入れ歯を使い始めたばかりの方や、長年使用している方でも、「寝るときは外すべき?」「もし外れたらどうすればいいの?」といった疑問を持つことがあるかもしれません。
本記事では入れ歯をつけっぱなしにした場合ついて以下の点を中心にご紹介します。
- 入れ歯をつけっぱなしにするリスク
- 入れ歯をつけっぱなしにするメリット
- 入れ歯を使用している際の注意点
入れ歯をつけっぱなしにした場合について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
入れ歯は長時間つけっぱなしにしてもいいの?
入れ歯は長時間装着し続けるのではなく、適度に外す時間を設けることが望ましいとされています。ずっとつけたままにしていると、歯茎やお口のなかの組織に負担がかかり、健康を損なうおそれがあるためです。
本来、入れ歯は食事や会話のサポートを目的とした補助器具ですが、装着し続けることで血流が滞り、細菌が繁殖しやすくなる環境をつくってしまいます。口腔内の健康を守るためにも、就寝時などのタイミングで入れ歯を外し、歯茎を休ませることが大切です。
入れ歯をつけっぱなしで寝るリスク
入れ歯をつけっぱなしで就寝した場合、以下のようなリスクが考えられます。
口腔内環境の悪化
睡眠中は唾液の分泌が著しく減少するため、口腔内が乾燥しやすくなります。唾液は本来、抗菌や洗浄といった重要な役割を担っていますが、唾液量が減ると細菌が繁殖しやすくなり、口臭やむし歯、歯周病などのリスクが高まります。特に入れ歯の床の裏側は細菌がたまりやすい場所です。
入れ歯をつけたまま寝ることで、湿度と温度が保たれた状態となり、細菌やカビの温床になることもあります。そのままにしておくと、誤嚥性肺炎などの感染症を引き起こす可能性もあり、清潔な口腔内の環境を維持するためには、就寝前に入れ歯を外して洗浄し、保管することが欠かせません。
口内炎や口腔カンジダ症
入れ歯を装着したまま眠ると、歯茎や粘膜が長時間にわたり圧迫されます。この状態が続くと、接触部分に炎症や傷ができやすくなり、口内炎を引き起こす場合があります。口内炎は痛みを伴い、治癒するまでの数日間は入れ歯の使用が難しくなりかねません。
また、粘膜が傷ついた状態は、口腔カンジダ症といった感染症のリスクを高める要因にもなります。カンジダは真菌の一種で、入れ歯の裏側や粘膜の間に発生しやすく、白い苔のような症状を伴います。
こうしたトラブルを未然に防ぐには、毎晩入れ歯を外して、休ませてあげることが大切です。
入れ歯の変形や破損
入れ歯は精密に作られた医療装具であるため、衝撃や過度な圧力には弱い一面があります。就寝中の歯ぎしりや食いしばり、寝返りによって無意識のうちに負荷がかかると、入れ歯が変形したり、破損したりするリスクがあります。
わずかな変形でも、装着感に違和感が生じたり、口腔内を傷つける原因になったりすることがあります。さらに、変形した入れ歯を無理に使い続けると、歯茎やほかの歯に悪影響を及ぼすこともあるため、夜間は入れ歯を外し、専用のケースで保管しておくことが大切です。
誤飲や外傷
部分入れ歯は小型で軽量なものが多い傾向があり、就寝中に無意識に外れてしまう場合があります。その結果、誤って飲み込んでしまうリスクが生じます。なかでも高齢者の場合、誤飲は窒息や内臓の損傷など命に関わる事故にもなりかねません。
また、入れ歯の金属バネ部分が頬の内側や歯茎をこすって傷つけるなど、物理的な外傷を引き起こすこともあります。これらのリスクは、入れ歯を外してから眠ると予防につながります。
毎晩の習慣として、清掃と保管を行うことが安全かつ快適な入れ歯生活を続けるコツです。
入れ歯をつけっぱなしで寝るメリット
入れ歯をつけっぱなしで就寝することにはメリットもあります。主なメリットは、以下のようなものが挙げられます。
残存歯の保護
就寝時に部分入れ歯をつけたままにすることには、残っている歯を保護するというメリットがあります。歯を抜いた部分があると、周囲の歯がその空間に向かって傾いたり、ズレたりする傾向があります。
特に寝ている間は無意識に歯ぎしりや食いしばりをすることがあり、このとき入れ歯を外していると歯列が安定せず、噛み合わせが乱れる原因にもなります。入れ歯を装着したまま眠ることで、空白のスペースを物理的に埋めることができ、歯の移動やズレを防ぐことにつながります。
その結果、翌朝も違和感なく入れ歯を装着でき、歯や歯茎への負担の軽減が期待できます。
非常時への備え
入れ歯をつけたまま寝ることで、災害時の備えにもなります。地震や火災など、夜間に突然避難しなければならない状況が起こったとき、入れ歯が手元になければ会話や咀嚼が困難になり、生活に大きな支障をきたします。
特に避難所では食事環境が限られるため、入れ歯がないことで満足に食べられず、栄養不足を招く恐れもあります。さらに、歯がない状態では発声も不明瞭になり、周囲との意思疎通も難しくなります。
入れ歯をつけたまま就寝しておくことは、防災対策の一環にもなるといえるでしょう。
口呼吸の予防
入れ歯を装着したまま眠ることは、口呼吸の予防にも役立ちます。総入れ歯を外してしまうと、口元の支えがなくなり、唇が内側に落ち込んでお口が開きやすくなります。
また、前歯がないと舌の位置も安定せず、喉の奥へ下がってしまうため、自然な鼻呼吸が妨げられ、結果的に口呼吸が増加する可能性があります。
口呼吸は口腔内の乾燥を引き起こし、細菌の繁殖を助長させるだけでなく、誤嚥性肺炎などのリスクも高まります。入れ歯をつけた状態を保つことで、唇と舌の位置を安定させ、鼻呼吸を促進できるため、健康面の維持にもつながります。
入れ歯を外しておくべき状況
ここまで、入れ歯をつけっぱなしでいることのリスクとメリットを述べてきました。ここでは、入れ歯を外しておくべき状況を解説します。
就寝前
夜寝る前には、入れ歯を外しておくことが基本とされています。その理由の一つは、お口の中を衛生的に保つためです。睡眠中は唾液の分泌が減り、口内が乾燥しやすくなるため、細菌が繁殖しやすい状態になります。
なかでも部分入れ歯の金属バネの周辺などには汚れが残りやすく、不衛生な状態を放置するとむし歯や歯周病の原因になりかねません。また、入れ歯をつけたままにしていると歯茎や顎に負担がかかり続け、圧迫によって炎症を起こす可能性もあります。
入れ歯を外して休ませることで、歯茎の健康を保つことができます。ただし、噛み合わせの安定を目的に装着したまま眠るよう指示されている場合は、歯科医師の指導に従いましょう。
食後
食後は可能であれば入れ歯を外し、きちんと洗浄することが理想的です。入れ歯は構造上、小さな食べかすが詰まりやすく、放置すると口臭やむし歯、口腔内の感染の原因につながります。ご自宅であれば、食後に軽くブラシで入れ歯を洗い、同時に自身の歯や口内も丁寧に磨いておくのがベストです。
外出先で入れ歯をすぐに外せない場合でも、食事の後に水で軽くすすぐだけでも衛生的に保つことができます。毎回完璧な手入れをする必要はありませんが、できる範囲で入れ歯を清潔に保つ習慣を身につけることで、快適な使用感が長く続きます。
健診時
歯科健診や病院での検査時には、原則として入れ歯は外しておくべきです。特にレントゲン撮影やMRI検査を受ける場合、入れ歯に含まれる金属が画像を遮ってしまい、診断の妨げになることがあります。
X線では金属が白く映り込んでしまい、正確な情報が得られませんし、MRIでは金属が磁場に反応して重大な事故につながる恐れもあります。安全性と診断精度の両方を確保するため、検査前には入れ歯を外しましょう。
また、健診の際には入れ歯そのもののフィット感や清掃状態をチェックしてもらえるため、あわせてメンテナンスの機会としても活用するとよいでしょう。
入れ歯を外すときの注意点
入れ歯を外す際には、破損や紛失を防ぐためのいくつかの注意点があります。
まず、洗面所で取り外す場合は、流し台にタオルや洗面器など、やわらかいものを敷いておくのがおすすめです。うっかり手が滑って落としてしまうと、入れ歯が割れたり、排水溝に流れてしまうおそれがあります。
また、外出先のホテルや公共の施設では、外した入れ歯を洗面台の上などに仮置きするのは避けましょう。少しの油断で置き忘れたり、ほかの荷物に紛れて紛失する可能性があるためです。
入れ歯をしばらく使用しない場合には、乾燥を防ぐために水を入れた専用の容器に浸けて保管することも大切です。入れ歯は繊細な医療機器であるため、取り扱いの際は丁寧に扱い、習慣的に安全な保管方法を心がけるようにしましょう。
入れ歯の正しいお手入れ方法
入れ歯を長く快適に使うためには、毎日のお手入れが欠かせません。以下のステップを参考に、正しい方法でケアを行いましょう。
【洗浄剤を使った基本のケア】
- 洗浄液を作る
清潔なコップに水を入れ、市販の入れ歯洗浄剤を溶かします。水道水で構いません。 - 入れ歯を浸す
入れ歯を洗浄液に浸し、パッケージに記載された時間放置します。 - ブラシで磨く
洗浄後は、研磨剤の入っていない入れ歯専用ブラシで優しくこすります。通常の歯ブラシでも構いませんが、専用品ならより効果的に汚れが落とせます。
【日常のお手入れポイント】
- やわらかい歯ブラシやガーゼを活用
やわらかい部分は刺激を避けるため、スポンジやガーゼで洗いましょう。片手が不自由な方は吸盤付きブラシが便利です。 - 乾燥を防ぐ
入れ歯は乾燥すると変形の恐れがあるため、水またはぬるま湯に浸けて保管します。 - 毎食後に洗浄する
食べかすを放置すると口臭や痛みの原因につながります。毎食後、流水で洗い流すか、可能であればブラシで清掃しましょう。 - 破損防止対策を忘れずに
洗浄中に落としても割れないように、洗面器に水を張った状態で洗いましょう。
【定期的な調整とプロの点検も大切】
入れ歯は使ううちにフィット感が変わります。1ヶ月に1回程度、歯科で状態を確認してもらいましょう。
【毎晩の洗浄を忘れずに】
物理的な洗浄では落としきれない細菌や汚れには、就寝前に洗浄剤を使用すると、洗浄効果が期待できます。誤って熱湯や漂白剤を使うと変形や変色の原因になるため注意が必要です。
毎日の丁寧な手入れこそが、入れ歯を清潔に保ち、快適に使い続けるための秘訣です。
歯科医院で定期検診やクリーニングを受けることも大切
入れ歯を清潔に保つために毎日洗浄したりブラシで磨いたりすることは大切ですが、それだけでは万全とはいえません。残っている天然歯や歯茎の状態を維持するためには、歯科医院での定期検診やプロによるクリーニングを受けることが重要です。
まず、入れ歯は使用するうちに徐々に摩耗したり、歯茎との接触部分が変形したりすることがあります。なかでも部分入れ歯の場合、金具が緩んだり折れたりするリスクもあるため、劣化の早期発見と対応が必要です。
また、年齢とともに歯茎や顎の骨が痩せることで噛み合わせが変化し、入れ歯が合わなくなって痛みや炎症の原因になることもあります。
さらに、入れ歯の表面には細かなキズがつきやすく、そこに細菌が繁殖すると、むし歯や歯周病のリスクが高まります。残っている歯を清潔に保つことは、入れ歯の安定性や寿命を延ばすうえでも重要です。
クリーニングによって汚れを徹底的に取り除くことで、こうしたリスクの軽減につながります。
歯科医院では、入れ歯の状態やお口全体の健康状態をチェックしてもらえるため、少なくとも半年に1回は受診するようにしましょう。噛み合わせや装着感の調整、トラブルの早期発見につながり、快適な入れ歯生活を長く続けることができます。
日々のケアと併せて、定期的なプロのチェックを習慣化することが、入れ歯のトラブルを防ぐためのポイントです。
まとめ
ここまで入れ歯をつけっぱなしにした場合についてお伝えしてきました。入れ歯をつけっぱなしにした場合の要点をまとめると以下のとおりです。
- 入れ歯をつけっぱなしにしたままでいると、口内環境の悪化したり、口内炎や口内カンジダ症の可能性が高まったり、入れ歯の変形や破損につながるなどのリスクがある
- 入れ歯をつけっぱなしにしたままでいると、残っている歯を保護する効果が期待できたり、災害時の備えになったりするほか、口呼吸の予防につながるなどのメリットも挙げられる
- 入れ歯を使用している際、入れ歯を外すときは落下に気を付け、なるべく下にやわらかいものを敷いておくなどし、正しいお手入れ方法を守り、定期的に歯科医院を受診することが大切
入れ歯をつけっぱなしにしたままでいるリスクやメリットを理解し、何か不具合が出る前に、定期的に歯科医院を受診するようにしましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。