セラミック治療が完了した後の美しい状態を保ちたいと考えるのは当然です。
しかし、本当に毎日の歯磨きだけで、治療直後のような美しさを維持できるのでしょうか。
実は、よかれと思って続けているセルフケアが、逆にセラミックを傷つけている可能性があります。
本記事では、歯科医院の専門的な視点から、セラミックの輝きを守るための正しいセルフケア方法、美しさを損なう意外な生活習慣、そしてプロによる定期メンテナンスの重要性を詳しく解説します。
大切なセラミックの歯と長く付き合い、自信のある笑顔を守るために、ぜひ最後までご覧ください。
セラミックでも汚れてしまう理由
- セラミックはどのような素材ですか?
- セラミックは、日本語では陶材(とうざい)とも呼ばれる、とても優れた歯科治療の材料です。普段使っている陶器のお皿の素材をイメージすると、わかりやすいかもしれません。
歯科で使われるセラミックで有名なものとして、ジルコニアがあります。
セラミック材料は、以下のような特徴があります。- 天然の歯が持つような自然な色合いと質感を再現できる
- 変色や劣化が少なく、治療完了後の色が長期間にわたって安定しやすい
ふたつの特徴から、セラミックは見た目の美しさが求められる部分の歯科治療によく用いられます。
- セラミックに汚れが付着したり着色したりする理由を教えてください
- セラミック自体は着色が起きにくいですが、汚れの付着や着色の原因は主にセラミックの表面や周辺部にあります。
代表的な原因は、歯の表面に付着するプラーク(歯垢)です。
プラークは細菌の塊で、セラミックの表面にも付着し、飲食物の色素を吸着して着色の原因となります。
また、セラミックを歯に固定している接着剤が、時間とともに変色する可能性はゼロではありません。
特に歯とセラミックの境目に見られる変色は、接着剤の変色が原因として考えられます。
ある研究では、セラミック治療後の10年後には、半数以上の症例で歯と詰め物の境目に変色が見られたと報告されました。
ほかにも、研磨剤入りの歯磨き粉による表面の微細な傷や、歯とセラミックの隙間から色素が入り込むケースも、セラミックの汚れにつながる場合があります。
セラミックを長く美しく保つためのセルフケア
- セラミックを美しく保つために自分でできることを教えてください
- セラミックの美しさを保つ基本は、毎日の丁寧なセルフケアにあります。
歯ブラシはふつうかやわらかめの硬さを選び、力を入れすぎずに優しく磨くことが大切です。
特に、セラミックと歯茎の境目はプラークが溜まりやすいため、意識して丁寧に歯磨きをしましょう。
また、歯ブラシだけでは届かない歯と歯の間や、セラミックと隣の歯との境目は、デンタルフロスや歯間ブラシを使ってください。
歯ブラシの毛先が届きにくい部分の汚れは、着色だけでなく、二次的なむし歯の原因にもなります。
歯磨き粉は、研磨剤が多く含まれている製品は避けましょう。
長期間の使用でセラミックの表面に細かい傷がつき、かえって汚れが付着しやすくなる可能性があるためです。
- セラミックを美しく保つために避けた方がよい行動はありますか?
- セラミックを長持ちさせるためには、いくつかの行動を避けるのが賢明です。具体的には、以下3つの行動を避けましょう。
- 強すぎる力での歯磨き
- 歯ぎしり・食いしばり
- 硬い食べ物を不用意に噛む
ゴシゴシと力任せに磨くと、歯茎が下がってしまったり、歯の根元にあるセメント質を傷つけたりする原因になります。
また、睡眠中の歯ぎしりや食いしばりなど無意識の行動にも注意が必要です。セラミックは強い力がかかると、欠けたり割れたりするリスクが高まります。
自覚がある方は、歯科医院で相談し、就寝時にマウスピース(ナイトガード)を装着するような対策をとりましょう。
さらに、セラミックは陶器と同じで、瞬間的な強い衝撃には弱い性質があります。氷やナッツ類、骨付き肉などを勢いよく噛むのは避けるように心がけてください。
- セラミックを美しく保つために摂取しない方がよい食べ物や飲み物はありますか?
- セラミック自体は飲食物による着色に強い素材です。
しかし、表面に付着したプラークや、歯との境目にある接着剤は着色する可能性があります。
特に、以下のような色素の濃い飲食物は、摂取後に着色しやすいため注意が必要です。- コーヒー
- 紅茶
- 緑茶
- コーラ
- カレー
これらの飲食物を完全に断つ必要はありません。
ただし、摂取後は水でお口をゆすぐ、あるいは早めに歯を磨くなど、お口のなかに留めておく時間を短くする工夫が大切です。
セラミックを美しく保つための歯科医院でのメンテナンス
- セラミックを美しく保つために歯科医院に通院する必要はありますか?
- セラミックを美しく保ちたいなら、歯科医院には積極的に通院しましょう。
歯科医院の定期検診は、セルフケアでは取りきれないプラークやバイオフィルム(細菌の膜)を専門の器具や機械で取り除き、美しさを維持するためのポイントです。
また、自分では気付きにくい歯周病をはじめとするトラブルのサインを早めに見つけるためにも、定期的なメンテナンスは欠かせません。
歯科医院の定期検診は”車の定期点検”とよく似ています。
専門家の診察を受けると、見た目には問題がなくても、以下のようなトラブルのもとを発見可能です。- セラミックと歯のすき間
- 噛み合わせのわずかなズレ
- 接着剤の劣化
定期的に診察を受けてトラブルの芽を初期段階で摘み取れば、将来の破損や歯周病などの大きなトラブルを防げます。
- 歯科医院で行われるセラミックのメンテナンス方法を教えてください
- 歯科医院でのメンテナンスでは、専門的な知識と器具を駆使して、セルフケアでは対応しきれない高度なクリーニングとチェックを行います。
まず、歯科医師や歯科衛生士によるプロフェッショナルクリーニング(PMTC)で、歯の表面を徹底的に磨き上げます。クリーニング時には、セラミックの表面を傷つけないよう、粒子の細かい専用の研磨ペーストを使用するのが特徴です。
また、セラミックと歯の適合状態のチェックや噛み合わせの調整なども、セラミックが破損するリスクの低減につながるため、こまめなメンテナンスは積極的に受けましょう。
セラミックに着色・汚れが目立つ場合の対処法
- すでにセラミックが汚れてしまったのですが自分できれいにすることはできますか?
- いいえ、すでに汚れてしまったセラミックを自分できれいにするのは難しいです。
市販のホワイトニング剤は、天然歯のエナメル質に作用するものがほとんどなため、セラミックの色を白くする効果はありません。
また、以下のような無理なセルフケアは、かえってセラミックに汚れや着色が付きやすい状態になってしまいます。- 研磨剤が多く含まれた歯磨き粉で強くこする
- 硬いブラシで無理に汚れを落とそうとする
- そのほかセラミックの表面に細かい傷がつくようなケア
自己判断での対処はリスクが伴うため、まずは歯科医師に相談しましょう。
- 歯科医院で着色や汚れがあるセラミックを美しくする方法を教えてください
- 歯科医院では、汚れの原因と程度に応じて、いくつかの対処法があります。
表面的な着色であれば、専門の器具と研磨剤を用いたPMTCで元の美しい白さを取り戻せる場合がほとんどです。
もしセラミックの一部が小さく欠けている場合は、リペアと呼ばれる補修処置が可能なこともあります。
しかし、着色が内部にまで及んでいる場合や、接着剤自体の変色が著しい場合、あるいは破損が大きい場合には、セラミックを新しく作り直した方がよいケースもあります。
どの方法が適切かは、お口の状態によって異なるため、歯科医師とよく相談して決定することが重要です。
編集部まとめ
せっかく手に入れた美しいセラミックの歯を長く美しく保つためには、毎日の正しいセルフケアと歯科医院での定期的なメンテナンスが大切です。
日々の丁寧なケアと定期検診のサイクルを確立すると、セラミックを美しく保つだけでなく、長期的なお口の健康維持にもつながります。
セラミックの見た目やケアで気になる点があれば、まずはかかりつけの歯科医院に相談し、現状をチェックしてもらいましょう。
参考文献
- 大槻主税.“生体関連セラミックスの現状と展望 第6回 アパタイト系バイオセラミックス”.セラミックス.2005.
- 髙橋英和.“歯科材料のあゆみと展望”.まてりあ.2022-03.
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- 小野茂.“歯科における接着の基礎と臨床”.新潟歯学会雑誌.2009-06.
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- Jimbo, Shintaro, and Tetsu Takahashi.“Potential for Clinical Application of Bioceramics”.Asian Journal of Oral and Maxillofacial Surgery.1999.
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