入れ歯をしたら顔の見た目が変わってしまうと、心配する方は少なくありません。
お口を開けるたびに入れ歯が目立つと、会話や会食も億劫になり、大きな悩みとなってしまうこともあります。
しかし、入れ歯は適切に対処すれば、目立ちにくく快適に使用することが可能です。
本記事では、入れ歯で見た目が変わる原因と対策、入れ歯治療のメリット・デメリットを解説します。
見た目が気になって入れ歯治療を悩んでいる方の参考になれば幸いです。
入れ歯で見た目が変わる原因
入れ歯を装着すると、装着前よりも見た目が変わることがあり、患者さんによっては大きな悩みとなってしまいます。
ただ、入れ歯の製作やその後のメンテナンスに気を配ることで、見た目の変化を抑えることができます。
入れ歯で見た目が変わってしまうのは、主に以下のような原因によるものです。
- 義歯の色が周りから浮いている
- 金属が見える
- 筋肉が衰える
- 噛み合わせの位置が低い
- 刺激が届かない骨が退縮する
それぞれの内容を解説します。
義歯の色が周りから浮いている
歯や歯茎の色は人それぞれ違うため、以前の歯と色が合っていないと違和感が生じます。
部分入れ歯の場合は周りの歯に合わせることが特に重要で、入れ歯製作時には慎重に色を選びましょう。
総入れ歯の場合でも、過剰に白い歯にし過ぎて違和感を覚える方は少なくありません。
白ければ白い程よいわけではなく、自然に顔に馴染む色を選ぶのが重要です。
金属が見える
部分入れ歯は、クラスプと呼ばれるバネを隣の歯に引っかけて支える入れ歯です。
保険診療での入れ歯は金属製のバネが一般的で、お口のなかで金属が目立ってしまうことが少なくありません。
特に前歯の場合は金属のバネがかなり目立ってしまうため、前歯だけは金属を使わない材料にすることもできます。
筋肉が衰える
入れ歯をするとどうしても食べ物が噛みにくくなるため、やわらかい食べ物を好むようになったり、入れ歯側の歯で噛まなくなったりする方が少なくありません。
硬いものを噛まないと顎の筋肉が衰え、筋肉の萎縮や顔のたるみによって見た目が変わってくることがあります。
しかし、歯がない状態を放置している方が顔の筋肉はさらに衰えやすくなっており、入れ歯には、顔の筋肉を維持する役割もあります。
入れ歯での噛み方には慣れが必要ですが、少しづつ調整しながらしっかり噛めるようにしていきましょう。
噛み合わせの位置が低い
入れ歯の調整がうまくいっていないと、以前よりも噛み合わせの位置が変わってしまい、表情も変化することがあります。
歯が抜けたままの状態を放置していると骨や歯茎が退縮していき、その退縮した高さに合わせて入れ歯を作ると、以前よりも噛み合わせの位置が低くなります。
入れ歯を作る際には、検査や試着でしっかり装着時の状態を確認し、装着時の見た目を考慮した入れ歯を作ってもらうことが重要です。
刺激が届かない骨が退縮する
入れ歯は、咀嚼を通じて顎の骨に刺激を伝える役目もあります。
人間の骨は刺激や衝撃を受けると強く成長する性質があり、顎の骨を健康に保つには咀嚼による刺激が必要です。
入れ歯が骨にしっかりフィットしていれば、刺激が伝わって顎の骨も維持できます。
しかし、入れ歯が合っていないと一部の骨に刺激が伝わらず、その部分が退縮して顔の輪郭が変わることがあります。
入れ歯製作の際には、顔にしっかりフィットするように、精密な検査と設計をしてくれる歯科医院を選びましょう。
目立ちにくい入れ歯
入れ歯の金属が目立つと、見た目の印象も大きく変わってしまいます。
特に前歯の入れ歯は、お口を開けるたびに金属が見えるので、患者さんにとって大きな悩みとなることがあります。
入れ歯になったことで人と会いたくなくなり、コミュニケーションの機会が減少してしまうのも大きな問題です。
自由診療では目立ちにくい入れ歯も選択可能で、見えやすい部位だけは目立ちにくい入れ歯を選ぶという方は少なくありません。
目立ちにくい入れ歯には、主に以下のような種類があります。
- ノンクラスプデンチャー
- 金属床
- シリコンデンチャー
- コーヌスクローネ
- 磁性アタッチメント
- インプラントデンチャー
それぞれについて解説します。
ノンクラスプデンチャー
ノンクラスプデンチャーは、バネ(クラスプ)の部分が歯茎と同じ色の樹脂製で、金属のバネを使わない入れ歯です。
前歯の部分入れ歯でもバネが目立ちにくいことから、審美面のメリットで選ぶ方が少なくありません。
バネも義歯床も樹脂製のノンクラスプデンチャーは強度面での問題が指摘されているため、義歯床だけは金属床のタイプもあります。
ノンクラスプデンチャーは保険適用外となるため、費用は1本あたり100,000円(税込)以上が相場です。
金属床
部分入れ歯は、義歯・義歯床・クラスプ(バネ)の3つの部位で構成されています。
金属床は、義歯床がコバルトクロムやチタンなどの金属製で、プラスチック製の義歯床に比べて厚みを大幅に薄くできるのがメリットです。
義歯床が薄いと見た目も使用感も違和感が少なく、食べ物の熱を伝えやすいため、おいしさが伝わりやすいというメリットもあります。
義歯床が薄く、クラスプが樹脂製であれば強度を保ったまま目立ちにくい入れ歯となるため、審美面を気にされる方には有力な選択肢となります。
金属床は保険適用外となるため、費用は1本あたり100,000円(税込)以上が相場で、コバルトクロムやチタンなど材料によっても大きく異なります。
シリコンデンチャー
シリコンデンチャーは、義歯床とクラスプが弾力のあるシリコン素材で一体化している入れ歯です。
シリコンデンチャーの部分入れ歯はソケットと呼ばれる形状で、義歯床に空いた穴に隣の歯をはめ込むように固定します。
歯茎と同じ色の義歯床を選べば、前歯でも目立ちにくく、他人から見ても気付かれにくくなります。
義歯床もクラスプもやわらかいため、歯茎や隣の歯を傷つけず、痛みや負荷が少ないことがメリットです。
デメリットは、義歯床が分厚くなってしまうことと、やわらかいため強度が劣ることです。
シリコンデンチャーは保険適用外となるため、費用は1本あたり約150,000円(税込)が相場となります。
コーヌスクローネ
コーヌスクローネは、入れ歯を支える歯に金属製の冠を被せて、その冠に人工歯をはめ込んで固定する部分入れ歯です。
ドイツで普及しているため、ドイツ式入れ歯と呼ばれることもあります。
支える歯も人工歯冠が被さるため、金属部分が見えにくくなり、極めて強い安定感を得られます。
隣の歯に架橋して人工歯を支えるブリッジ治療との違いは、入れ歯を取り外してのメンテナンスが可能なため、こまめな洗浄もしやすい点です。
冠を被せるために健康な隣の歯を削らなくてはいけないのがデメリットで、慎重な検討が必要です。
コーヌスクローネは保険適用外であるため、1本あたり400,000〜500,000円(税込)の費用が相場となります。
磁性アタッチメント
磁性アタッチメントは、コーヌスクローネと同じように隣の歯に金属製の冠を被せて、磁力で入れ歯を固定する部分入れ歯です。
コーヌスクローネは冠にピッタリ人工歯をはめ込んで摩擦力で固定するのに対し、磁性アタッチメントは磁力で固定するのが特徴です。
はめ込み式に比べて脱着の際の負担が少ないうえに、強度や安定感は劣りません。
磁性アタッチメントは保険適用が可能な場合があるため、費用や適用条件は歯科医師にご相談ください。
インプラントデンチャー
インプラントデンチャーは、歯槽骨に金属製のインプラント体を埋め込んで、総入れ歯を固定する治療方法です。
ほとんどの歯を失ってしまった場合に適用され、すべての歯をインプラントにするより費用を抑えられるのがメリットです。
また、入れ歯はインプラント体から取り外しできるため、洗浄やメンテナンスがしやすくなっています。
インプラント治療と同等の安定感が得られ、金属が目立ちにくいため、見た目の変化も少なくなるでしょう。
インプラントデンチャーは保険適用外で、費用は症例によって大きく異なりますが、一般的に700,000〜1,500,000円(税込)が相場となります。
見た目をきれいに見せるためのポイント
入れ歯で見た目が変わってしまうことは、事前の対策でかなり軽減できます。
歯科医師との十分な相談のもと、適切に対処すれば入れ歯の満足度も高くなるでしょう。
入れ歯治療を受ける際に、覚えておきたい対策は以下の3つです。
- 自分に合った入れ歯を選ぶ
- 抜けっぱなしの期間を作らない
- 顔のハリを保つためのストレッチをする
それぞれの内容を解説します。
自分に合った入れ歯を選ぶ
入れ歯は、自分に合ったものを着用することが不可欠です。
製作の際の検査や設計が重要なのは当然ですが、どれだけ精密に作っても、実際に着用してみると違和感があるということは少なくありません。
入れ歯は調整を繰り返しながら使用するものなので、入れ歯を装着した後も定期的に通院して調整してもらいましょう。
自分に合わない入れ歯を使い続けていると、歯並びの乱れや顎の変形など、見た目の変化につながる場合があります。
抜けっぱなしの期間を作らない
失った歯を補う治療を補綴治療(ほてつちりょう)といい、歯が抜けたままの状態にしないことは口腔内全体の機能を維持するために極めて重要です。
一部だけ歯がない状態が続くと、隣の歯が傾いてしまったり、反対側の歯が異常に伸びてきたりして口腔内全体の機能に支障がでることがあります。
歯を失ったら早期に補綴治療を行い、歯が抜けっぱなしの状態にならないようにしましょう。
顔のハリを保つためのストレッチをする
入れ歯着用後は硬いものを噛みにくくなるため、食事がやわらかいものに偏りがちになります。
顎の筋肉や骨に適度な刺激がないと、骨と筋肉の退縮によってフェイスラインが変わってしまうことも少なくありません。
顔のハリを保つためにも、日常的にストレッチや体操などで顔の筋肉を鍛えておきましょう。
お口周りの筋肉を鍛える体操として有効なのがあいうべ体操で、あ・い・う・べの音をお口を大きく開けながら発音します。
入れ歯のメリット・デメリット
失った歯を補う補綴治療は、主に以下の3つから選ぶことになります。
- 入れ歯治療
- ブリッジ治療
- インプラント治療
入れ歯治療のメリットは可逆的であることで、ブリッジ治療のように架橋する歯を大きく削ったり、インプラント治療のように骨に土台を埋め込んだりなどの不可逆的な手術が必要ありません。
保険診療の入れ歯であれば費用負担も抑えられるため、まず入れ歯治療をしてからほかの治療方法を検討される方もいます。
入れ歯による見た目の変化がどうしても気になる場合には、ほかの治療方法や自由診療の目立ちにくい入れ歯を検討するとよいでしょう。
逆に入れ歯治療のデメリットは、ブリッジ治療やインプラント治療に比べて安定性が悪く、食事や発音の機能が低下しやすいことです。
お口にフィットした入れ歯であれば、かなり安定性は高まりますが、強固に固定されたブリッジ治療やインプラント治療には劣ります。
補綴治療を選択する際は、それぞれのメリット・デメリットを考慮したうえで、慎重に判断しましょう。
入れ歯製作の流れ
入れ歯を製作するには、まず口腔内の状態を歯科医師が慎重に検査し、どのような入れ歯が適しているかを考えて治療計画を立てます。
必要であれば、先にほかの歯のむし歯や歯周病を治療し、簡単な型とりをする場合もあります。
入れ歯を作るための型とりは印象採得といい、極めて精密な作業です。
印象採得が終わったら、今度は噛み合わせの型をとる咬合採得を行います。
とった型をもとに、はじめはロウでできた仮の入れ歯を試着し、歯並びや噛み合わせ・見た目をチェックします。
その後、問題がなければ実際の入れ歯を製作し、一般的に製作期間は1~2ヵ月です。
完成した入れ歯を装着したら、違和感や見た目をチェックし、その都度調整をしていきます。
入れ歯のお手入れ方法
入れ歯を効果的に使うには、毎日のお手入れが欠かせません。
できれば毎食後に入れ歯を外して、専用の入れ歯用ブラシで汚れを落としましょう。
この際に研磨剤の入った歯磨き粉を使うと、入れ歯が傷つくリスクがありますので、歯磨き粉は使わないでください。
入れ歯は長時間着用し続けないようにして、寝るときは必ず取り外します。
夜寝る前に入れ歯を外したら、洗浄液に漬けておくと汚れがつきにくくなります。
まとめ
お口を開けるたびに入れ歯が目立ってしまうのは気になりますが、歯が抜けたままの状態にしておく方が見た目が変わるリスクは高くなります。
失った歯をそのままにしておくと、骨や筋肉が退縮して顔の見た目も変わってしまうことがあるため注意が必要です。
また、入れ歯は材料やメンテナンスによって目立ちにくくなり、快適に装着できます。
ご自身に合った入れ歯を適切に選択し、お口の機能や見た目を守るためにも、まずは歯科医師にご相談ください。
参考文献