入れ歯を作るには長い治療期間が必要です。デリケートなお口の中に異物を設置するので、慎重に時間をかけて治療を進めます。
入れ歯治療は保険診療と自費診療の2種類があり、治療期間は保険診療が1ヵ月程度なのに比べ、精密な治療が可能な自費診療では2~3ヵ月かけるのが一般的です。
治療中の歯がない期間への対応や、保険診療と自費診療の違いなど、入れ歯治療の詳細を解説していきます。
入れ歯の治療期間・歯がない期間
- 入れ歯の治療の流れを教えてください
- 入れ歯を作る場合、おおむね以下のような流れで治療が進められます。
- 相談・カウンセリング
- 検査・診断
- 治療プラン作成・説明
- ほかの疾患の治療
- 型取り
- 噛み合わせ確認
- 仮義歯装着
- 入れ歯作成
- 完成後装着
- メンテナンス
まずは患者さんの治療に対する希望や、生活上の希望を聞き取ります。続いて診察台でお口の現状を観察し、各種器械・レントゲン・CTなどによる検査と診断、お口の中の大まかな型取りを行います。検査結果をもとに、歯科医師から現状の説明・治療方法の提案・メリットとデメリット・費用・治療期間の見通しなどが示されます。そして、患者さんが納得できれば治療開始です。ただし、むし歯や歯周病があれば、そちらの治療を先行して進めます。型取り・噛み合わせ調整・仮義歯の作成などを経て入れ歯ができ、実際に装着してしっくりとなじむように調整すれば治療は終了です。最後に、使い方や手入れ方法などの説明を受け、以後はそれを実行しつつ定期的なメンテナンスを受けます。
- 部分入れ歯の治療期間はどのくらいですか?
- 入れ歯を作る場合、保険診療と自費診療とでは治療期間に違いがあります。両者の間で入れ歯治療の手順に大きな違いはありませんが、型取りや噛み合わせの調整など、その精度による違いがあります。部分入れ歯の場合で、保険診療による治療では型取りから仕上げまで通常4回の通院が必要です。その期間は約2週間から1ヵ月かかります。その後、お口に合うように微調整の期間も必要になります。装着しても違和感がないように何回も調整するため、この期間は個人によってかなり違いが出る部分です。一方で自費診療の場合は2~3ヵ月かかります。保険診療では入れ歯の作り方から材料まで制限があるのに対し、自費診療では制限がありません。そのため使い心地のよい材料を選び、型取りや調整の工程を多くして精密に仕上げ、フィット感の高い入れ歯が作れます。
- 総入れ歯の治療期間はどのくらいですか?
- 総入れ歯でも保険診療と自費診療で治療期間の違いがあります。保険診療の場合は約1ヵ月で仕上げることが可能です。その後は保険診療の範囲内で、違和感がなく噛める状態にまで調整を行います。この期間の個人差が大きい点は部分入れ歯の場合と同じです。一方で自費診療の場合は、治療期間が2~3ヵ月かかります。保険診療との違いは部分入れ歯と同じで、作り方や使える材料に対する制限の有無です。入れ歯のフィット感が高く患者さんの満足度がより高い方法で作れますが、それにはそれだけの手間やコストがかかることになります。ただ、自費診療では仕上がりが精密なため事後の調整が少なくでき、治療後に行う調整の通院期間が短縮できるメリットがあります。
- 入れ歯治療中に歯がない期間はありますか?
- 入れ歯治療で抜歯を伴う場合、抜いてから傷が治って新しい入れ歯ができるまで早くて1ヵ月以上はかかります。その間は歯がない期間になり、見た目や機能面で困難な状況が生じることがあります。この状態を解消する手段が即時義歯という方法です。抜歯前に型取りをして抜く歯に合わせた入れ歯(=即時義歯)を作っておき、抜歯後にすぐこの入れ歯を使い始める方法です。これで歯がない期間をなくせます。この即時義歯は保険適用で安く作れるため、仮義歯として利用されることが多く、新たに自費治療で入れ歯を作る場合もあります。
自費と保険の入れ歯の違いや費用相場
- 入れ歯の治療には保険が適用されますか?
- 入れ歯の治療には健康保険が適用されますが、すべての治療が対象ではなく限定的な適用となります。保険が適用される入れ歯は、人工歯・義歯床ともレジンとよばれるプラスチック製のものに限られます。また、部分入れ歯では、本体がレジンでクラスプとよばれる固定用のバネが金属製のものだけが保険適用の対象です。こうした材料・作り方で作られた入れ歯は、一般的な医療保険と同じ自己負担割合です。なお保険の適用には6ヵ月ルールがあり、入れ歯を保険適用で作った後は、6ヵ月経たないと新しい入れ歯は作れません。修理や調整は可能ですが、修理できない程壊れた場合、6ヵ月以内に新しく作る入れ歯は全額自己負担です。
- 自費の入れ歯と保険適用の入れ歯の違いを教えてください
- 素材の選択が自由にできる入れ歯は保険が適用されず自費治療です。自費の入れ歯の土台には金属やシリコンが使われ、人工歯には本物と見分けがつかないセラミックなどが使われます。強度が高い金属床の入れ歯では厚みを薄くでき、違和感が少なく話しやすい特長があります。また熱伝導がよく、食べ物の温度感を損ないません。金属バネを使わない自費治療の部分入れ歯では、金属アレルギーの方も問題なく使えます。匂いが付きにくい・変色しにくい・耐久性が高いなど、外観と機能面で満足度の高い入れ歯です。一方で保険適用の入れ歯は、値段が安い点が大きな特長です。素材がプラスチックで加工しやすく、修理や調整が簡単にできます。しかし、匂いや色が付きやすく耐久性に劣る点や、義歯床の厚みで違和感が出る点など、素材に起因するデメリットが避けられません。
- 部分入れ歯の費用相場を教えてください
- 部分入れ歯は1本以上の欠損歯を補う入れ歯で、本数によって費用は変動します。また、保険適用と適用外の全額自己負担でも費用は大きく違います。まず保険適用の部分入れ歯では、3割負担の場合で5,500~11,000円が目安です。保険適用外の部分入れ歯では素材・機能によっても違いがあり、コバルト床で165,000~275,000円(税込)、チタン床で242,000~275,000円(税込)程度になります。固定にバネを使わないノンクラスプデンチャーは110,000~165,000円(税込)です。
- 総入れ歯の費用相場を教えてください
- 総入れ歯でも保険適用と非適用で費用は大きく違います。保険適用の場合は、3割自己負担の場合で11,000~16,500円程度が目安です。保険が適用されない総入れ歯では、使用感がよく耐久性があるチタンの金属床で330,000~523,000円(税込)、クロムの金属床で275,000~390,000円(税込)程度になります。
入れ歯の寿命
- 入れ歯の寿命はどのくらいですか?
- 入れ歯の寿命は3年~5年程度と考えられ、この年数を経過したら修理または作り直しを検討するのが一般的とされています。当初はぴったり合うように調整された入れ歯でも、年数の経過に伴って歯茎の状態が変化し、緩みが出てきます。また、入れ歯に使われた材料も毎日噛み続けるため、すり減ってしまうことは避けられません。こうした入れ歯の機能が落ちてきたときが入れ歯の寿命です。入れ歯を10年以上も使い続けている方もいますが、それはごく稀な例です。ほとんどの方は数年で何らかの不具合が生じて、修理・作り直しに至ります。
- 入れ歯の作り直しのタイミングを教えてください
- 入れ歯を作って何年か経ち、さまざまな不具合が出たときが作り直しを考えるタイミングになります。主な不具合は以下のとおりです。
- 歯茎が痩せて入れ歯が緩む
- 噛み合わせが悪く入れ歯がすり減った
- 金具が壊れた
歯茎のそこまで痩せていない場合は入れ歯の補正で対応できますが、大きく痩せた場合は作り直す方がよいでしょう。噛み合わせも少々なら入れ歯の補修で対応できても、すり減りを伴うのであれば作り直しになります。金具が壊れた場合は修理できます。しかし修理した部分は壊れやすいので、何度も壊れるようなら作り直しましょう。なお、保険適用の場合は作り直しは6ヵ月に1度しか認められません。費用は安くても、作り直しのタイミングには注意してください。また、保険適用外では作り直しでも相当な費用がかかります。作り直し・修理の判断は担当医とよく相談して決めてください。
編集部まとめ
入れ歯治療に必要な期間や保険治療と自費治療の違いなどを解説しました。治療期間は月単位になることが普通で、患者さんもそのつもりで治療に臨んだ方がよいです。
入れ歯治療は保険と自費の2種類があり、費用も治療期間も大きく違います。保険適用は必要な範囲だけの治療になり、快適性や見た目重視なら自費治療がよいでしょう。
入れ歯は数年間で不具合が出始めますが、自費治療で作り直しは多額の費用がかかります。修理できる場合もあるので、医師とじっくり相談して対応してください。
参考文献