歯石は、歯の表面に付着した歯垢が唾液中のミネラルと結びついて石灰化したもので、毎日の歯磨きだけでは完全に取り除くことができません。
歯石を放置すると、むし歯や歯周病、口臭などのトラブルを引き起こす原因となります。
そのため、歯科医院で定期的に歯石除去を受けることが推奨されています。
しかし、歯石除去は痛い、血が出て怖いと感じた経験のある方も少なくないようです。
ではなぜ歯石除去で痛みが出るのでしょうか?
本記事では、歯石除去時に発生する痛みの原因や除去の重要性、歯科医院での具体的な手順、痛みへの対処法など詳しく解説します。
正しい知識を身につけ、歯の健康を守るための一歩を踏み出しましょう。
歯石除去で痛みが出る原因
歯石除去の際に痛いと感じる理由は一つではありません。
痛みの感じ方には個人差がありますが、歯や歯茎の状態、歯石の量、既往症などさまざまな要素が関係しています。
ここでは、代表的な4つの原因を詳しく解説するので、痛みの予防や適切な対策方法を理解しましょう。
歯茎の炎症
長期間に渡って歯石が歯の表面や歯周ポケットに付着していると、慢性的な歯肉炎や歯周炎を引き起こします。
炎症を起こしている歯茎は腫れやすく、軽い刺激でも痛みや出血が生じやすくなります。
とりわけ歯周ポケットが深いケースでは、歯茎の内部に器具が入る際に強い違和感や痛みを感じやすいようです。
炎症が強い場合は、歯石除去前に歯科医師の診断を受け、適切な治療を受けることが大切となります。
蓄積した多量の歯石
そもそも歯石とは、歯の表面に付着した歯垢(プラーク)が、唾液中のカルシウムやリンなどのミネラルと結びついて石灰化した硬い沈着物です。
歯垢は食後8時間から24時間ほどで石灰化が始まり、約2日から2週間で歯石へと変化します。
一度歯石になると、通常の歯磨きでは除去できず、歯科医院での処置が必要です。
歯石には、歯茎より上にできる歯肉縁上歯石と、歯周ポケット内部に沈着する歯肉縁下歯石があります。
歯肉縁下歯石は、歯周病の原因となる細菌の温床であり、放置すると炎症や骨吸収を進行させる恐れがあります。
歯石が多量に蓄積している場合、除去には強い振動を伴う超音波スケーラー(歯石除去具)や鋭利な手用スケーラーによる作業が必要です。
深部の歯石が神経に近い箇所に及んでいる場合、除去時に鋭い痛みや違和感を伴うことがあります。
こうした痛みのリスクを避けるためにも、歯石が蓄積する前の定期的なケアが重要です。
むし歯
歯石が付着している歯の下にむし歯が隠れている場合、その部分のエナメル質や象牙質が弱くなっており、スケーラーによる振動や圧力が神経に響くことがあります。
むし歯が進行していると、歯髄に近い部分が露出しており、少しの刺激でも強い痛みを伴うことがあります。
そのため、歯石除去の前に、レントゲン検査でむし歯の有無を確認することが望ましいでしょう。
知覚過敏
歯石の下に隠れていた象牙質が除去後に露出し、外部刺激に対して過敏になることがあります。
冷水や風がしみるような症状が現れた場合、知覚過敏の症状であることがほとんどです。
象牙細管が露出した状態では、刺激が歯髄へ直接伝わるため、痛みを感じやすくなります 。
事前に知覚過敏の症状がある場合は、歯科医院で保護材の塗布やフッ素塗布などの対応が可能です。
歯石除去の重要性とメリット
歯石除去は、ただ見た目をきれいにするための処置ではありません。
歯石は歯垢が硬化したもので、表面がざらついているため細菌が付着しやすく、むし歯や歯周病、口臭などのトラブルにつながりやすいです。
ここでは、歯石除去の主なメリットを紹介します。
むし歯や歯周病の予防
歯石は細菌の温床となり、歯の表面だけでなく歯茎の内部にも悪影響を及ぼします。
歯石が沈着すると、歯周ポケットが深くなり、歯周病が進行しやすくなるのです。
定期的なスケーリングなどの歯面清掃は、歯の喪失予防につながると報告されており、歯の動揺や出血も大幅に減少する臨床的効果も示されています。
口臭の予防
口臭の主な原因のひとつが、歯石や歯垢に潜む細菌によるものです。
これらの細菌は、口腔内に残った食べかすやタンパク質を分解する過程で、揮発性硫黄化合物(VSC)と呼ばれる強い悪臭を持つガスを発生させます。
口臭は自分では気付きにくく、他人からの指摘で初めて自覚することも少なくありません。
特に問題となるのが、歯周病に関連する口臭です。
歯石はその表面がざらついており、細菌が定着し繁殖しやすいため、放置すれば歯周病が進行し歯周ポケットの奥深くから悪臭を伴うガスが発生します。
こうした歯周病性口臭は、慢性的で強くなりやすく、本人が慣れてしまって気付きにくい特徴もあります。
歯石除去を行うことで、こうした細菌の温床を物理的に取り除くことができ、細菌の数や活動を大幅に抑えるうえで効果的です。
歯面がツルツルになることで、歯垢や細菌が再付着しにくい環境が整い、再発予防にもつながります。
口臭が気になったり、家族に指摘されたりした場合、いわゆる口臭ケア用品に頼るのではなくまずは歯石の有無を歯科医院でチェックし、根本的な原因対処が重要です。
歯茎の腫れや出血の予防
歯石が歯茎に接触した状態が続くと、慢性的な炎症を引き起こし、腫れや出血が生じます。
これにより歯茎が後退し、歯の露出が進むと、知覚過敏や歯のぐらつきというような症状につながってしまうのです。
歯石除去後にポケット内の炎症が改善されることで、歯茎の状態が安定しやすくなるとされています。
歯茎の健康を保つには、歯石の除去と並行して適切な歯磨き習慣も必要です。
歯科医院での歯石除去の手順
歯石除去は、歯科医院で歯科医師や歯科衛生士によって、専用の機器と技術を用いて万全かつ着実に行われます。
自宅での除去は困難であり、歯や歯茎を傷つけるリスクも高いため、歯科医師による処置が不可欠です。
ここでは一般的な流れと、使用される器具、技術に関して解説します。
- 口腔内の診察と評価
- スケーリング(歯石除去)
- 歯面清掃(ポリッシング)
- 仕上げとアドバイス
まずは歯や歯茎の状態を診察し、歯石の付着具合や歯周ポケットの深さ、出血や炎症の有無のチェックが大切です。
プロービング検査により歯周病の進行度が確認され、必要に応じてレントゲン撮影も行われます。
スケーリングでは超音波スケーラーや手用スケーラーが使われ、超音波スケーラーは1秒間に数万回の振動で歯石を粉砕し、水流とともに除去する器具です。
また、歯面への損傷が少ないことが特徴で、患者さんの負担を軽減でき効率的です。
一方、細かい箇所や仕上げには手用スケーラー(キュレットタイプなど)が併用され、細部までしっかりと清掃されます。
歯石を除去した後は、専用のブラシとペーストで歯の表面を磨き、バイオフィルムや着色を取り除きます。
これは、歯石や歯垢の再付着予防に効果的です。
治療後は、歯磨き方法の指導や食生活改善のアドバイスが行われ、必要に応じて知覚過敏予防の薬剤や歯周ポケットへの薬剤投与も実施されます。
近年では、レーザーによる歯石除去も一部導入されており、レーザーの併用が補助的手段として臨床的に有効です。
歯石除去後の痛みへの対処法
歯石除去後には、歯や歯茎が一時的に敏感になることがあり、しみるや痛むという症状が数日間続く場合があります。
これは処置によって象牙質が露出し、炎症を起こしていた歯茎が刺激に反応しやすくなっているためで、次のようなセルフケアが対処法となります。
熱い食べ物や冷たい食べ物を控える
歯除去後の歯や歯茎は刺激に対して過敏な状態です。
冷たい水やアイス、熱いスープ、炭酸飲料などの刺激が神経に直接伝わることで、ズキンとした痛みやしみる感覚が生じることがあります。
歯石除去直後は極端な温度の飲食を避けるようにしましょう。
2~3日は常温の飲食物を選び、刺激を避けることで回復を早めることができます。
やさしく歯磨きを行う
処置後の歯茎はとてもデリケートな状態です。
硬い歯ブラシや強い力での歯磨きは、歯茎の再炎症や出血を引き起こす原因となるため注意が必要です。
歯石除去後のセルフケアにはやわらかめの歯ブラシを使い、やさしく磨くことが勧められています。
また、知覚過敏専用の歯磨き粉や低刺激のフッ素配合製品を使用すると、しみる症状を緩和しやすくなります。
鎮痛剤を使用する
痛みが強く日常生活に支障がある場合は、市販の鎮痛剤(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)を一時的に服用することも有効です。
ただし痛みが1週間以上続くことや、腫れがひかない、出血が止まらないといった異常がある場合は、自己判断せず早めに歯科医院を再受診しましょう。
歯周ポケットが深かった部位や、歯石が重度に沈着していた部位は、回復に時間がかかることもあります。
歯石除去は自分で行っても大丈夫?
インターネットやドラッグストアでは家庭用歯石除去器具やセルフスケーラー商品が販売されており、自宅で手軽にケアしたいというニーズもみられます。
しかし、歯石除去は知識と技術を持つ歯科医師や歯科衛生士によって行われる処置であり、自己判断での除去は大変危険です。
歯石は歯垢が石灰化して硬くなったものであり、通常の歯磨きでは除去できません。
歯石は歯の表面だけでなく歯茎のなか(歯周ポケット)にも沈着していることが多く、視認できない場所まで器具を届かせる必要があります。
これを素人が行おうとすると、歯のエナメル質を傷つけたり、歯茎を切ったりして出血や炎症を引き起こすリスクが高まります。
スケーリングには超音波スケーラーやキュレットなど、目的や部位に応じた適切な器具の選択が不可欠です。
さらに、術後の感染管理や知覚過敏への対応も求められる医療行為とされています。
市販の器具のなかには、先端が鋭利で口腔内を傷つける恐れのあるものも存在し、自己判断による歯石除去は控えるべきです。
むしろ日常的なセルフケアは歯石をためないことが主目的であり、すでに付着した歯石は、歯科医院で処置を受けることが望ましいでしょう。
自分でできる歯石の予防方法
歯石は一度付着してしまうと自分で除去するのが難しいため、日々のセルフケアでの予防が大切です。
ここでは、毎日の生活のなかで簡単にできる歯石予防のポイントを紹介します。
正しい歯磨きやフロス、食生活の見直しの習慣化により、歯石の付着を大幅に減らせます。
正しい方法で歯磨きを行う
歯石のもととなるのは歯垢(プラーク)です。
この歯垢をいかにしっかり除去できるかが歯石予防の鍵となります。
基本は1日2~3回の丁寧な歯磨きです。
鉛筆を持つように軽く歯ブラシを握り、毛先を歯と歯茎の境目に当てて、小刻みに動かすスクラビング法やバス法が推奨されています。
硬い歯ブラシでゴシゴシと磨くと逆効果になることもあるため、やわらかめのブラシを使いましょう。
また、歯磨き粉にはフッ素配合タイプを選ぶと、むし歯予防にもつながります。
近年では歯石の再付着を抑える成分を含んだ製品も登場しており、併用することで予防効果が高まります。
デンタルフロスや歯間ブラシを使用する
歯ブラシだけでは届きにくい歯と歯の間には、デンタルフロスや歯間ブラシの併用が不可欠です。
特に歯の間に食べかすや歯垢がたまりやすい方、歯周ポケットが深めの方は、毎日1回の使用を習慣づけることが望ましいとされます。
歯間ブラシはサイズが合っていないと効果が薄れるため、歯科医院で適切なサイズを確認するのもおすすめです。
食生活を見直す
砂糖を多く含む間食や、ダラダラ食べる習慣は歯垢の増加を招きやすく、歯石の形成を促進させます。
甘い飲料やスナック菓子は控えめにし、1回の食事時間を決めて摂るように心がけましょう。
また、繊維質を含んだ野菜やよく噛む食材を取り入れることで、自然な歯面清掃効果が得られます。
加えて、唾液には口腔内を中性に保ち再石灰化を助ける役割があるため、唾液の分泌を促すために噛む習慣も大切です。
キシリトール入りのガムを噛むことで、むし歯や歯石の予防効果が期待できます。
まとめ
歯石除去は、歯や歯茎の健康を保つために欠かせない医療処置です。
放置された歯石は、むし歯や歯周病、口臭などさまざまなトラブルの原因となり、痛みや出血を伴うこともあります。
歯石除去時に痛みを感じるのは、歯茎の炎症など口腔内環境が関係していますが、定期的にケアを受けていれば軽減可能です。
処置後は適切なセルフケアを行い、違和感が長引く場合は早めに歯科医院へ相談しましょう。
歯石は自力で取り除くのが困難なため、歯科医師の手による除去を受けることが大切です。
日常生活では正しい歯磨き方法や補助器具の活用、食生活の見直しにより、歯石の予防が十分にできます。
定期的な歯科医院の受診とセルフケアを両立し、健康な口腔環境を維持しましょう。
参考文献