矮小歯とは、通常の歯に比べてサイズが小さい歯のことを指します。原因としては、遺伝的な要素や発育過程における影響などが考えられており、見た目だけでなく、機能面にも影響を与えます。
この症状があると噛み合わせや歯並びに影響を与え、放置することでさらにトラブルが生じる可能性もあります。
この記事では矮小歯の原因やそのデメリット、そして治療が必要なケースについて詳しくご紹介し、どのような治療法が適しているかも解説します。
矮小歯について
矮小歯という言葉を聞きなれない方も少なくないでしょう。矮小歯とは具体的にどのような状態の歯のことをいうのでしょうか。
ここでは矮小歯について、原因や矮小歯になりやすい歯の位置について解説します。
矮小歯とは
矮小歯とは、正常な歯に比べて明らかに小さく発育した歯のことです。
全部の歯が小さかったり部分的に小さかったりします。形も円錐状や蕾状など、個人差があります。
病名のように名前がついているため、不安になる方も少なくないでしょう。しかし、とくに治療が必要な歯ではありません。
好発部位については後ほど詳しく解説しますが、矮小歯は特別珍しい症状ではなく、親知らずに矮小歯がある方も少なくないです。
また、矮小歯は過剰歯と呼ばれる、本来の歯の本数よりも歯の本数が多いときによくみられます。
矮小歯の原因
矮小歯の原因ははっきりとわかっていません。遺伝や栄養不足が関係しているのではといわれています。
全部の歯が極端に小さい場合は、下垂体性小人症やダウン症候群、ビタミンDの欠乏などが原因として考えられます。しかし、ただ単に歯が小さく見えているだけの場合もあるでしょう。
歯並びが悪く、歯列よりも後ろにあると小さく見えることがあります。ほかにも骨格的に顎の骨が大きい方は歯のサイズが小さく見えることもあるようです。
矮小歯になりやすい歯の位置
矮小歯が多く見られるのは、上顎の側切歯や第三大臼歯(親知らず)です。側切歯は円錐状の形をしており、第三大臼歯は蕾状になっています。
矮小歯の原因の1つとして歯の退化現象も指摘されています。これは、側切歯や第三大臼歯が退化傾向にある歯のためです。
実際、側切歯や第三大臼歯がない方もいます。
矮小歯があることで考えられるデメリット
矮小歯は治療が必要ないとお伝えしましたが、まったく問題がないわけではありません。矮小歯があることで、さまざまなデメリットが考えられます。
見た目だけでなく、口腔内の機能や健康に影響を与える可能性もあります。ここでは矮小歯によるデメリットを解説しましょう。
見た目がよくない
通常の歯よりもサイズが小さいため、歯並びや全体のバランスが崩れることがあります。特に前歯が矮小歯である場合、すきっ歯の原因となります。
歯が尖って見えることもあり、矮小歯を気にしている患者さんは見た目に関して悩んでいるケースが少なくありません。矮小歯が気になり、笑顔になれない方や笑うときに口元を隠してしまう方もいます。
噛み合わせに不具合が生じる
歯全体の噛み合わせに不具合が生じることがあります。サイズが小さい歯は正しい噛み合わせを妨げ、噛む力が偏る可能性が高いです。そのため、ほかの歯に負担をかけてしまいます。
これにより、歯のすり減りや顎関節の問題を引き起こすこともあるでしょう。
このほかにも、嚙み合わせが悪くなることでさまざまなトラブルが起こる可能性もあります。しっかりと噛んで食べることができないため、食べ物を小さくできずに消化器官に負担をかけることになります。
歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなったり、歯磨きがしづらくなったりすることもあり、むし歯や歯周病になるリスクも高くなるでしょう。
発音がはっきりしない
前歯が矮小歯の場合、発音に影響を与えることがあります。特に「サ行」や「タ行」などの発音が不明瞭になることがあります。
すき間があることで、そこから息が漏れてしまうためです。日常会話や職場でのコミュニケーションにおいても発音の不明瞭さがストレスになることもあるでしょう。
ブリッジなどの土台にしにくい
矮小歯はブリッジや部分入れ歯などの土台として使いづらいというデメリットがあります。矮小歯は歯冠だけではなく、歯根も小さいためブリッジや入れ歯を支えることができないためです。
ブリッジは欠損した歯を補うために、欠損した歯の両隣の歯を支柱にブリッジと呼ばれる橋のような義歯を被せる治療方法です。ブリッジはその構造上、土台となる2本の歯が3本分の歯の役割をするため、土台となる歯には負担がかかります。
矮小歯は歯根も含めて小さいため、もしブリッジの土台として使うとかかる負荷がほかの歯よりも大きく、寿命が短くなる可能性もあるでしょう。
矮小歯の治療すべきケースと治療が必要ないケース
ここまで、矮小歯についてデメリットなどを解説してきました。そのまま放置しても問題ありません。しかし、矮小歯がある位置によっては、デメリットのところでもお伝えしたようにさまざまトラブルが起こります。
見た目や発音が気になり、ストレスとなる可能性もあるでしょう。そのような場合は、治療して治すことをおすすめします。
本項では矮小歯の治療をした方がいいケースと、治療をしなくてもいいケースを解説します。ご自身の矮小歯が気になっている方や、矮小歯があって治療をするか悩んでいる方は参考にしていただければ幸いです。
治療すべきケース
矮小歯の治療をした方がいいケースは、主に次の3つです。
- 歯並びや嚙み合わせに影響がある場合
- むし歯や歯周病のリスクがある場合
- 見た目が気になる場合
これらのケースについて、放置するとどのような影響が出てくるのでしょうか。詳しく見ていきます。
歯並びや噛み合わせに影響がある場合
噛み合わせや歯並びに問題が生じ、ほかの歯とのバランスが崩れている場合は早期に治療を受けることを推奨します。噛み合わせが不適切だと、食事中に不便を感じるだけでなく、顎関節症などの深刻な問題を引き起こす可能性があります。
噛む力が偏ると、歯に過剰な負担がかかり、歯がすり減ったり割れることもあるでしょう。頭痛や肩こり・首のこりといった全身症状を引き起こす可能性も少なくありません。
こうしたリスクを避けるためにも、治療をおすすめします。
むし歯や歯周病のリスクがある場合
デメリットのところでも触れたように、隣接する歯との隙間が生じやすく、むし歯や歯周病のリスクが高まります。
矮小歯は歯の表面から神経までの距離も短いです。そのため、むし歯になった時に神経までむし歯が到達しやすいといわれています。むし歯が神経に到達すると痛みを感じやすくなります。
矮小歯が歯周病になると、ほかの歯よりも早く抜けるリスクが高いです。歯根が短いためです。
このように、矮小歯はむし歯や歯周病になるとほかの歯よりも症状が進行しやすい傾向にあります。なので、むし歯や歯周病のリスクがある場合は早めに治療をした方がいいのです。
見た目が気になる場合
見た目が気になる場合も、治療を検討した方がいいでしょう。治療法は後述しますが、補綴治療により歯のサイズを大きくすることができます。
補綴治療は歯を欠損した場合やむし歯治療で歯を削った時に、詰め物や被せ物を使って治す治療のことです。
ほかの歯とあまりサイズが変わらない場合は、歯列矯正で治すことができます。
治療が必要ないケース
見た目に問題がなく、むし歯や歯周病のリスクがない場合はそのまま様子見をしても大丈夫です。しかし、何かしらのトラブルが起こる可能性も否定できないため、ほかの歯と比べて歯が小さいと感じたら歯科医院に相談することをおすすめします。
このまま経過観察で大丈夫なのか、治療した方がいいのか、アドバイスをもらえるでしょう。
矮小歯の治療方法
最後に、矮小歯の治療法について紹介します。治療法は大きく分けて歯列矯正と補綴治療の2種類になります。
- 歯列矯正
- レジンで補修
- ラミネートベニア
- セラミッククラウン
- ダイレクトボンディング
ここではこれら5つの方法を紹介します。それぞれの治療法ごとにメリット・デメリットもあるので、併せて解説します。
矮小歯の治療を検討している方や、どのような治療法があるのか知りたい方はぜひ参考にしてください。
歯列矯正
矮小歯によって歯並びが悪くなっている場合や、ほかの歯とのサイズがあまり変わらない場合は歯列矯正がすすめられるでしょう。全部の歯を動かし、矮小歯によってできたすき間を埋めます。
歯列矯正をすることで見た目や歯並び、噛み合わせの改善ができます。しかし、歯列矯正は保険適用外のため費用が高額になることに注意が必要です。
歯列矯正は少しずつ歯を動かして治すため、時間もかかります。矯正器具を使うため、治療期間中は矯正器具で見た目が悪くなることもあるでしょう。
治療内容や歯科医院によって治療費は異なります。ワイヤー矯正の場合、全体の歯列矯正が1,000,000円(税込)前後、部分矯正は600,000~900,000円(税込)程が費用相場です。
レジンで補修
レジンで補修する、コンポジットレジン充填という方法で治すことも可能です。保険適用の治療法で、むし歯治療でもよく使われています。
むし歯治療ではむし歯部分を削りますが、その時に削った部分に詰め物をします。この時に使われる詰め物の種類がコンポジットレジンです。
矮小歯を治す時はコンポジットレジンを歯に直接つけ、歯の形やサイズを調整します。
コンポジットレジン充填は保険適用なので費用の負担が少ないです。治療期間も短いですが、耐久性は高いといえません。
長く使っていると経年劣化により、だんだんと色が変化していくというデメリットもあります。
ラミネートベニア
ラミネートベニアは、セラミックのシェルを薄く削った歯の表面に貼り付ける方法です。セラミックを貼り付けることでサイズを大きくし、すき間を閉じます。
歯の表面を削りますが、その量は少なく、神経も取らないので歯への負担がありません。治療も比較的簡単で、通院回数2回で治療が終わります。
また、セラミックを使うので審美性にも優れています。このようにメリットが多い治療法ですが、自由診療のため費用が高額になることがデメリットです。費用相場は500,000~150,000万円(税込)程です。
セラミックは衝撃に弱いため、強い力が加わると割れたり欠けたりするリスクがあることもデメリットでしょう。
矮小歯の位置によっては、ラミネートベニアは受けられないこともあります。治療を受ける際は、歯科医師に確認するといいでしょう。
セラミッククラウン
セラミックを使った治療法はほかにも、矮小歯にセラミッククラウンを被せる方法があります。すき間が広い場合や、両隣の歯も含めてきれいにしたい場合に検討されます。
見た目をきれいにすることができ、耐久性にも優れているので適切なケアをすれば長く使えることがメリットです。
しかし、歯を削る量が多くなることや費用が高額になることがデメリットです。セラミックは衝撃に弱く、割れたり欠けたりしやすいため、セラミッククラウンは厚みを持たせて作成します。
そのため、削る量が多くなるのです。歯を削るということは、歯に負担を与えることにもなります。削る量が多くなるセラミッククラウンは、歯への負担が大きいです。
セラミックの種類によって値段は異なりますが、すべてセラミックで作られたオールセラミックの費用相場は、80,000~220,000円(税込)程です。
矮小歯の治療だけではなく、審美面もきれいにしたいと考える方におすすめの治療法といえるでしょう。
ダイレクトボンディング
ダイレクトボンディングは、レジンとセラミックを合わせたハイブリッドセラミックを充填して治療する方法です。
治療内容としては、コンポジットレジン充填と変わりません。充填する素材が違うだけです。
セラミックが混ぜられているので、コンポジットレジンよりも審美性や耐久性に優れています。自由診療ですが、セラミック治療よりも費用を抑えられることもメリットです。
すき間を埋める場合、1歯あたり10,000~50,000円(税込)程が費用相場です。レジンが含まれているため、セラミックと比較すると耐久性や審美性に劣る点はデメリットといえます。しかし、大きな差はないためあまり気にならないでしょう。
このように、矮小歯の治療法はさまざまあります。すき間の大きさや保険適用の有無などでも治療法は違ってくるので、治療を受ける際はどの治療法があっているのか、しっかりと確認して検討しましょう。
まとめ
矮小歯は見た目や噛み合わせ、発音などに影響を与えることがあるため、状況に応じて適切な治療が必要です。
治療法には・歯列矯正・レジン補修・ラミネートベニア・セラミッククラウン・ダイレクトボンディングなどがありそれぞれの状況に応じて選択されます。
治療が必要ない場合もあるため、歯の大きさが気になる方は歯科医院で相談しましょう。
参考文献