入れ歯は見た目を整えるだけでなく、噛む・話すといった日常生活を支える大切な存在です。しかし、入れ歯の作製にはある程度の時間がかかるため、「完成までどのくらいかかるの?」「その間、歯がない状態で過ごすの?」と不安に感じる方も少なくありません。
この記事では、入れ歯が完成するまでの流れや通院回数、完成までにかかる日数の目安、そして入れ歯がない期間の過ごし方について詳しく解説します。これから入れ歯を検討される方や、歯を失ったばかりで不安な方の参考になれば幸いです。
入れ歯を作るまでの流れ
- 入れ歯を作るまでに何度も通院する必要がありますか?
- はい、入れ歯を作るためには複数回の通院が必要になります。通常は4〜7回程度の来院が必要とされており、患者さんのお口の状態や作製する入れ歯の種類によっても異なります。
これは、入れ歯が単なるモノではなく、患者さんのお口の形や噛み合わせに対応して、一点ずつオーダーメイドで作る医療器具であるためです。しっかりと合った入れ歯を作るには、精密な型取りや噛み合わせの確認など、段階的な工程が必要になります。
- 通院中に行われる治療内容を教えてください
- 一般的に通院中に行われる治療内容は、主に以下のとおりです。(総入れ歯の場合の一例です)
【診察・カウンセリング】
口腔内を診察して、残っている歯、むし歯や歯周病の有無、顎の動きなどを詳しく確認します。同時に、患者さんの要望や不安について丁寧にヒアリングを行い、治療計画を立てていきます。
入れ歯を装着する際には、口腔内の環境がよい状態でなければなりません。よって、むし歯や歯周病がある場合は、それらの治療を優先的に行います。残せない歯がある場合は、抜歯することもあります。
【型取り・噛み合わせの記録】
治療計画が決まり、口腔内の環境が整ったら、型取りや噛み合わせの記録を行います。その記録をもとに、歯科技工士が仮の入れ歯を作ります。
【試し入れ】
仮の入れ歯を装着し、見た目や噛み合わせ、発音の様子などを確認します。必要に応じて入れ歯の調整を行います。
【入れ歯の完成・装着】
最終的な入れ歯を装着し、噛み合わせや装着感の調整を行います。完成後も違和感や痛みがあれば、数回に分けて微調整を行います。
入れ歯の作製日数目安
- 入れ歯は何日でできますか?
- 通常、保険診療の入れ歯であれば2〜4週間程度で完成するのが一般的です。ただし、これはスムーズに通院できた場合の目安であり、患者さんの都合や口腔内の状態によって前後します。
一方、自由診療の入れ歯では、作製に1〜3ヶ月ほどかかります。自由診療の入れ歯はより精密に作られる分、完成までに時間がかかるためです。
なお、入れ歯の完成までの期間は、抜歯の本数や傷の治癒具合、口腔内の状態などによっても大きく異なります。特にすべての歯を失って総入れ歯を作る場合や、高齢で回復に時間を要する方の場合は、さらに時間がかかることもあるため注意が必要です。
- 入れ歯がすぐに完成しない理由を教えてください
- 入れ歯製作には複数のステップがあり、それぞれの工程に専門技術と時間が必要なため、一度の通院ですぐに完成することはありません。
また、抜歯直後は、歯茎の形が安定するまで時間を置く必要があります。よって、すぐに最終的な入れ歯を作ることができません。さらに、入れ歯は歯科技工士によって一つ一つ手作業で作られるため、工程ごとに製作期間が必要となります。
- なぜ保険診療と自由診療で入れ歯の作製日数が異なるのですか?
- 保険診療では、使用できる材料や工程に制限があるため、ある程度効率的に短期間で作製できる反面、細かい調整やデザインの自由度は制限されます。
一方、自由診療では、高品質な材料や工程を選択できるほか、時間をかけて丁寧な調整や設計が可能です。そのため、時間はかかりますが、装着感や見た目、耐久性の点で優れた入れ歯の作製が期待できます。
- 入れ歯の作業工程を簡単に教えてください
- 総入れ歯の場合、一般的に以下のような工程を経て入れ歯が作製されます。
【型取りと模型作製】
歯科医院にて既存のトレーを使って、大まかな歯茎や顎の形を把握するために型を取ります。この型を用いて、歯科技工士が石膏模型と個人トレー(患者さん専用の、精密な型取り用トレー)を作製します。
【精密な型取り】
歯科医院にて個人トレーを使って、歯茎や粘膜、顎のラインを精密に型取りします。
【噛み合わせの確認】
石膏模型を咬合器(こうごうき)という装置に取り付けて、お口を開閉したときの動きを再現し、正確な噛み合わせを確認します。その後、ワックス(歯科用のロウ)で仮の土台を作り、噛み合わせや見た目を確認します。
【仮の入れ歯の作製・試し入れ】
仮の土台に、人工歯を配置して、仮の入れ歯を作製します。仮の入れ歯を患者さんの口腔内に試し入れして、フィット感や痛みの有無を確認します。
【最終的な入れ歯の作製】
仮の入れ歯で問題がなければ、いよいよ本番の入れ歯の作製です。ここでは、ワックスでできた仮の入れ歯を本物の素材であるレジン(プラスチック素材)に置き換える作業をします。
まず、仮の入れ歯を「フラスコ」と呼ばれる金属製の型にセットして、その周囲に石膏を流し込み、ワックスの形を忠実に写し取ります。この段階では、入れ歯全体が石膏の中に埋め込まれている状態です。
次に、加熱によってワックス部分だけを溶かして取り除き、内部に入れ歯の形の空洞(型)を作ります。そこへレジンを流し込み、さらに加熱と圧力を加えて固めます。
型を冷やしてから開けると、硬いレジンでできた入れ歯の完成です。
【仕上げ・調整】
入れ歯の形や噛み合わせの微調整をした後、表面を磨き、つやを出して仕上げます。最後に患者さんの口腔内に入れて、フィット感や痛みなどの問題がないことが確認できたら完成です。
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このように、入れ歯は歯科医師と歯科技工士が何度も調整や確認を重ねながら丁寧に作られています。
入れ歯がない期間の過ごし方
- 入れ歯が完成するまでの間は歯がない状態ですか?
- 基本的には、歯を抜いた後すぐに最終的な入れ歯を入れることはありません。そのため、一定の期間は、歯がない状態で過ごすことになります。
ただし、見た目や食事に支障がある場合は、「仮歯」や「即時義歯」という一時的な入れ歯を作ってもらうことも可能です。仮歯と即時義歯はいずれも最終的な入れ歯が完成するまでの間に使用するものですが、その目的やタイミングに違いがあります。
即時義歯は、歯を抜く当日に使用するものです。抜歯前に型取りを行っておき、抜歯と同時に装着されます。そのため歯がない期間がほぼなく、食事や会話など、日常生活への影響を少なくすることができます。
一方、仮歯は抜歯後に歯茎の状態がある程度落ち着いてから作るため、装着までに少し時間がかかります。
即時義歯は見た目の回復を重視する方にとって大きなメリットがありますが、歯茎の変化に合わせて、調整や作り直しが必要です。用途やライフスタイルに応じて、製作の検討をしましょう。
- 入れ歯がない期間に仮歯や義歯を入れる場合の費用相場を教えてください
- 仮歯や即時義歯の費用は、保険診療か自由診療かによって大きく異なります。以下に、仮歯と即時義歯にかかる一般的な費用の目安を表にまとめました。
(横にスクロールできます)項目 内容 費用の目安(保険適用) 費用の目安(自由診療) 仮歯 本歯が入るまでの
一時的な歯。審美性や
噛み合わせの保持
をすることが目的。約1,000~8,000円/1本 約5,000~20,000円/本 即時義歯 抜歯と同時に装着
する部分入れ歯または
総入れ歯約5,000円~15,000円
(3割負担の場合)約30,000円~100,000円以上 自由診療では、使用する材料や見た目、精度にこだわったものが提供されるため、費用が高くなる傾向にあります。その分、審美性やフィット感に優れている点が特徴です。
- 入れ歯が完成するまでの注意点はありますか?
- 入れ歯がない期間中は、以下の点に注意して過ごすことが大切です。
- 抜歯直後は、飲酒や激しい運動を避けて、できるだけ安静に過ごす
- やわらかい食事を心がける
- 歯茎や粘膜を清潔に保つ
- 即時義歯を使用している場合、定期的な調整や修理を受ける
また、精神的な負担にも注意が必要です。歯がないことで人前で話すのが恥ずかしく感じたり、食事の楽しみが減ってたりしてしまう方もいます。こうした時期は、必要以上に我慢せず、周囲や歯科医師に気持ちを共有することも大切です。 安心して治療に向き合うためにも、信頼できる歯科医師を見つけ、気になることは何でも相談しましょう。
まとめ
入れ歯は、見た目や機能を回復する大切な治療ですが、完成までには一定の時間と工程が必要です。通常、2〜4週間(保険診療)から1〜3ヶ月(自由診療)程度の期間がかかり、その間は、生活習慣の工夫が求められます。
精度の高い入れ歯を作るためには、丁寧な治療と調整を重ねることが不可欠です。完成までの期間を正しく理解し、焦らずゆっくりと自分に合った入れ歯作りを進めていきましょう。
また、見た目や機能を早く回復したい方は、即時義歯の利用や自由診療の選択肢も検討してみてください。信頼できる歯科医師と相談しながら、自分にとって適切な治療方法を見つけることが、快適な生活への第一歩となります。
参考文献