入れ歯を作ったら、装着してすぐ噛めると思っている方が少なくないでしょう。
ところが、実際は使うための練習が必要です。入れ歯は体内では異物で、慣れるためには時間をかけて練習を行う必要があります。
また、入れ歯を入れることでさまざまな違和感が生じます。こうした違和感に対しても、身体を慣らしたり歯科医師と相談したりしながら解消していかなければいけません。
この記事では、新しい入れ歯に早くなじむ方法や違和感への対処法などを解説します。入れ歯を作りたいと考えている方は参考にしてください。
入れ歯に慣れるには?
入れ歯は一般的な道具のように、入手してすぐに使えるものではありません。敏感なお口の中に異物を装着するので違和感が避けられず、慣れる過程が必要です。
ただ、違和感があるのに無理やり使い続けるのは辛く、かえって入れ歯に抵抗感を抱き、逆効果です。少しでも早くお口になじませるための有効な方法を解説します。
装着時間を少しずつ増やす
入れ歯を装着すると、初めは誰でも違和感・異物感を覚えてしまいます。しかし、それは身体が異物を感知した結果で、正常な生理的反応です。
初期のうちは吐き気や、歯茎が絞め付けられる感じがあるかもしれません。この反応も何度も同じ刺激を受けているうちに、慣れて反応が弱くなります。
初めは取ったり外したりの練習から始めましょう。すぐに外したくなりますが、外してもそのままにせず、できるだけ装着・取り外しを繰り返してください。
また、装着のたびに意識的に時間を少しずつ伸ばします。入れ歯がお口にある時間を長くできれば、次第に違和感も小さくなるはずです。
多くの方で、数日もすれば違和感が薄れます。もし違和感が強くて我慢できないようなら、調整で緩和できるので早めに歯科医師に相談してください。
やわらかい食べ物で噛む練習をする
入れ歯本来の目的である食べ物を噛むことも、慣れないうちはうまくできない方がほとんどです。まずやわらかい食べ物から噛む練習を始めてください。
同時に水を飲む練習も必要です。入れ歯が入っていると舌やのどの動きが従来と変わります。水でむせることもあるので、無理せずにスムーズに飲めるまで練習してください。
食事では、やわらかくてあまり噛まなくても飲み込める食べ物を、小さく切って食べてみる練習です。少しお口に入れて噛み、飲み込むまでを繰り返し練習します。
まずはご飯と、こんにゃく・ソーセージ・焼き魚などあまり噛む力がいらないものから始めましょう。続いてきゅうり・セロリ・焼き肉など、少し歯ごたえのあるものをしっかり噛んで、飲み込む練習です。
慣れるにつれて、歯がないときには食べられなかったものが食べられるようになります。そうなれば食事が楽しくなるでしょう。
適切な方法で着脱する
入れ歯はスムーズな着脱も重要です。入れ歯を作った歯科医師の指導に従い、正しい方法で着脱できるように練習してください。
自己流で無理やり入れると、入れ歯のバネをゆがめたり、歯茎・粘膜・ほかの歯を傷めたりする原因になります。無理な力を加えず、教えられたとおりの手順で着脱の練習を行ってください。
入れ歯の着脱は多くの方が慣れるのに苦労するところです。基本的に、装着は金具(バネ)を支点の歯に当てて歯根方向に押すと入ります。外すときはバネを歯先方向に引いてください。
慣れないうちは鏡を見ながら、バネの位置を正しく決めるコツを体得します。うまくいかない場合は、歯科医師や歯科技工士に相談して指導してもらいましょう。
鏡の前で会話の練習をする
入れ歯には厚みがあり、口腔内の形が変わるために発音・発声にも相当な影響が出ます。入れ歯を入れてすぐの場合、舌は新しい歯や歯茎の位置に慣れていません。
そのため、すぐに元どおりに話すのは難しく、どうしても違和感がある発音・発声になってしまう傾向があります。特にSやTHの発音が難しいと感じる方がよくみうけられます。
面倒なように感じても練習にまさるものはありません。鏡を見ながら何度も発音してみたり、新聞記事の音読もよいでしょう。
何度も発音しているうちに、舌やお口周辺の筋肉が入れ歯に合った動きに変化していきます。発音する際に、舌が入れ歯のどの位置に当たるかを意識すると、発音がより明瞭になります。
小さなかみつきから始める
入れ歯を入れることで生じる不具合は、患者さんによりさまざまです。例えば入れ歯があることに慣れる時間・食べ物の噛み心地・発音や発声のしにくさなどがあります。
こうしたことは、ほとんどの患者さんで生じます。入れ歯を入れても何の違和感も覚えず、すぐに何でも食べて自由に話ができることはありえません。
改善へのスタートは小さなかみつきから始まります。入れ歯を入れてすぐ、大きくお口を開けて思い切りかみついても噛めるはずもないでしょう。
初めは小さくかみつき、何度もかみつく練習を重ねているうちに次第に慣れます。そして、次第に大きくかみつけるようになっていくものです。
入れ歯安定剤を使用する
入れ歯は型取りをして患者さんのお口に合わせて作りますが、最初に作ったものが合わなくて何回か調整する場合も珍しくはありません。
そのため、患者さんも慣れないうちはガタツキなどが不安です。そのような状態で人と会うときなどに、入れ歯安定剤を適切に使えば安心できます。
また、使っているうちに歯茎がやせてきて、時折ガタつく場合もあるでしょう。いずれは歯科医院で調整しますが、それまでの急場しのぎに入れ歯安定剤は有用です。
入れ歯の初期には調整がつきものといっていいでしょう。しかし、何回も調整しているのになかなかしっくりこない患者さんもいます。
歯科医院で繰り返し調整してもらうようお願いしましょう。しかし、不具合を我慢するよりは入れ歯安定剤で心地よく過ごすほうが快適なら、日常的な安定剤の使用もありえるでしょう。
その場合でも、適切な歯科医院での調整と確認は必要です。安定剤に頼り続けて長期間ピッタリしない義歯を使うことはお勧めできません。また、受診の際には安定剤の使用を歯科医師に報告するようにしてください。
入れ歯がなじむまでの期間はどのくらい?
入れ歯を初めて作っても作り直した場合でも、なじむまでには一定の期間が必要です。そして、慣れて違和感を覚えなくなる期間には個人差があります。
最初の違和感は異物感で、思っていたより大きなものがお口に入ったと感じる方が大半です。この異物感は数日から1週間程度で慣れてきて、入れ歯の存在がさほど苦にならなくなるとされます。
その他の違和感で、噛みにくいとか話しにくいなど機能的な部分は個人差によって大きくなります。入れ歯に問題がない場合は、数週間でなじんでくるようです。
ただ、痛みや大きなガタつきは医師の調整が必要な場合があります。歯科医院で調整を受けながら使ううちに、次第になじんで違和感も消えていくでしょう。
入れ歯で生じる違和感と対策
入れ歯は失った歯の代わりとはいえ異物です。それをデリケートなお口に装着するので、どうしても違和感が生じます。
慣れることで軽快するものや、歯科医師に相談して対応が必要なものなど、さまざま違和感とそれに対する対策を解説します。
歯茎が痛い
痛みは入れ歯による違和感のなかでは多くの方に見られる症状です。やわらかい歯茎に硬い入れ歯を装着するので、しばらくの間多少の痛みを感じるのはやむをえません。
また、入れ歯は歯茎の型取りをして丁寧に作られますが、それでもぴったり合わせるのは困難です。どうしても初めは入れ歯があたって痛みが出てしまいがちです。
痛みが出たら、まずは入れ歯を外してお口を休ませてください。傷ができる前に休ませながら慣らすことが大切です。
痛みが強い場合は、我慢せずに歯科医院のアフターケアで調整してもらいましょう。時間はかかりますが、調整を重ねることで痛みは軽減されます。
その他、バネが粘膜に当たるとか、炎症・歯周病による痛みや噛み合わせによる痛みがおこる可能性もあります。こうした痛みも我慢せず、歯科医院での処置が必要です。
唾液の分泌量が増える
入れ歯を装着したら唾液が増える場合があります。これも異物に慣れないためにおこる違和感の一つです。
入れ歯の刺激が歯茎や粘膜に加えられ、これが唾液腺を刺激して唾液の分泌量が増加します。必要以上に分泌されるために、違和感として覚える現象です。
次第に入れ歯の装着に慣れてくると、刺激も弱くなって唾液の分泌は減少します。まれですが、入れ歯の不具合による刺激が原因の過剰分泌もみられます。
また、逆に唾液の量が少なくなる方も少なくありません。入れ歯に慣れずよく噛まずに飲み込むために、顎の動きが少なくなって唾液の分泌が減少します。
唾液が少ないと口腔内が乾燥して、入れ歯の摩擦で傷ができる場合もあるので、しっかり噛むことを心がけましょう。
食べ物を噛みにくい
入れ歯になると、自分の歯で噛んでいたときと比べて噛みにくく感じます。神経があった自分の歯とは、噛んだときの感覚がまったく違うためです。
基本的には新しい歯の感覚に早く慣れるしかありません。噛み方には個人差があるものですが、新しい歯の感覚に慣れるまでには長い時間が必要です。
まずはあまり噛まずに食べられる、やわらかくて歯切れのよい食べ物から食べ始めてください。大きな塊にかみつくのではなく、小さく切ったものをお口に入れます。 初めから入れ歯で噛まず、主に健康な歯で噛み始めてから次第に入れ歯を使って噛むようにしましょう。
早食いが癖になっている方も、慣れるまでは入れ歯を機会にゆっくりとよく噛んで食べる習慣にあらためてください。
発音しにくい
入れ歯になると、デリケートなお口に大きな異物が入ります。会話のためには舌やのど・顎・ほおの筋肉が総動員されて発音しますが、異物があるため制限された動きしかできません。
そのために会話が不明瞭になり、ときには相手に聞き返されたりもします。特に電話では表情が見えないため、よけいに会話が難しくなりがちです。
それでも、話しているうちに入れ歯の存在に慣れてきて、10日程で改善する場合が多くなります。より早く改善するためには、鏡を見ながら発声したり、新聞記事を音読する練習が有効です。
嘔吐反射が起こる
口腔内が敏感で、何かがお口に入った刺激で反射的に嘔吐しそうになる方がいます。入れ歯のような大きな異物では、特に嘔吐反射がおきやすいものです。
なかでも奥歯の入れ歯では喉の奥に触れやすいために、嘔吐反射がよくおこります。また、同じ入れ歯でも日によっておこったり、装着中に急におこったりする症状です。
嘔吐反射は個人差が大きいうえ、対応も慣れだけでは解決できません。歯科医師と相談して、小さいサイズへの作り替えや、上顎を覆う部分をなくす方法が考えられます。
また、施設によっては従来の型取りに代わる光学スキャナーの導入など、嘔吐反射があっても入れ歯を作る方法もあります。歯科医師と相談のうえ適切な策を選びましょう。
入れ歯に慣れた後の注意点
新しい入れ歯を作った後、感じた違和感は慣れるにつれて次第に薄れ、快適に噛めるようになります。
ただ、快適になった入れ歯にもなお注意したい点があるので、以下のとおり挙げておきます。入れ歯を長く使うために大切な注意点です。
入れ歯はこまめに洗浄する
入れ歯は陶器・プラスチック・金属などでできています。自分の歯よりも弱く傷つきやすいので、その点を意識して大切に取り扱ってください。
歯ブラシは入れ歯専用のものを使ってこまめに洗浄します。歯磨き剤に研磨剤が入っているものは、入れ歯に細かい傷を付けるので使わないでください。傷は臭いや着色の原因です。
洗うときはお口から外して流水で洗います。洗面台には水を張っておくと落としても壊れません。油はごく少量の食器用洗剤でよく落ちます。金属部分は細くて硬いブラシが効果的です。
入れ歯の凹部(歯茎に接する部分)は特に丁寧に洗ってください。さわってヌルついたら細菌汚れが残っているので、徹底的に落としましょう。
外す時間を少なくする
入れ歯を外す時間が長くなると、残った歯が空いた部分へ移動したり、歯茎がやせる原因になります。そのため外す時間は少ないほうが悪影響を抑制できます。
しかし、入れ歯を24時間付けたままにしておくのも問題です。歯茎をずっと覆ったままでは血行が悪くなるうえ細菌が増殖しやすくなり、むし歯・口内炎・歯周病の原因になりかねません。
基本的には、朝起きたら歯磨きと同時に装着し、食事ごとの歯磨き以外はずっと装着を続けます。寝る前に外して十分お手入れしたら、朝まで水の中で保管してください。
ただ、患者さんの状態によっては、歯科医師から就寝時も装着したままにするように指示される場合もあります。この場合は頻繁なお手入れが必須です。
入れ歯を作る前の準備・知っておきたいこと
入れ歯を作る場合、事前の準備がとても大切です。健康保険やお口の環境整備など、事前にすませることや知識として知っておくべきことを解説します。
まず、入れ歯に適用される健康保険の内容を把握しておくことが重要です。基本的に健康保険は適用されますが、歯科の場合は噛めるようになるだけの治療に限られます。
材料はプラスチックでバネのみ金属、治療の回数も限定的です。保険外の自由診療では材料も治療法も自由度が高く、快適さ・見た目を重視する方には満足度の高い治療ができます。
次に事前準備ですが、治療方針を決めるには現状の把握が大切です。検査により噛み合わせを調べたり、現存歯をきれいに整えたり歯周病を直したりなどの環境整備を行います。
また、普段の自分の噛み方の特徴・クセを歯科医につたえておくことも大切です。そして、入れ歯ができて違和感があれば、根気よく調整する必要があることも承知してください。
まとめ
入れ歯はストレスなく使えるまでには慣れが必要です。早く慣れるためにはさまざまな方法があります。
装着と取り外しの練習・やわらかいものから噛む練習・鏡の前での発声練習など、地道な努力で入れ歯の感覚を身につけるしかありません。
また、入れ歯を装着すれば痛みや噛みにくさなどの違和感がつきものです。これも慣れと同様の対策とともに歯科医師との連携が重要になってきます。
後はメンテナンスに配慮しながら、自分の歯と同じように大切に使っていきましょう。
参考文献