいケースでは、噛み心地が改善するような処置を施してくれるはずです。
裏打ちするデメリット
続いては、入れ歯の裏打ちを行うデメリットについて解説します。
- 裏打ちにはどのようなデメリットがありますか?
- 入れ歯の裏打ちには、以下に挙げるデメリットを伴うことがあります。
◎入れ歯に厚みが出る
リライン材によって入れ歯に厚みが出ると、お口のなかが狭く感じる、発音がしにくくなる、入れ歯が逆に外れやすくなる、入れ歯が重くなるといった症状に悩まされる場合があります。
◎入れ歯の見栄えが変わる
入れ歯に裏打ちをすると、リライン材の厚みによって正中がズレたり、見栄えが変わったりすることがあります。
- 入れ歯の裏打ち後に違和感が生じることはありますか?
- あります。裏打ちによって入れ歯と粘膜の適合性は向上するものの、入れ歯の厚みが増したり、左右のバランスが崩れたりすることで、違和感を覚えるケースは珍しくありません。こうした違和感は、軽度であればすぐに慣れます。
- 裏打ちを繰り返すことによる問題点を教えてください
- 裏打ちを行う際には、義歯床をある程度、削らなければならないことも多々あります。つまり、裏打ちを繰り返すことで入れ歯自体にダメージが蓄積していくため、入れ歯の寿命も自ずと低下します。
入れ歯の裏打ち処置の流れ
最後に、入れ歯の裏打ちを行う流れを解説します。
- 入れ歯の裏打ち処置はどのような手順で行いますか?
- 裏打ちの直接法(常温重合型レジンによる操作)は、以下の手順で行います。
① 義歯床粘膜面を一層削除して、専用の接着剤を塗布
② リライン材を混和して、義歯床粘膜面全体に均等に盛り、お口のなかに挿入
③ 軽く噛んだ状態で,筋圧形成(筋形成・辺縁形成)を行う
④ 入れ歯を口腔外に取り出して余剰なレジンを除去し、口腔内に装着してレジンの硬化を待つ
⑤ 十分に硬化させた後、入れ歯を口腔外に取り出す
⑥ 形態修正や咬合調整を行って仕上げの研磨を行う
- 入れ歯の裏打ちにはどのくらいの時間がかかりますか?
- 入れ歯の裏打ちを直接法で行う場合には、30〜45分程度の時間がかかります。入れ歯の状態や歯科医師の技術によって、裏打ちにかかる時間には大きな差が見られます。
- 入れ歯の裏打ちは何回まで可能か教えてください
- 入れ歯の裏打ちに厳密な回数制限は設けられていません。ただ、上段でも解説したとおり、入れ歯の裏打ちを繰り返すと、材料の劣化や耐久性の低下を伴うことから、何回も行わない方が望ましいのは確かです。入れ歯の状態によっては、裏打ちを1〜2回しか行えない場合もありますので、気になる方は主治医に相談しましょう。
編集部まとめ
今回は、入れ歯の裏打ちの特徴やメリット・デメリット、処置の流れについて解説しました。入れ歯の装着感が低下したり、ズレたり外れたりするようになったら、入れ歯の裏打ち(リライン)で改善できることがあります。入れ歯の粘膜面に専用の素材を盛り足して適合性を高める処置で、装着感や噛み心地が向上する一方、厚みが出て見栄えが変わったり、入れ歯が重くなったりするデメリットも伴うことがあります。とはいえ裏打ちは、入れ歯の不具合を簡便で安価な方法によって適合性が高められるものなので、多くの方に推奨できます。
参考文献