入れ歯を使用している方のなかには、お口の中が乾燥しやすくなったと感じることも少なくないのではないでしょうか。
唾液は口腔内の健康維持に欠かせない重要な役割を果たしており、その分泌量の変化は入れ歯の装着感や日常生活の質に大きく影響します。
本記事では、唾液の役割や入れ歯への影響、そして唾液が減少したときの対処方法を詳しく解説します。
唾液の分泌が気になる方や、お口の乾燥にお悩みの方にとって、予防や日常のケアの参考になれば幸いです。
入れ歯を入れると唾液が減少する?
- 唾液の役割を教えてください。
- 唾液は、1日におよそ1~1.5リットル分泌される、無味・無臭、透明で微酸性(pH6.8程度)の分泌液です。口腔内でさまざまな重要な働きを担っており、健康維持に欠かせない存在です。
まず、保湿や粘膜保護、潤滑作用があります。ムチンやプロリンリッチプロテインなどの粘液性たんぱく質が粘膜表面に膜を作り、乾燥や刺激から守ります。また、嚥下機能にも関与しており、咀嚼により唾液の量が増えることで食べ物の流れを助けるのが特徴です。
唾液には、歯や粘膜の汚れを洗い流す自浄作用があり、口腔内を清潔に保つためにとても重要です。消化作用では、酵素のアミラーゼがデンプンを分解し、腸で吸収しやすくします。消化作用は、食べ物の消化をスムーズに進めるために欠かせない働きです。さらに、唾液は食べ物の味成分を溶かし、味蕾に届けて味覚を助ける働きもあります。
また、重炭酸塩イオンによる緩衝作用により口腔内を中性に保ち、歯の表面が酸で溶け出すのを防ぐ重要な機能です。再石灰化作用として、唾液中のカルシウムやリン酸が歯の表面に再付着し、むし歯の進行を防ぐ働きをします。唾液には、リゾチームやペルオキシダーゼなどの抗菌成分も含まれており、細菌や真菌の増殖を抑えて感染や炎症の予防にも役立っています。唾液は単なる潤滑液ではなく、口腔環境を守るために欠かせない重要な分泌物です。
- 入れ歯を入れると唾液が減少しやすくなりますか?
- 入れ歯の装着そのものが直接唾液を減らすわけではありませんが、不適合な入れ歯が痛みや不快感により噛む回数が減り、結果的に唾液の分泌が低下することがあります。噛むことは唾液分泌を促す大切な刺激の一つです。口腔内の健康を保つためにも、しっかり噛めるように入れ歯の調整はとても重要です。
- 入れ歯の影響で唾液が増えるケースはありますか?
- 新しく入れ歯を装着した場合は、一時的に唾液分泌量が増加することもあります。これは、入れ歯が口腔内の異物として認識され、生体反応として唾液の分泌が促進されるためです。増加は一時的で、通常は1週間程度で正常な分泌量に戻ります。
唾液減少の原因や入れ歯への影響
- 唾液が減少する原因を教えてください。
- 加齢に伴う変化は代表的な要因の一つです。年齢を重ねると口腔粘膜が薄くなり、粘膜のすぐ下にある小唾液腺の数が減少します。さらに、漿液性唾液を多く分泌する耳下腺は加齢によって萎縮するため、口腔内に粘つきが生じやすくなります。
また、薬剤の影響も唾液の分泌低下につながる原因です。一般に処方される薬の約8割が口腔乾燥を引き起こす副作用があると知られています。口腔乾燥の原因となる薬は、以下のとおりです。- 睡眠薬
- 向精神薬(抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬)
- 降圧薬
- 利尿薬
- 気管支拡張薬
- 抗ヒスタミン薬など
唾液の減少と関連する病気には、以下があげられます。
- 自己免疫疾患:シェーグレン症候群、膠原病
- 内分泌疾患:糖尿病、クッシング症候群など
そのほかの要因は以下の5つです。
- ストレスによる交感神経の過剰な緊張
- 禁飲食状態
- アルコール
- カフェイン
- 喫煙
このように、唾液の減少にはさまざまな要因が関与しており、原因は多岐にわたります。
- 唾液が減少すると入れ歯にどのような影響が出ますか?
- 唾液が減少していると、口腔内が乾燥し入れ歯の使用感に影響します。唾液は入れ歯と口腔粘膜の間でクッションの役割として欠かせません。分泌が少ないと粘膜が傷つきやすくなり、痛みや違和感を引き起こすほか、入れ歯がずれやすくなる原因になります。快適に使い続けるためには、口腔内の潤いを保つことがとても重要です。
- 入れ歯で唾液が減少したと感じる場合は歯科医院に相談するべきですか?
- 歯科医院の受診をおすすめします。入れ歯の装着により、噛みにくさや違和感から咀嚼回数が減り、唾液の分泌が低下する可能性があります。唾液の減少によるドライマウス(口腔乾燥)は、むし歯や歯周病の進行、口内炎、入れ歯の不具合、口臭、嚥下障害などさまざまな問題の原因の一つです。
歯科医師は、入れ歯の適合状態や口腔内全体の状態を総合的に評価し、必要に応じて入れ歯の調整や保湿対策の指導を行います。気になる症状がある場合は、早めに相談しましょう。
唾液が減少した場合の対処法
- 唾液を増やす方法はありますか?
- 唾液腺をやさしくマッサージすることで、唾液の分泌を促すことができます。食事では、よく噛む必要のある硬めの食品を選んだり、ガムを噛んだりすることで咀嚼の刺激によって唾液分泌が増加します。レモンなどの酸味のある食品による味覚刺激も有効です。生活習慣の改善も大切で、ストレスの軽減や十分な水分摂取、口呼吸ではなく鼻呼吸の意識も唾液分泌に関与しています。また、口腔内を清潔に保ち、適度に身体を動かして全身の血流を促すことも効果的です。
さらに、舌や口唇の運動を行うことで、口腔周囲の筋肉を鍛えられ唾液腺の働きが活発になります。服薬の影響で唾液が減少している場合は、医師に相談のうえ、薬の変更や減量を検討します。これらの方法を組み合わせることで、効果的に唾液分泌の改善が可能です。
- 唾液腺のマッサージ方法を教えてください。
- 唾液腺マッサージは、唾液の分泌を促進し、口腔内の乾燥を和らげる効果的な方法です。特に食事前に行うと唾液が出やすくなり、嚥下しやすさにもつながります。3つの唾液腺をやさしくマッサージしましょう。
- 耳下腺:耳の前から下顎にかけて位置する耳下腺を、指の腹で円を描く
- 顎下腺:顎の下から顎の骨の内側から外側に向かって親指でゆっくりと押す
- 舌下腺:顎の先端部分を指先で軽く押す
3つの耳下腺は、それぞれ異なる特徴があります。耳下腺はさらさらとした漿液性唾液を主に分泌し、顎下腺と舌下腺は粘り気のある粘液性唾液と漿液性唾液の両方を分泌する混合腺です。3つのマッサージを組み合わせて行うことで、バランスよく唾液分泌を促すことができます。
- 唾液を増やすために毎日の食事で注意するべきことを教えてください。
- 唾液の分泌を促すためには、よく噛むことが何より大切です。噛む刺激は唾液腺を活性化し、消化を助けるだけでなく、脳の働きを高めて認知症予防にもつながります。日々の食事では、30回以上噛む必要がある食品を一品以上取り入れるよう心がけましょう。例えば、野菜サラダや果物などは、手軽に用意できて噛みごたえもあるためおすすめです。
またビタミン、ミネラル、食物繊維を含むバランスのよい食事の意識が大切です。肉料理などの動物性たんぱく質も積極的な摂取で、口腔機能の維持、向上が期待できます。
- 唾液の減少で入れ歯が外れやすい場合の対処法を教えてください。
- 唾液の分泌が減少すると、入れ歯と歯茎の間に十分な吸着力が得られず、入れ歯が外れやすくなることがあります。そのため、口腔内の乾燥を防ぎ、入れ歯の安定性を保つための対策が重要です。
まずは自宅でできる日常的なケアとして、こまめな水分補給や唾液腺マッサージが挙げられます。またパタカラと発音する口腔体操や、舌や唇を意識的に動かすトレーニングも、お口のまわりの筋肉を鍛え入れ歯の安定に役立ちます。日常ケアに加え、市販の口腔保湿剤の活用も効果的です。保湿ジェルや人工唾液スプレーなどの使用で、口腔内の乾燥を軽減し、入れ歯の吸着を助ける環境を整えることができます。
特に就寝前や会話、食事の前など、口腔内の乾燥が気になるタイミングで使用すると効果的です。服用薬の影響などがある場合もあるため、改善がみられないときは早めに歯科医師やかかりつけ医に相談し、入れ歯の調整や必要に応じた診察を受けることをおすすめします。
編集部まとめ
入れ歯と唾液の関係は密接で、入れ歯の使用感に大きく影響します。唾液が減少すると、入れ歯の安定性が悪くなり、装着時の違和感や痛みにもつながるからです。
唾液減少の原因は、加齢だけでなく薬の副作用や全身疾患、生活習慣などさまざまな要因があります。そのため、唾液腺マッサージや食事の工夫、保湿剤の使用など日常生活でできる対策の継続が大切です。
また、入れ歯使用時には口腔内を潤すことや保湿剤を活用するなど、ちょっとした工夫でも快適さは大きく変わります。もし唾液の減少や入れ歯の不具合を感じた場合は、早めに歯科医師に相談し、自分に合ったケアや調整を受けることをおすすめします。
参考文献