歯科用セラミックの硬度はどのくらいなのでしょうか。人工歯に十分な硬さがないと長持ちしないため、セラミックの硬さが気になる方もいることでしょう。
セラミックの硬度や特性は、素材の種類によって異なります。本記事では、セラミックの硬度に加えて、セラミック素材の種類・特徴についても解説します。
セラミック治療が向いている人・向いていない人の特徴も解説しているので、セラミック治療をお考えの方はぜひ参考にしてください。
セラミックの硬度と天然歯の硬度
セラミックは、天然歯よりも硬度が高いとされています。
人工歯の硬さが十分でなければ、摩耗して噛み合わせや咀嚼に影響が出たり破損したりする可能性があります。
そのため、セラミックの硬度が気になる方もいるのではないでしょうか。
硬さを測定する方法の一つに、ビッカース硬さがあります。
天然歯のエナメル質のビッカース硬さは270~400HV、セラミックを使用した陶歯は460~500HVです。
ビッカース硬さの値から、セラミックは天然歯よりも硬いことがわかります。ただし、人工歯は硬ければよいものではありません。
天然歯と比べて硬すぎると、対合する天然歯の摩耗や欠けなどの悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
近年普及しているセラミックの一つ、ジルコニアのビッカース硬さは1200HVと天然歯と比べて大変高くなっています。
以前、セラミックはもろいといわれていました。
しかし、イーマックスやジルコニアなどしっかりした硬さのあるセラミックも登場し、単体でオールセラミックとして使用できるようになっています。
セラミックは硬さはあるものの小さな亀裂ができると壊れやすい特性があり、主に前歯部・小臼歯部に使用されます。
ジルコニアはほかのセラミック素材に比べて強度が高く、噛む際に力がかかりやすい大臼歯にも使用可能です。
セラミック治療で使われる素材の種類
セラミック治療は、歯の欠けた部分や亀裂部分などにセラミック製の詰め物(インレー)・被せ物(クラウン)をする歯科治療です。
セラミックは、人工的に製造された非金属無機質固体材料のことです。歯科治療では、より性能を高めた高精密なファインセラミックスを使用します。
ファインセラミックは化学組成や結晶構造などを精密に制御して製造され、通常のセラミックよりも透明度が高く、天然歯に近い光透過性が特徴です。
セラミック治療で使われる素材の種類には、以下のようなものがあります。
- ポーセレン
- ジルコニア
- イーマックス
- メタルボンド
- ハイブリッドセラミック
それぞれのセラミック素材の特徴をみていきましょう。
ポーセレン
ポーセレンは長石質・ルーサイト・陶土を主成分とする陶材で、セラミックの代表的な素材です。
審美性に優れており、長年審美治療に用いられてきました。
光透過性が高く、金属酸化物を着色剤として混ぜると天然歯に近い色・光沢感・透明感の再現が可能です。
一方、単体では強度が低い特性があるため、金属やジルコニアのフレームに焼き付けて人工歯を作製します。
また、歯の表面に薄いポーセレンのベニアを貼り付けるラミネートベニア修復にも用いられます。
ポーセレンラミネートベニア修復は歯を削る量が0.5mm程度と少なく済む点がメリットで、歯の変色・歯と歯の間に少し隙間がある場合などに効果的な治療法です。
ジルコニア
ジルコニアは酸化ジルコニウムを主成分とするセラミックで、人工ダイヤモンドともよばれます。
2000年代から、ジルコニアを使用したセラミックスクラウンが治療に用いられるようになりました。
ジルコニアは大変硬く、切削が難しいとされていました。
しかし、CAD/CAMが導入されコンピューターで設計・加工できるようになり、現在は精密なジルコニア補綴物が作製可能です。
ジルコニアは天然歯のエナメル質よりも大変硬いため対合歯の摩耗に注意が必要ですが、ジルコニアの表面を適切に研磨すれば対合歯に影響しないとされています。
ジルコニアは、ファインセラミックスのなかでも硬度・強度に優れている点が特徴です。
金属に匹敵する強度を持ち耐久性が高いことから、前歯部のみならず力がかかりやすい大臼歯(奥歯)にも使用されます。
また、汚れが付きにくく、歯の健康を維持しやすいことも魅力です。
金属を使用しないため天然歯に近い色を再現できるものの、審美性の面ではポーセレンやイーマックスに劣ります。
イーマックス
イーマックスは、ニケイ酸リチウムを主成分とするガラスセラミックスです。天然歯に近い硬度を持ち、対合歯を傷つけにくい点が特徴です。
また透明感・色調・ツヤ感など審美性にも優れており、天然歯に近い見た目を再現できます。
イーマックスはポーセレンの弱点である強度の低さをカバーした強化型セラミックスで、審美性と耐久性を兼ね備えたセラミックとして注目されています。
強度があり奥歯の詰め物やブリッジにも使用できますが、強い衝撃が加わると割れる可能性があり注意が必要です。
また、透明度が高く歯の土台の色を反映しやすいため、金属の土台が入っている場合や土台に変色がある場合は適していません。
メタルボンドは金属製のフレームにセラミックを焼き付けたもので、主に前歯部・小臼歯部に用いられます。
フレームが金属のため強度に優れ、高い耐久性があります。
外側はセラミックなので銀歯よりも審美性に優れますが、内側に金属がある分、ほかのセラミックと比べて透明度は劣るでしょう。
また、金属を使用すると歯茎の変色・金属アレルギーのリスクもあります。
ほかのセラミックよりも審美性は劣りますが強度が高いため、見た目よりも被せ物の強度を重視したい方、食いしばり・歯ぎしりがある方などにおすすめです。
ハイブリッドセラミックは、セラミックとレジン(歯科用プラスチック)を混合させた素材です。
レジンが含まれている分原材料費が抑えられ、治療費も抑えられる点が特徴です。適度な硬さで、天然歯を傷つける心配もほとんどありません。
ただし、レジンのデメリットも持ち合わせています。通常のセラミックと比べると、色が単調でツヤ感や耐久性が劣ります。
また、経年変化によって摩耗し、水分を吸収して黄色く変色する可能性があるでしょう。
経年変化により表面に汚れが付きやすくなり、むし歯の再発リスクが高まるため注意が必要です。
セラミックの特徴
セラミックの大きな特徴は、審美性の高さです。金属を使用しないオールセラミックであれば、天然歯と同じような透明感・ツヤ・色調を再現できます。
また、生体親和性が高く、お口に自然に馴染むことも魅力でしょう。
セラミックの種類によっては高い耐久性を持ち、長く使用できたり経年変化による変色を防げたりします。 寿命・変色の観点からセラミックの特徴を解説するので、セラミックの耐久性が気になる方はぜひ参考にしてください。
セラミックの寿命
セラミックの寿命は7~10年程度、ジルコニアは10~15年程度といわれています。
保険適用のコンポジットレジンの寿命目安は2~3年、銀歯は5~7年とされているので、セラミックは寿命が長いといえるでしょう。
人工歯に用いられる素材には、主に金属・レジン(歯科用プラスチック)・セラミックがあります。
セラミックはレジンよりも耐摩耗性・食物粉砕能力の維持に優れ、変色・着色しにくいという特徴があり、耐用年数も長い素材です。
また、セラミックは表面がなめらかで汚れや色素が付きにくく、付いても落としやすいことも寿命が長い理由の一つです。
ただし、適切なケアやメンテナンスを行わなければ、むし歯・歯周病・破損などを引き起こし寿命が短くなる可能性があるでしょう。
セラミックを長持ちさせるためには、セラミック治療後に適切なケアを継続し、定期的に歯科医院でメンテナンスを受けることが大切です。
変色の可能性
セラミックは金属やレジンよりも経年変化しにくく、変色する可能性が少ない素材です。
レジンは、経年変化によって次第に黄色く変色してしまいます。
また、銀歯は長く使用しているうちに変色したり、歯茎を黒く変色させてしまったりします。
銀歯のように金属を使用している場合、経年変化により金属イオンがお口の中に溶け出し、歯茎が黒ずんでしまうことがあるのです。
一方、セラミックは金属を使用していないため、歯茎を変色させることはありません。
天然歯に近い色を長期間維持でき、周囲の歯茎も変色させない点は、セラミックの大きな魅力です。
セラミック治療をした歯を美しく保つためにも、定期的なメンテナンスをしっかり行いましょう。
セラミックは割れることがある?
セラミックは硬度があり長持ちしますが、強い衝撃を受けると割れたり欠けたりする可能性があります。
セラミックが割れるケースとして、以下のようなものが挙げられます。
- 歯ぎしりが強い
- 食いしばりが強い
- 噛み合わせが強い
- 硬いものにぶつけた
上記のような衝撃が加わると、セラミックの種類によっては割れる場合があるでしょう。
イーマックスやジルコニアは従来のセラミックよりも高い強度を持ち、割れにくい素材です。
セラミックの強度(破壊靭性値)は以前よりも改善されてきていますが、金属と比べるとまだ弱く、割れることがあります。
噛み合わせの状態や歯ぎしり・食いしばりの程度によってはセラミックが割れてしまう可能性があるため、注意が必要です。
セラミック治療が向いている人
セラミック治療を検討しているけれど、自分に合っているのかわからない方もいるのではないでしょうか。
セラミック治療は、次のような方に向いています。
- 金属アレルギーがある方
- 見た目・歯並びを重視している方
- むし歯を再発させたくない方
セラミック治療が向いている方の特徴や向いている理由を解説するので、ぜひ参考にしてください。
金属アレルギーがある
メタルボンド以外のセラミックは金属を使用していないため、金属アレルギーがある方に向いています。
銀歯やメタルボンドのように金属を使った詰め物・被せ物の場合、長期間使っているうちに金属アレルギーを発症する危険があり注意が必要です。
お口の中の金属から少しずつ金属イオンが溶け出し、アレルギー反応を起こして皮膚のかゆみ・発疹・腫れなどを引き起こすことがあります。
金属アレルギーがあるとわかっている方は、アレルギー反応を起こすリスクのある銀歯やメタルボンドは避け、金属を使用しないセラミック治療を受けるとよいでしょう。
見た目・歯並びを重視している
審美性の高さは、セラミック治療の大きな魅力です。
金属を使用しないセラミックは天然歯のような半透明性があり色を調節しやすいため、自然で美しい見た目を重視したい方におすすめです。
また、削った歯の上にセラミックを被せるセラミック矯正では、短期間で歯並びを整えられます。歯が小さい方や、変色した歯にも対応できます。
セラミック治療は、目立ちやすい前歯をきれいに見せたい方や、見た目も歯並びも重視したい方に向いているでしょう。
むし歯を再発させたくない
セラミックの表面はなめらかで汚れが付きにくく付いても落としやすいため、むし歯や歯周病になりにくいことが魅力です。
金属・レジンも含め、人工歯自体がむし歯になることはありません。
しかし、隙間や段差が生じるとそこに汚れが溜まったりむし歯菌が入り込んだりして、むし歯が再発するケースがあります。
セラミックは金属やレジンと異なり、長期間お口の中にあっても変形せず隙間ができにくいことが特徴です。
汚れが蓄積しにくく、ケアもしやすい状態を維持できるため、セラミックは金属やレジンよりもむし歯の再発リスクが低いといえるでしょう。
ただし、毎日のケアが不十分だとセラミックであってもむし歯が再発する可能性があります。むし歯の再発を防ぐためには、毎日のケアが大切です。
セラミック治療が向いていない人
セラミック治療が向いている方がいる一方で、向いていない方もいます。
お口の中の状態によっては、セラミック治療が難しい場合もあります。
では、セラミック治療が向いていない方の特徴をみていきましょう。
歯周病が進行している
歯周病が進行していると、歯に合った補綴物が作製できなかったり、セラミックへの負担が大きくなり寿命が短くなったりします。
歯周病が進行したまま治療せずにセラミック治療を行うと、噛み合わせが変化してセラミック歯に負担がかかりやすくなるため注意が必要です。
また、歯周病が進行していると歯茎が腫れ、正確な型が取れなくなります。 歯茎の状態が改善されればセラミック治療ができる可能性があるので、歯周病がある場合はまず歯周病の治療を優先しましょう。
歯ぎしり・食いしばりがある
セラミックは、歯ぎしり・食いしばりによって強い力がかかると割れてしまうことがあります。
歯ぎしり・食いしばりが歯に与える負担は、通常噛む力の3倍以上だといわれています。
負担が蓄積するとセラミックの割れ・欠け・脱落を引き起こし、天然歯の摩耗や噛み合わせ悪化の可能性もあるでしょう。
歯ぎしり・食いしばりの癖がある方は歯科医院に相談し、噛み合わせ調整・ナイトガードなどで適切に治療しましょう。
治療費を抑えたい
セラミック治療は保険適用外のため、治療費を抑えたい方には向いていません。
料金は、歯科医院やセラミックの種類によって異なります。
詰め物は40,000~90,000円(税込)、被せ物は50,000~150,000円(税込)が目安です。
メタルボンドは70,000~130,000円(税込)が目安です。
コンピューターで作製するジルコニアの方が、治療費は安価になります。
また、ハイブリッドセラミックを使ったCAD/CAM冠は2014年から保険導入されており、症例によっては保険適用になります。
保険診療を行った場合の費用は、8,000~9,000円が目安です。
まとめ
セラミックの硬度・種類・特徴などを解説しました。
セラミックは天然歯に近い見た目と硬さを持ち、金属やレジンの人工歯よりも長持ちすることが特徴です。
近年は、高い硬度と強度を兼ね備えたジルコニアも普及しています。セラミックにはさまざまな種類があり、種類によって特性が異なります。
セラミック治療を検討している方は、自分にセラミック治療が向いているかどうか把握したうえで、お口の状態や用途に適したセラミックを選びましょう。
参考文献
- 差し歯・冠|日本歯科医師会
- 硬さと割れにくさ両立したセラミックス実現に道―わずかな亀裂進展で靭性が急激に増すことを発見―|東京工業大学
- CAD/CAM治療について|一般社団法人 日本臨床歯科CADCAM学会(JSCAD)
- セラミックス製人工歯(陶歯,陶材)
- 人工歯(レジン歯と硬質レジン歯)の使い分け方を教えてください。
- コバルトクローム・プロステック・アプライアンス~デンチャー編~(その1)
- 保存修復科(旧美容歯科)|昭和大学歯科病院
- セラミックスとは?|公益社団法人 日本セラミックス協会
- ファインセラミックスとは|一般社団法人日本ファインセラミックス協会
- CAD/CAM冠用歯科材料の進化
- ポーセレン応用による審美修復:ラミネートベニア修復およびインレー修復について
- ポーセレン・ラミネートベニア修復の25年経過症例
- 補綴科|東京歯科大学 水道橋病院
- パナマット ファイヤー
- ジルコニア:マテリアルサイエンスから見た最新のエビデンス
- 歯のQ&A|一般社団法人 豊橋市歯科医師会
- 変色歯治療の過去,現在,未来
- 自由診療に関わる治療リスクと副作用について|神奈川歯科大学附属病院
- 歯科用セラミックスの理工学的性質
- 保険診療における CAD/CAM 冠の診療指針 2024