“入れ歯の6ヶ月ルール”をご存じでしょうか?入れ歯が合わなくなったり、壊れてしまった場合でも、すぐに新しいものを作れないことがあるため、患者さんにとっては不便や不安を感じることも少なくありません。
本記事では入れ歯の6ヶ月ルールについて以下の点を中心にご紹介します。
- 入れ歯の6ヶ月ルールについて
- 入れ歯が合わなくなる原因
- 入れ歯が合わない場合の対処法
入れ歯の6ヶ月ルールについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
入れ歯の6ヶ月ルールとは?
入れ歯の6ヶ月ルールとは、保険診療で新しい入れ歯を作る場合、前回の製作から6ヶ月以上経っていないと保険が使えないという制度です。
このルールは、医療費を適正に管理する目的で全国共通で定められており、たとえほかの歯科医院に変わっても同じように適用されます。
ただし、入れ歯の調整や修理については、6ヶ月以内でも保険が適用されます。
入れ歯の6ヶ月ルールの例外
入れ歯の6ヶ月ルールとは、保険診療で新しい入れ歯を製作する際、前回の歯型採取日から6ヶ月以上経過していなければならないという規定です。
ただし、以下のような例外があります。
- 入れ歯の破損や紛失
物理的な損傷や紛失があった場合は、6ヶ月以内でも保険適用で再製作できます。 - 抜歯による歯数の変化
抜歯で口腔内の状況が変わった場合、新たに入れ歯を製作できます。 - 上下いずれかの入れ歯のみ製作済みの場合
片側の入れ歯だけ製作していた場合、もう一方を新たに作ることが認められます。 - 自費診療での製作
保険適用外の自費診療であれば、6ヶ月以内でも新しい入れ歯を製作できます。
入れ歯が合わなくなる原因
ご自身の歯に合うように製作したはずの入れ歯ですが、なぜ合わなくなっていくのでしょうか。
歯茎と顎の骨が痩せるため
入れ歯が合わなくなる原因の一つ目に、歯茎や顎の骨が痩せることが挙げられます。 入れ歯は顎の骨によって支えられていますが、加齢や骨粗鬆症、糖尿病などの影響で顎の骨が減少すると、歯茎も痩せてしまいます。その結果、入れ歯が合わなくなり、外れやすくなったり、隙間ができてガタつくことがあります。
入れ歯が合わなくなると、噛み合わせが悪くなり、食事や会話がしにくくなるだけでなく、口腔内に痛みや炎症を引き起こすこともあります。
入れ歯の劣化が進むため
入れ歯が合わなくなる原因の2つ目に、入れ歯自体の経年劣化が挙げられます。 入れ歯は日常的に使用することで少しずつ摩耗し、素材が変形したり噛み合わせがずれたりすることがあります。
なかでも、保険適用の入れ歯は、プラスチックや金属といった素材が使われているため耐久性が低く、経年劣化によって擦り減ったり変形したりしやすいです。
入れ歯のは、劣化が進むと噛み合わせが悪くなり、外れやすくなるなどの問題が生じます。
入れ歯のお手入れ不足のため
入れ歯が合わなくなる原因の3つ目に、日々のお手入れ不足が挙げられます。
入れ歯は使用することで食べ物の残りかすや細菌が付着しやすく、これを放置すると汚れが固まり、入れ歯の形状が変わることがあります。
その結果、入れ歯が歯茎に合わなくなり、痛みや不快感を引き起こす可能性があります。
また、入れ歯を長時間装着し続けることも問題です。
就寝時に入れ歯を外さずにいると、歯茎が常に圧迫され血行が悪くなり、歯茎が萎縮してフィット感が低下します。
さらに、誤ったお手入れ方法も入れ歯の劣化を早める原因です。
熱湯での消毒や歯磨き粉の使用、硬いブラシでの清掃は、入れ歯を傷つけたり変形させたりする恐れがあります。
入れ歯を長く快適に使うためには、毎日のお手入れが欠かせません。
就寝前には入れ歯を外し、専用の洗浄剤で清掃し、歯茎を休ませる時間をつくりましょう。
合わない入れ歯を使い続けるとどうなるのか
合わない入れ歯を使い続けることで、どのような問題が生じるのでしょうか。
口腔機能が衰える
合わない入れ歯を使い続けると、口腔機能が徐々に衰える可能性があります。
口腔機能とは、食べ物を噛む、飲み込む、話すといった、日常生活に欠かせない基本的な動作です。
入れ歯が合っていないと、これらの機能に支障が出てしまいます。
例えば、噛み合わせの乱れによって顎の筋肉が正しく使われず、筋力が低下します。
また、入れ歯がずれて食べ物がうまく噛めなくなり、消化不良や栄養不足につながることもあります。
発音が不明瞭になり、会話がしにくくなるといった問題も起こります。
さらに、これらの症状は口腔機能低下症と呼ばれる状態に進行する可能性があります。
口腔機能低下症は、食事や会話の質だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼします。
残りの歯に負担がかかる
合わない入れ歯を使い続けると、残っている健康な歯(残存歯)に大きな負担がかかり、寿命を縮める可能性があります。
部分入れ歯は金具(クラスプ)で周囲の歯に固定されていることがありますが、入れ歯がフィットしていないと、この金具に不均等な力がかかってしまいます。その結果、支えとなる歯に過剰なストレスが加わり、歯周病や歯のグラつきが起こりやすくなります。
さらに、噛み合わせが不安定になることで、一部の歯に力が集中し、残存歯が傾いたり、噛み合わせのバランスが崩れたりすることもあります。こうした状態が続くと、残っている歯の寿命が短くなり、最終的に抜歯が必要になることもあります。
顎の骨に負担がかかる
合わない入れ歯を使い続けると、顎の骨や顎関節に過度な負担がかかり、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。
まず、噛み合わせが悪い入れ歯を長期間使っていると、顎関節に不均等な力が加わり、顎関節症を発症しやすくなります。これは、お口の開閉時に痛みや違和感を伴うもので、食事や会話がしづらくなることもあります。
また、入れ歯がしっかりフィットしていないと、顎の骨に過度な圧力がかかり、骨の吸収が進行してしまいます。その結果、顎の骨が痩せて、入れ歯の安定性がさらに低下するという悪循環に陥ることがあります。
さらに、合わない入れ歯によって顎の筋肉が常に緊張状態になると、頭痛や肩こりなど全身的な不調を引き起こすこともあります。
歯茎に負担がかかる
合わない入れ歯を使い続けると、歯茎に過度な負担がかかり、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。
まず、入れ歯がフィットしていないと、食事や会話の際に動いてしまい、歯茎やお口の粘膜を擦って傷を作ることがあります。その結果、炎症や痛みが生じ、口内炎や潰瘍につながることもあります。
また、不適合な入れ歯は歯茎に均等な力をかけられず、一部分にだけ負担が集中します。これによって、歯茎の腫れや出血が起こることも少なくありません。
さらに、入れ歯のすき間に食べ物のカスが入り込むと、歯茎を刺激して痛みを引き起こすことがあります。こうした状態が続くと、口腔内の衛生状態が悪化し、炎症や感染症のリスクも高まります。
このようなリスクを避けるためにも、入れ歯に違和感を感じたら早めに歯科医院を受診し、調整や修理を行うことが大切です。
入れ歯が合わない場合の対処法
入れ歯が合わないと感じた際の対処法を2つ紹介します。
オーダーメイドで入れ歯を製作する
入れ歯が合わずに”噛めない” ”痛みが出る”といったトラブルが続く場合の対処法のひとつがオーダーメイドの入れ歯を製作することです。
保険適用の入れ歯は、使用できる素材や製作方法に制限があり、どうしても万人向けの設計になりがちです。そのため、個々の口腔内の形や噛み合わせにぴったり合わず、装着時の違和感や痛み、噛みにくさを感じることが少なくありません。
一方、自費診療で作るオーダーメイド入れ歯は、患者さん一人ひとりの状態や希望に合わせて、素材や設計を自由に選択できます。フィット感や噛み心地、見た目の自然さが改善されるケースが多く、長期的な快適さや耐久性も期待できます。
合わない入れ歯でお悩みの方は、オーダーメイド入れ歯を選択肢のひとつとして検討することで、より快適な食事や会話が実現しやすくなります。保険診療よりも費用はかかりますが、その分、納得感や生活の質の向上が期待できる選択肢です。
セカンドオピニオンを検討する
入れ歯がなかなか合わず、調整や作り直しをしても違和感や痛みが解消しない場合には、セカンドオピニオンの活用がおすすめな対処法です。
セカンドオピニオンとは、現在治療を受けている歯科医院とは別の歯科医師に意見を求めることを指します。入れ歯が合わない原因は、患者さんの口腔内の状態だけでなく、歯科医師の診断力や治療方針の違いにも影響されるため、別の視点からの診察が役立つ場合があります。
ほかの歯科医師に相談することで、これまでとは異なる診断や治療方法の提案が得られ、問題の根本原因が明らかになるケースもあります。また、自身に合った入れ歯の製作方法や調整方法が見つかる可能性も高まります。
複数の意見を聞くことで、治療に対する不安が和らぎ、納得したうえで前向きに治療を受けられるでしょう。
入れ歯の不具合が続くときは、ひとつの歯科医院にこだわらず、セカンドオピニオンを積極的に検討することが、よりよい治療結果への第一歩となります。
入れ歯を製作する場合の費用相場
入れ歯を製作する際、部分入れ歯と総入れ歯でそれぞれどれくらいの費用がかかるのでしょうか。
部分入れ歯
部分入れ歯を検討する際、保険適用か自費診療かによって、費用や快適さが大きく異なります。
保険適用の部分入れ歯は、主にプラスチック製で、費用を抑えられるのが特徴です。3割負担の場合、5,000円〜1万5,000円が相場です。ただし、保険の部分入れ歯は厚みがあり違和感を覚えやすい、耐久性がやや劣るなどのデメリットもあります。
一方、自費の部分入れ歯は、素材や設計の自由度が高く、審美性や快適さに長けている反面、費用は高額です。例えば、金属床義歯(コバルトクロム床)は20〜27万円、チタン床義歯は29〜33万円が目安です。また、シリコーン義歯は10〜50万円、ノンクラスプ義歯(バネのないタイプ)は10〜24万円(種類によっては70万円程度)とされています。磁性アタッチメント義歯やほかの特殊なタイプもあり、それぞれ特徴や価格帯が異なります。
入れ歯の種類や費用に不安がある方は、事前に歯科医院でしっかり相談し、ご自身に合った方法を選ぶことが大切です。
総入れ歯
総入れ歯を製作する際の費用は、保険か自費かによって大きく変わります。それぞれの特徴と相場を知ることで、納得できる選択ができるでしょう。
保険適用の総入れ歯は、主にアクリルレジンというプラスチック素材で作られ、費用は3割負担の場合で片顎8,000円〜2万円、相場は15,000円前後となっています。保険の総入れ歯は費用が抑えられる一方で、厚みや違和感、見た目の自然さに限界があることも特徴です。
一方、自費診療で作る総入れ歯は、素材や設計の自由度が高く、金属床やシリコン、特殊な磁石を使ったタイプなど、さまざまな選択肢があります。自費の総入れ歯の費用相場は、片顎で30万円〜100万円と幅広く、選ぶ素材や技術によって価格が変動します。自費の総入れ歯は、見た目の美しさや装着時の快適さ、耐久性があり、個々の口腔状態や希望に合わせたオーダーメイドが期待できます。
このように、総入れ歯の費用は選ぶ治療方法によって大きく異なるため、機能性や審美性、予算を考慮した選択が大切です。
まとめ
ここまで入れ歯の6ヶ月ルールについてお伝えしてきました。入れ歯の6ヶ月ルールの要点をまとめると以下のとおりです。
- 入れ歯の6ヶ月ルールとは、保険診療で新しい入れ歯を製作する際に前回の製作から6ヶ月以上経過していないと保険適用が認められない制度
- 入れ歯が合わなくなる原因は歯茎と顎の骨の痩せ、入れ歯の劣化、お手入れ不足などが挙げられるため、定期的な歯科検診や入れ歯の調整が重要
- 入れ歯が合わない場合、自費でオーダーメイドで入れ歯を製作したり、セカンドオピニオンを検討することで対処できる可能性がある
6ヶ月ルールは、入れ歯を快適に使い続けるための大切な目安です。定期的なチェックや調整を怠らず、早めに不具合を発見・対処することで、口腔内の健康を守りながら、いつもご自身に合った入れ歯を維持できます。
歯科医師としっかり連携し、このルールを意識したケアを心がけることで、安心して毎日を過ごせるでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。