部分入れ歯はむし歯や歯周病、外傷などで失った歯や歯肉の形と機能を回復するための取り外し可能な装置です。
2023年歯科疾患調査によると、喪失歯を有する方は全体の63.4%にのぼり、65歳以上では平均6本以上の歯を失っているとされています。
特に奥歯は失いやすく、放置すると前方の歯に負担がかかり、さらなる喪失の原因になります。
歯を失ってもほかの歯に負担をかけないために、部分入れ歯は有効な治療法です。
本記事では奥歯の部分入れ歯の種類やメリット、注意点、費用目安を解説します。奥歯を失い、治療方法に悩む方の参考になれば幸いです。
奥歯の部分入れ歯の種類
奥歯を部分入れ歯で補う際は患者さんのお口の状態、残っている歯の位置や本数、噛み合わせの状況などによって適切な設計や素材が異なります。
一般的な部分入れ歯は残っている歯にかけるクリップ(クラスプ)と人工歯、歯のない部分の歯肉に乗せるピンク色の床(義歯床)などから構成されています。
ここでは奥歯の部分入れ歯の種類を解説するため、それぞれの特徴を把握し、入れ歯選びの参考にしましょう。
レジン床義歯
レジン床義歯は、経済的に負担を抑えつつ、部分入れ歯による噛み合わせの機能回復が期待できる選択肢です。
義歯床は一般的にレジン(プラスチック)や金属で作られ、残っている歯に固定し、安定させるように設計されています。
そのなかでもレジン床義歯は、クラスプ以外の部分がすべてレジン製です。複数の歯が残っている場合に使用されるのが一般的で、保険適用が可能な点が大きな特徴です。
破損時の修理や裏打ちに時間があまりかからず、悪臭や刺激、毒性が少ないメリットがあります。また義歯床の表面が滑らかで、見た目も自然な仕上がりになる傾向です。
その一方で、強度を保つために義歯床を厚くする必要があり、装着時に違和感を覚えやすいでしょう。
さらに熱の伝導性が低いため食べ物の温度を感じにくく、耐摩耗性や汚れなどには弱い傾向にあることもデメリットです。
ノンクラスプデンチャー
ノンクラスプデンチャーは、歯茎と同系色の樹脂で固定する部分入れ歯です。
審美性に優れ、樹脂でありながら金属のように強い弾力性がある素材で作られており、装着感も良好です。
通常部分入れ歯は、アタッチメント金具やクラスプを残っている歯に引っかけて固定します。
しかし近年、見た目の問題から金属のクラスプではなく、ノンクラスプデンチャーを選択する方が増えています。
ただし、保険適用外の自由診療のため、費用が高くなる点には注意しましょう。
マグネットデンチャー
マグネットデンチャーは残っている歯根に磁性金属を埋め込み、そのうえに磁石を付けて固定するタイプのため、安定感が期待できます。
クラスプが不要なため、入れ歯を装着しているとは感じられない自然な見た目も特徴です。構造がシンプルなため、日々のお手入れがしやすく清潔さを保ちやすい点もメリットです。
神経のない歯やむし歯が悪化した歯など、本来抜歯が必要な歯でも歯根の状態がよければ再利用できます。
また磁力によって、入れ歯を支える歯や歯根にかかる負担が分散され、快適な装着感が得られるでしょう。
その一方ですべての場合に当てはまるわけではありません。
歯根が折れている、根の先に膿や炎症がある、歯周病で歯がぐらついている、むし歯により根まで感染しているといった場合は抜歯が必要です。
入れ歯の支えになる歯根がない場合は、健康な歯を削る必要があるため、慎重に検討しましょう。なお、マグネットデンチャーも自由診療となります。
シリコン義歯
シリコン義歯は、義歯床の一部にシリコンを使用した部分入れ歯です。やわらかい素材のシリコンは噛む力を分散する特性があり、硬いレジン床義歯で痛みを感じやすい方におすすめです。
違和感や痛みを覚えるなど、保険診療の入れ歯が合わない方に選ばれています。ただし、自由診療で費用がかかります。
耐久性に課題があるため、経年的な劣化や変形のリスクがある点もデメリットです。
インプラントデンチャー
インプラントデンチャーは、埋め込んだインプラントを支えにして固定するタイプの入れ歯で、自由診療です。高い安定性と咬合力の回復が期待できます。
顎の骨が十分にありインプラントを埋入できる方、入れ歯を引っかけるための顎の土手が小さい方、入れ歯のぐらつきが気になる方におすすめの治療法です。
ただし、インプラントを埋入していない場合、まずインプラント手術をする必要があります。全身状態や骨の形状によっては適応外となることもあるため注意しましょう。
テレスコープ義歯
テレスコープ義歯は、歯科医療の先進国であるドイツ式の入れ歯治療です。従来の入れ歯が合わない方や、自然な見た目を手に入れたい方におすすめします。
クラスプでなく小さな金具を用いて残っている歯に付けるため、入れ歯だとわかりにくい自然な仕上がりで、装着時の違和感が少ないとされています。
一度装着すれば、取り外しが必要ない構造です。たとえ加齢によりお口の状態が変化しても、作り直す必要はないといわれています。
外科治療は不要なため、重度の糖尿病や全身疾患がある方でも治療可能です。
ただし自由診療のため費用は高額になる傾向にあります。健康な歯を削って作製するため、完成までにかなりの時間が必要です。
また制作に高度な技術が必要なため、日本には対応できる歯科医院が少ないといわれています。
BPSデンチャー
BPSデンチャーは、精密な完全オーダーメイドの義歯システムです。上下の顎の動きを想定して作製するため、噛み心地がよく、高いフィット感を得られます。
また変色や摩耗に強い高品質な素材を使用しているため、自然な見た目も期待できます。従来のものが合わない方や、品質にこだわりたい方におすすめです。
ただし、基本的に総入れ歯を対象としており、奥歯だけの部分入れ歯には対応していません。
自由診療のため、治療費が高額になる傾向があります。また加齢によりお口の状態が変化した場合は、定期的な調整が必要です。破損した場合は、修理に時間がかかるでしょう。
治療時には出血を伴いやすく、強い力をかけた場合は破損の可能性もあるため、注意が必要です。
奥歯を部分入れ歯にする治療の流れ
一般的な部分入れ歯の治療は次のような流れで行います。
- 型取りおよび模型の作製
- 咬合床の作製
- 咬合採得(噛み合わせの記録)
- 入れ歯の設計
- 入れ歯の作製
- 完成した入れ歯の装着
- 最終調整とメンテナンス指導
まずお口の型を取って作製した模型をもとに、入れ歯の原型となる咬合床を作製し、噛み合わせを記録します。
咬合採得では、上下の顎の位置関係や高さ、口元のバランスを確認しながら調整を行います。
その際、適切な噛み合わせや自然な見た目を再現するために、慎重に確認することが重要です。
その後記録した噛み合わせの情報をもとに、上下の顎の動きを再現できる器械に、模型と咬合床を取り付けます。
これによって実際のお口の動きに近い状態で入れ歯を設計することが可能です。
設計では、歯並びや色合いを確認しながら入れ歯を作製します。必要に応じて作製途中でも入れ歯の適合を確認することが必要です。
完成した入れ歯を装着し、装着感や噛み合わせなど細かい最終調整を行った後、完成となります。
奥歯を部分入れ歯にするメリット
奥歯はたとえ失っても外からは目立ちにくいため、「入れ歯がなくても問題がないのでは」と考える方もいるでしょう。
しかし噛み合わせは、上下左右の歯がバランスよくそろってこそ、正常に機能します。1本でも歯を失うと噛み合わせのバランスが崩れ、残っている歯への負担が増します。
また、身体全身に悪影響を及ぼす恐れもあるでしょう。
ここでは、奥歯を失った場合の治療選択肢の一つである、部分入れ歯のメリットを解説します。
保険での治療を選択できる
奥歯の部分入れ歯は、健康保険での治療を選択できます。自己負担の割合(1~3割)は患者さんによって異なります。
全額自己負担となる自由診療と比べると、経済的な負担を抑えられる点が大きな魅力です。
限られた予算のなかでも、噛む機能を回復させたい方にとって選びやすい選択肢でしょう。
短期間で作製できる
部分入れ歯は、作製に必要な工程がシンプルなため、短期間での作製が可能です。歯を失った状態を放置すると、噛み合わせや骨の形が変化するなどの影響が考えられます。
そのため、お口の負担を考慮すると、できるだけ早期に入れ歯を装着することは重要です。
また、保険診療の入れ歯は修理しやすいため、万が一破損したり合わなくなったりした場合にも柔軟に対応できます。
取り外しができるので清掃しやすい
部分入れ歯は取り外しができるため、自分の手で丁寧に清掃しやすいでしょう。天然歯と同様に、入れ歯にもプラークや食べかすなどの汚れが付着するため、毎日の清掃が欠かせません。
お手入れを怠ると、口臭や口内炎、歯周病などの原因につながります。入れ歯を清潔に保つことでそのようなリスクを抑え、お口全体の健康を維持できます。
適応できる範囲が広い
部分入れ歯は、残っている歯の本数や位置に応じて柔軟に設計できるため、適応できる症例の範囲が広いのも特徴です。
1本だけ歯が抜けたケースから、複数の奥歯を失ったケースまで、さまざまな状態に対応できます。
例えばインプラント治療は顎の骨の状態に大きく影響されるため、骨粗しょう症や糖尿病などの既往がある方では、適応が難しい場合があります。
その点、部分入れ歯は全身状態に関わらず治療できることが少なくないため、選択肢として有効です。
また破損や不具合が生じた場合も、修理や調整といった手間が少なく済み、通院回数や費用を抑えながら長期的に使いやすい治療法といえます。
外科手術が必要ない
部分入れ歯は、インプラント治療のような外科手術を必要としません。そのため手術に不安がある方や、全身状態により外科手術が難しい方にも適応でき、気軽に選択できる治療法とされています。
また、専門的な設備や高度な技術が不要なため、幅広い歯科医院で対応できるでしょう。
奥歯を部分入れ歯にする場合の注意点
部分入れ歯には、次のような注意点があります。
- 違和感が生じる場合がある
- 噛む力が弱くなる場合がある
- むし歯や歯周病のリスクが高くなる
- 定期的に歯科医院でメンテナンスを受ける必要がある
- 入れ歯が小さいため紛失する恐れがある
- 一度作製すると6ヶ月間は作製できない
部分入れ歯は費用が抑えられ作製しやすいですが、型取りや噛み合わせの確認が限られており、自由診療ほど患者さん一人ひとりに合ったものを作製することは難しい傾向です。
そのため、入れ歯を使い始めた際は違和感が生じる場合があります。天然歯と比べて、噛む力が弱くなる場合も少なくありません。なかには違和感に耐えられず、使うことを諦めてしまう患者さんもいるでしょう。
また時間とともに摩耗や破損、破折などの劣化が起こる可能性もあります。違和感を覚えたら自己判断せず、歯科医師に相談することが重要です。
日々のお手入れを怠ると、むし歯や歯周病のリスクが高くなります。
定期的に歯科医院でメンテナンスを受けることで、入れ歯のトラブルを早期に発見し、対処できるでしょう。
保険対応の入れ歯は、6ヶ月経たないと新しいものを作製できません。そのため、紛失には十分に注意しましょう。
奥歯の部分入れ歯が合わない場合の対処法
奥歯の部分入れ歯を装着したものの、痛みを感じたり外れたりなどトラブルが生じることがあります。
こうしたトラブルは、無理に使い続けると悪化する恐れがあるため、早めに歯科医師に相談することが大切です。
何度調整や修正しても改善できない場合は、次のような対処法を検討しましょう。
ほかの種類の入れ歯に変更する
素材や設計が原因で合わない場合は、次のように、別のタイプの部分入れ歯に変更することで快適性が向上する可能性があります。
- クラスプの見た目が気になる場合:ノンクラスプデンチャー
- ぐらつきが気になる場合:マグネットデンチャーやインプラントデンチャー
- 硬い感じが苦手な場合:シリコン義歯やBPSデンチャー
- 噛みにくさを改善したい場合:テレスコープ義歯
お口の状態や希望に応じて適切な入れ歯を選択できるため、自分に合った選択肢を歯科医師に相談しましょう。
入れ歯以外の治療を選択する
入れ歯の違和感がぬぐえない場合は、それ以外の治療も選択可能です。インプラントといった固定式の補綴治療を検討してはいかがでしょうか。
インプラントは自由診療で受けられる治療の一つです。顎の骨に人工歯根を埋め込むことで、天然歯に近い機能性や見た目が得られます。
奥歯を部分入れ歯にする場合の費用目安
奥歯を部分入れ歯にする場合の費用目安は、以下のとおりです。
- レジン床義歯:約5,000~10,000円(3割負担の場合)
- ノンクラスプデンチャー:約100,000~200,000円(税込)
- マグネットデンチャー:約100,000~500,000円(税込)
- シリコン義歯:約100,000~1,000,000円(税込)
- インプラントデンチャー:約100,000~1,000,000円(税込)
- テレスコープ義歯:約800,000~1,500,000円(税込)
- BPSデンチャー(片顎の場合):約900,000~1,450,000円(税込)
自由診療の場合は、お口の状態や使用する素材や設計などによって費用が大きく異なります。治療を希望する場合は、事前に見積もりを依頼するようにしましょう。
まとめ
奥歯は食べ物を噛むために重要な役割を担っている歯で、1本でも失うと噛む力は激減するといわれています。
奥歯を失った患者さんの治療法として、部分入れ歯という選択肢があります。
保険適用の部分入れ歯は、レジン製の床義歯です。短期間で作製でき、取り外しができるため清掃しやすいなどのメリットがあります。
その一方で、痛みや違和感を覚える方が少なくありません。
そのような方には、お口の状態や素材、設計などの希望に合わせて自由診療の入れ歯を選択できます。
快適な毎日を過ごすためには、部分入れ歯が合わないからといって我慢せず、歯科医師に相談することが重要です。
参考文献