むし歯の治療や怪我などにより歯の大部分が失われた場合、差し歯によって歯の機能を回復することは少なくありません。差し歯の周辺の歯茎の黒ずみが気になり出した場合、どのような原因が考えられるでしょうか?この記事では差し歯周辺の歯茎の黒ずみについて、原因や対処法などを解説します。また、差し歯の素材やそれぞれの特徴なども紹介しますので、差し歯の歯茎の黒ずみに悩んでいる方や、現在差し歯を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
差し歯について
差し歯の黒ずみを説明する前に、まずは差し歯とはどのようなものかについてご説明します。
差し歯とは
差し歯とは、むし歯や外傷などによって歯の大部分が失われた場合、代わりに適用される人工歯のことを指します。歯は白く露出している歯冠と根元の歯根に分けられます。歯根部分はもとの状態にも関わらず、何らかの理由により歯冠部分のみを失ってしまった場合に、差し歯が適用されます。
着脱可能な入れ歯と違い、歯根に対して差し込む形になるため、差し歯と呼ばれるようになりました。外科的な手術の必要がなく自分の歯を修復できることから、歯冠部分の修復方法として採用されることも少なくありません。ただし、素材によっては目立ちやすかったり、歯の根っこが割れてしまったりするデメリットもあります。また、差し込む形をとっているため、差し歯が抜けてしまうといったトラブルを起こすこともあります。
差し歯の構造
差し歯は、心棒(ポスト)と呼ばれる部分を歯根に差し込むようにできています。外気に触れる人工歯と歯根に差し込まれる心棒は一体となる構造です。差し歯で治療する前提として、歯の根がしっかり残っていることが必要となります。
重度のむし歯の場合は、神経を抜いて歯の根元を治療した後に土台をたて、差し歯をセットすることもあります。また、健康な歯質が多く残っている場合は、神経を残したまま土台を作って、差し歯を被せる治療が可能です。
差し歯の歯茎が黒い原因
差し歯をしている歯茎が黒い場合、何が原因なのでしょうか?
ここでは、金属部分の影響や歯茎の退縮など、主な4つの原因についてご紹介します。
差し歯の金属部分による影響
差し歯の歯茎が黒くなる原因の一つに、差し歯に使われている金属があげられます。差し歯の裏側や土台に使用されている金属が溶け出して、歯茎に付着することで黒ずむことがあり、これをメタルタトゥーと呼びます。
差し歯は表から見るとセラミックなどで覆われており、一見、金属が見えないために気付きにくいのですが、ほとんどの心棒や被せ物の内側には、何種類かの金属が混ざった合金が使用されています。その合金の中の銀が、差し歯の周りの歯茎の黒ずみの大きな要因とされています。歯茎は常に唾液で濡れているため、金属が溶け出しやすく、歯茎へ沈着することで、差し歯の歯茎が黒くなります。
歯茎の退縮で差し歯の境目が露出
歯茎が下がって、差し歯と歯の境目が露出することで、歯茎が黒く見えてしまいます。露出した歯の根は、差し歯の土台に使われる金属の銀イオンが、象牙質のなかに入り込んで、歯の根を黒く変色させることもあります。
差し歯の金属は、このようにメタルタトゥー以外にも、さまざまな形で歯茎を黒くしてしまう可能性が高いのです。
メラニン色素が沈着している
メラニン色素の沈着が原因で、差し歯の歯茎が黒くなることもあります。歯茎にも皮膚と同様に、メラニン色素を作り出すメラニン産生細胞が存在します。この細胞は外来刺激を受けたときに、組織を守ろうとしてメラニン色素を作り出し、この色素によって歯茎の一部が黒ずんで見えることがあります。
メラニン色素が作り出される外来刺激には、口呼吸や紫外線などがあげられます。また、タバコや受動喫煙によってもメラニン色素の沈着が起こりやすくなります。
歯周病が進行している
歯周病によっても歯茎の黒ずみが発生することがあります。歯周病は歯磨きで落としきれなかったプラークによって細菌が繁殖し、歯茎に炎症を起こし、歯を支える骨を破壊していく恐ろしい病気です。
歯周病が重症化すると、歯茎から出血したり、膿が出るようになり、歯茎が黒ずんできます。このような状態はとても深刻な症状であるため、放置をしておくと歯が抜け落ちてしまうこともあります。
差し歯の歯茎が黒ずんだ場合の対処法
差し歯の歯茎が黒ずんだ場合の対処法をご紹介します。差し歯の歯茎の黒ずみの対処法は、差し歯の土台や人工歯の素材を変更したり、歯科用レーザーを利用する方法などがあります。
差し歯の土台の素材を替える
黒ずみの原因がメタルタトゥーの場合、差し歯の土台を非金属のものに替えることで解消されるケースもあります。差し歯を交換をする際は、被せ物の内側の金属土台を取り除き、金属を使用しないファイバー製の土台などを設置します。
土台の素材を変更することで、黒ずみは徐々に解消されていきます。歯茎の黒ずみの原因がメタルタトゥーであるとはっきりしている場合は検討をおすすめです。
金属を使用しない人工歯を選ぶ
歯茎の黒ずみがメタルタトゥーの場合は、土台だけではなく、被せ物も金属を使用しない人工歯を選ぶとよいでしょう。非金属の被せ物の素材には、ジルコニアやセラミックなどいくつかの種類があります。ジルコニアは色味やグラデーションを表現できる素材で、強度も天然歯の3倍程あるとされています。また、セラミックはジルコニアよりも透明度が高く、より天然歯に近い素材とされていますが、割れやすいところが欠点です。これらのほかにセラミックとプラスチックを混ぜて作った素材であるハイブリッドセラミックもあります。ハイブリッドセラミックは時間の経過とともに変色が起きやすいといわれています。
歯科用レーザーで色素を取り除く
喫煙や紫外線などが原因の色素沈着による歯茎の黒ずみは、歯科用レーザーで色素を取り除く方法がおすすめです。メラニン色素が沈着している部位の歯茎上皮をレーザーの熱で蒸散させることにより、ピンク色の歯茎へと変えることができます。治療の痛みも少ないとされており、数回の照射で黒ずみを解消することができます。また、レーザー照射のほかにも、歯科用薬剤を使って色素を除去する方法もあります。
差し歯を選ぶときのポイント
差し歯の素材には保険適用のものと保険適用外のものの2種類があります。差し歯の素材を選ぶ際は、費用面だけでなく、審美性や強度などの面も考慮して、希望に沿った素材を選ぶことが大切です。
保険適用の差し歯の特徴
保険適用の差し歯は、治療費の自己負担が1〜3割と抑えられることがメリットです。一般的には、3,000円〜10,000円程度の費用ですみます。保険適用の差し歯は、使用感や見た目が保険適用外の差し歯に比べて劣り、差し歯だとわかりやすいのが欠点です。食べ物を噛んだときの感覚や噛み心地などに違和感を覚える場合もあります。
保険適用の差し歯の場合、以下の種類から選ぶことになります。
・銀歯
強度が高く、壊れにくいという特徴があります。しかし、銀色で目立ちやすかったり、金属アレルギーを起こしやすいという難点もあります。
・硬質レジンジャケット冠
金属を使用していないため、金属アレルギーのある方でも使用することができます。また、色も白く、銀歯よりも目立ちにくい点もメリットですが、耐久性が低い点には注意です。
・CAD/CAM冠
コンピューターで設計する差し歯で、レジンを使用しているため、ある程度の耐久性は期待できます。また、白い色をしているので、銀歯より目立ちにくいメリットがあります。
保険適用の差し歯には、種類によっては補綴物維持管理料と呼ばれる保証がついており、治療後の2年間に限り、差し歯が割れたり、欠けたりした場合は保証が受けられるものもあります。
万が一のトラブルに備えるため、保険適用の差し歯を選んだ場合は、歯科医師に補綴物維持管理料が適用される差し歯かどうかも確認するとよいでしょう。
自由診療の差し歯の特徴
自費診療の差し歯は、レジンやセラミックを使用しているものが多く、自然で美しい仕上がりに見えるよう設計されています。ほかの歯とも馴染みやすいため、差し歯だけが浮いているというような状況も起きづらく、審美性を気にする方にもおすすめです。
ただし、治療費は全額自己負担であるため、支払う金額が高額になりやすいのが難点です。費用も歯科医院ごとに独自に決められているため、料金設定に差が出やすい傾向もあります。同じ治療内容でも歯科医院によっては数十万単位で差がありますので、よく確認してから治療を受けるようにしましょう。
自費診療の差し歯には、以下のような種類があります。
・ゴールドクラウン
いわゆる金歯のことで、金色で目立ちやすいです。金は金属アレルギーを引き起こしにくいとされており、強度が高いのも特徴です。
・メタルボンド
土台部分に金属を使用し、表面にセラミックを取り入れた差し歯です。金属部分は見えないため、審美性も高く、前歯に使用しやすいとされています。ただし、金属アレルギーの心配な方には使用できません。
・オールセラミック
天然歯と遜色のない美しい仕上がりを誇るセラミックを使用します。表面だけでなく、土台にもセラミックを使用しているため、ほかの差し歯よりも審美性に優れています。
・ハイブリッドセラミック
審美性に優れたセラミックと強度のあるレジンを使用した差し歯です。自費診療の差し歯のなかでは、価格は抑えられています。
・フルジルコニアクラウン
人工ダイヤモンドとして装飾に利用される美しさと、金属にも匹敵する強さを兼ね備えた差し歯です。ジルコニア素材のみで設計されており、治療費は高額になります。
・ジルコニアセラミッククラウン
ジルコニアとセラミックを使用した差し歯で、強度が高く、セラミック特有の自然な色味が周囲の歯とも馴染みやすいとされています。
歯茎を黒くしないためのポイント
歯茎の黒ずみを予防する対策には、丁寧な歯磨き、フロスや歯間ブラシの使用、禁煙、歯科クリニックでのメンテナンスの4つがあげられます。
丁寧な歯磨き
歯根の露出や、歯周病による黒ずみの予防には、毎日の丁寧な歯磨きが欠かせません。歯を一本ずつ丁寧に磨くことは、歯茎の黒ずみだけでなく、むし歯の予防にもつながります。ただし、力を入れた強すぎる歯磨きは、歯肉にダメージを与えて退縮を促進してしまう場合もありますので、優しく磨くようにしましょう。歯ブラシをやわらかく持ち、過度な圧力がかからないようにやさしく歯磨きすることが大切です。
フロスや歯間ブラシの使用
毎日の歯磨きにデンタルフロスや歯間ブラシも使用すると効果的です。歯磨きだけでは、歯と歯の間の汚れは落ちにくく、残りやすいものです。フロスや歯間ブラシを使用することで、隙間の落としにくい汚れを効果的に除去することができます。
ただし、ブロスや歯間ブラシも誤った使い方により歯肉退縮を起こしてしまう可能性がありますので、正しい使用方法を心がけるようにしましょう。
禁煙をする
タバコに含まれるニコチンやタールはメラニン色素の沈着を促進します。また、タバコのヤニが歯や歯垢に付着することで、歯自体が茶色く変色するだけでなく、口内環境にも悪影響を及ぼします。喫煙の習慣がある方は、なるべく禁煙をするよう努力することをおすすめします。自力での禁煙が難しい場合は、禁煙外来などの医療機関を頼るのも選択肢の一つです。
クリニックでメンテナンスを受ける
歯茎の黒ずみを防ぐには、クリニックでのメンテナンスも必要です。歯石の除去や定期的なクリーニングだけでなく、むし歯や歯周病のチェックなども行うことができ、お口のトラブルが発生する前に対処することができます。
また、メタルタトゥーや色素沈着が発生してしまった場合でも、歯科用レーザーや薬剤などによって改善を図ることもできます。歯の黒ずみだけでなく、口内に不安のある方は、定期的な歯科検診をおすすめします。
まとめ
差し歯の周辺の歯茎が黒い原因はさまざまで、対処法もそれぞれ異なります。まずは黒ずみの原因を特定し、適切な対処法を知ることから始めましょう。また、差し歯にはさまざまな種類の素材があり、保険適用のものもあれば、自費診療のものもあります。それぞれの素材の特徴をよく理解し、自分に合った差し歯を選ぶことが大切です。そして、日々の歯磨きを丁寧に行い、定期的なクリニックでのメンテナンスも怠らないようにしましょう。
参考文献