歯磨きしているときに歯が痛いと感じたら、何らかの問題が起こっています。健全な歯であれば、歯磨きで痛みが生じることがないからです。その際に疑われるのがむし歯ですが、それ以外にも原因があるのか気になるところです。ここではそんな歯磨きのときに歯が痛い原因と対処方法、治療方法について解説します。歯磨きをしていて痛みや違和感、不快症状がある方はこのコラムを参考にしてみてください。
むし歯が歯磨きのときに痛いのはなぜ?
むし歯が生じていて、歯磨きときに痛いと感じる理由から解説していきます。
◎進行したむし歯で痛みが生じる
むし歯は、進行度によって症状が異なります。初期う蝕であるCO(要観察歯)を含めると、むし歯の進行度は5つに分けられます。歯磨きで痛みが生じるとは、病態がある程度進んでいる証拠です。歯はエナメル質という硬い組織で覆われているだけでなく、かなり深い部分にしか神経が分布していないからです。
COやC1(エナメル質のむし歯)で歯磨きのときに痛みが生じることはほとんどありません。象牙質には歯の神経と血管で構成される歯髄(しずい)が部分的に入り込んでいることから、C2(象牙質のむし歯)では、歯磨きで痛いと感じる場合があります。
◎むし歯で痛みが生じるメカニズム
歯磨きでむし歯が痛いと感じるのは、歯の神経を歯ブラシで直接、刺激しているからではありません。歯磨きによって冷たい水や歯磨きの圧力が象牙細管(ぞうげさいかん)という微細な穴を通じて神経へと到達して、痛いと感じさせるのです。
この現象は、象牙質のむし歯が深くなる程、頻繁に起こるようになります。歯の神経が露出する程の深いむし歯であるC3に至ると、歯磨きで強い痛みが生じますし、細菌に感染していることから、ズキズキという自発痛も伴います。
C3からC4にかけては、歯の神経がボロボロになって歯髄壊死を起こすことが多く、そうなると逆に痛みを感じなくなります。むし歯が自然治癒したわけではありませんので、放置してはいけません。そのまま放っておくと、根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)を引き起こして、再び痛みなどの不快症状が現れます。
歯磨きのときに歯が痛い場合のむし歯以外の原因
歯にむし歯がなく、きれいに見えるにも関わらず歯磨きのときに歯痛がある場合は、象牙質知覚過敏症(ぞうげしつちかくかびんしょう)が原因であるかもしれません。象牙質知覚過敏症とは、冷たい飲み物や食べ物を口にしたときに歯がキーンとしみる症状で、歯磨きのときにも起こりやすいです。
◎知覚過敏が起こるメカニズム
象牙質知覚過敏症で歯がしみるメカニズムはむし歯と同じです。冷たい液体や冷たい風、歯磨きの圧力が象牙細管を経由して歯髄を刺激することで痛みが生じます。
そこで疑問に感じるのが、むし歯の穴がないのになぜ刺激が神経に伝わるのかという点です。むし歯の場合は、歯の一部分に穴が生じますが、象牙質知覚過敏症の場合は、歯面が全体的に摩耗したり、欠けたりするなどして歯質が薄くなり、神経との距離が近くなっています。そのため患者さんは歯の異常に気付きにくいです。
◎知覚過敏の原因
象牙質知覚過敏症は、表面のエナメル質が薄くなったり、欠けたりすることで発症しやすくなりますが、その原因は加齢による歯の摩耗や損傷、強い歯磨きの圧力、悪い噛み合わせ、歯周病などが挙げられます。歯周病が進行すると歯茎が下がり歯根面が露出します。歯根面にはそもそもエナメル質が分布していないことから、知覚過敏の症状が現れやすい点に注意しなければなりません。歯ぎしり・食いしばりが原因で知覚過敏の症状が現れた場合は、歯科医院での治療が効果的です。ナイトガードというマウスピースを使ったスプリント療法であれば、保険診療で受けられます。自由診療では、歯ぎしり・食いしばりのときに使う筋肉の働きを薬剤で抑える「咬筋ボトックス治療」が有効です。
むし歯が痛いときの対処方法
むし歯が原因で歯が痛いときは、次の方法で対処しましょう。
口腔内を清潔に保つ
むし歯は細菌感染症の一種です。歯磨きなどの口腔ケアが不十分で、口腔衛生状態が悪くなると、細菌の活動が活発化して痛みの症状も強くなります。むし歯があるときは普段以上に口腔ケアを徹底しましょう。
歯磨きの方法を工夫する
歯磨きが原因でむし歯に痛みが生じる場合は、歯磨きを控えてしまう方もいます。痛みが出るくらいなら無理に歯磨きをせず安静にしておいた方がいいと、放置してしまう方もいます。上述したように口腔内が不潔になるとむし歯菌が活性化するため、痛みが出ないように工夫を凝らして歯磨きすることが大切です。
冷たい水での歯磨きやうがいで歯がしみる場合は、ぬるま湯を使うと痛みが生じにくくなります。やわらかめの歯ブラシで優しく丁寧に磨くことも、むし歯の痛みを抑えることにつながります。研磨剤入りの歯磨き粉を使うと、歯に対して刺激が伝わりやすくなることから、むし歯で痛みが出る場合は、歯磨き粉なしでするのもひとつの方法です。
鎮痛剤を服用する
歯磨きのときのむし歯の痛みが強くて日常生活の妨げになるのであれば、市販の鎮痛剤を服用しましょう。通常のむし歯と同様に、歯痛を取り除くために鎮痛剤を服用することは問題ありません。
ただし、鎮痛剤の服用は対症療法でしかないため、むし歯の痛みを根本から取り除くためには、歯科医院での治療が必要であることも忘れないでください。鎮痛剤が必要になる程の痛みがある場合は、学校や仕事が忙しかったとしても歯科医院を受診するようにしましょう。
保冷剤などで患部を冷やす
むし歯による痛みは、冷やすことで症状の改善が期待できる場合があります。注意が必要なのが、患部を直接冷やさないことです。むし歯になっている歯やその周りの歯茎などに氷を当てれば痛みを抑えられそうですが、患部の血流を悪くするため避けるようにしてください。患部を冷やす場合は、保冷材などを口腔外から間接的に当てるようにしてください。患部を間接的に冷やす場合でも、長時間続けるのではなく、10分程度冷やしたら一定時間を置くなどして処置を施すことが大切です。保冷材による冷却で、患部に痛みが生じた場合は、冷やすのをすぐにやめましょう。そのまま続けると、かえって症状が悪くなる可能性が高くなるため、冷やしすぎはNGです。
痛みがあるときに避けた方がよいこと
むし歯が原因で痛みがある場合は、以下に挙げることを避けてください。
◎お酒を飲むこと
お酒を飲むと、全身の血流がよくなることで歯痛が増す場合があります。お酒を飲んでいる間は神経の麻痺によって痛みが軽減されることもあるのですが、アルコールが引いたあとはより強い痛みを感じるかもしれません。飲酒によってむし歯を抑えるのであれば、市販の鎮痛剤を使ったり、患部を冷やす方がよいです。
◎タバコを吸うこと
喫煙は口内乾燥を引き起こすことでむし歯菌の活動を活発化させます。タバコの煙に含まれるヤニが歯の表面をベトベトにして、歯垢や食べカスの付着を促すことでも、むし歯の症状は悪化しやすくなります。
◎激しい運動や入浴
むし歯の痛みがあるときに激しい運動をしたり、熱い湯船に浸かったりすると、全身の血流がよくなって神経が刺激を受けやすくなります。これは飲酒による影響と同じで、むし歯による痛みを助長しかねないのです。
◎患部を刺激すること
むし歯がある部分には、むし歯菌が繁殖していることから、硬い歯ブラシでゴシゴシと磨きたくなる方もいます。硬い器具を使って、自分でむし歯を削ろうとすることもありますが、このような行為はむし歯による痛みを強めることになるため避けるようにしましょう。歯質に感染したむし歯菌は、歯科医院のドリルでなければ、取り除くことができないのです。
むし歯の穴に食べかすやプラークがたまっていると、細菌の活動が活発になって痛みがさらに強まるおそれがあることから、患部はやわらかめの歯ブラシでやさしく丁寧に磨きましょう。患部の過度な刺激は避けなければならないけれど、衛生的な状態も維持することが基本的な対処法です。
知覚過敏で歯が痛いときの対処方法
むし歯ではなく象牙質知覚過敏症によって歯が痛いときは、次の方法で対処しましょう。
◎知覚過敏用の歯磨き粉を使う
象牙質知覚過敏症は、歯の摩耗や欠損によってエナメル質が薄くなり、象牙質細管から刺激が伝わりやすくなっている状態です。穴を塞いだり保護したりすることで症状の改善が期待できます。
そこで有用なのが市販の知覚過敏用の歯磨き粉を使うことです。市販の歯磨き粉には、硝酸カリウムや乳酸アルミニウムといった知覚過敏の症状を和らげる成分が入った製品があり、毎食後の歯磨きで使用することで歯がしみる症状も改善されていくことでしょう。薬局やドラッグストアに並んでいる歯磨き粉のパッケージで、知覚過敏ケアという表示があるかの確認、配合成分に硝酸カリウムや乳酸アルミニウムが含まれている製品を選ぶようにしましょう。
◎歯科医院で治療を受ける
象牙質知覚過敏症は、歯科医院で治療が受けられます。軽度の知覚過敏なら専用の薬剤を塗布したり、象牙質をコーティングしたりすることで、外部からの刺激を遮断できます。
医療用レーザーを使って知覚過敏による痛みを生じさせにくくする方法もあります。中等度から重度の知覚過敏に対しては、コンポジットレジンで修復したり、詰め物や被せ物を装着したりすることもあるでしょう。
保存的な治療でも症状の改善が見られず、日常生活に支障をきたすような痛みが生じる場合は、歯の神経を抜いて、根管治療を行うという選択肢があります。
むし歯が痛む場合の歯科医院での治療方法
続いては、むし歯が原因で歯が痛む場合の歯科治療について解説します。むし歯治療の方法は、軽度と重度で大きく変わります。
軽度の場合
軽度のむし歯は、感染した歯質をドリルで削って、コンポジットレジンを充填するだけで完治することが少なくありません。コンポジットレジン修復後は、冷たい水や風が神経に到達することがなくなるため、歯磨きのときに痛いと感じることもなくなります。同時に、むし歯の進行も止められます。
重度の場合
歯の神経まで感染が広がっているような重度のむし歯では、感染した歯質を削るだけでなく、神経を抜いて、根管治療を行う必要があります。根管内をきれいに清掃した後は、根管充填を行い、土台と被せ物を装着して治療は完了です。
むし歯が痛むまで進行させないためには
このように、むし歯がエナメル質から象牙質へと進行すると歯磨きのときに痛みを感じることがあります。むし歯の進行度がさらに高まると、歯の神経が侵され、時間もお金もかかる根管治療が必要となることから、むし歯は可能な限り早期に発見した方がよいといえるでしょう。その際、重要なのが歯科の定期検診に行くことと歯磨きをしっかり行うことです。
定期検診に行く
歯科の定期検診では、むし歯の有無を確認したり、象牙質知覚過敏症の兆候なども早期に発見することができます。特に重要なのが初期のむし歯であるCOの段階で発見することです。歯の表面にまだ穴が開いていない状態であれば、フッ素塗布でその進行を止められるケースが少なくありません。歯科の定期検診では、その他にも歯のクリーニングやスケーリング、歯磨き指導なども受けられるため、むし歯の予防にも寄与します。
歯磨きをしっかり行う
正しい方法で歯磨きをすることは、むし歯予防の出発点といえます。プラークフリーな状態を作ることを歯磨きの目的にして、ひとつひとつていねいに磨くようにしてください。
歯と歯の間の汚れは、フロスや歯間ブラシを活用するようにしましょう。毎食後に歯磨きをして、夜に眠る直前は5〜10分程度の時間をかけて念入りに歯磨きをしてください。睡眠中は唾液の分泌量が減少するため、日中よりもむし歯菌の活動が活発になるからです。歯磨きの細かいコツについては、定期検診の歯磨き指導で学びましょう。
まとめ
今回は、むし歯が歯磨きのときに痛い原因と対処方法、治療方法について解説しました。むし歯で歯に穴が開き、歯質が薄くなっていると歯磨きで歯の神経が刺激されて痛みが生じることがあります。むし歯がないにも関わらず、歯磨きのときに痛いと感じる場合は、象牙質知覚過敏症を疑いましょう。どちらも歯科医院で治療を受けることで、症状の改善が見込めますが、本文で紹介した方法でセルフケアすることも大切です。
参考文献