加齢や歯周病、事故などで歯を失った際に選択される治療法の一つが総入れ歯です。
なかでも、上顎だけを総入れ歯にしたいと考える方も少なくありません。
しかし、総入れ歯には独自の構造や使用上の注意点があり、正しく理解しておかないとトラブルの原因になることもあります。本記事では、上顎だけの総入れ歯に関する基本知識から、よくあるトラブル、その対処法までをわかりやすく解説します。
総入れ歯の仕組みや上顎だけの総入れ歯について

- 総入れ歯の仕組みを教えてください。
- 総入れ歯とは、すべての歯を失った上顎や下顎に装着する人工の歯と歯茎を模した装置です。金属のバネなどは使わず、粘膜との密着や唾液の吸着力によって歯茎に固定します。素材には、保険診療で使われるレジン(樹脂)製のほか、快適性や耐久性を高めた金属床タイプやシリコーン裏装タイプの用意が可能です。患者さんごとにお口の形は異なるため、精密な型取りや噛み合わせの調整を行って作製します。使用後は歯茎や骨の変化に応じて、定期的な調整や修理が必要です。
- 上顎だけ総入れ歯にできますか?
- 上顎だけを総入れ歯にすることは可能です。実際むし歯や歯周病で上顎の歯をすべて失い、下顎にのみ自分の歯が残っている方は少なくありません。上顎に総入れ歯を装着することで、見た目や発音、食事のしやすさなど日常生活の質を改善できます。上顎は面積が広く粘膜との接触面も大きいため、入れ歯が安定しやすく初めての方でも慣れやすい傾向があります。ただし、上下の歯列に差がある場合は、噛み合わせの調整が重要です。上が総入れ歯、下が天然歯という状態では、噛む力のバランスが崩れやすいです。また入れ歯がズレたり痛みや破損の原因になったりすることもあります。下顎の歯の状態によっては、部分入れ歯の併用やインプラント治療も視野に入れ、お口全体のバランスを考慮した治療計画が求められやすいです。
- 上顎の総入れ歯が落ちてこないのはなぜですか?
- 上顎の総入れ歯は、主に以下の3つの原理によって安定しています。
- 吸着力
- 唾液の粘性
- 陰圧(真空状態)
入れ歯と上顎の粘膜の間に唾液が入り、その表面張力によって吸いつくように固定されています。特に上顎は面積が広く、吸着力を得やすいため、下顎よりも安定しやすい点が特徴です。上顎の形状に合わせてぴったりと作られていれば、物理的に隙間ができにくいため、入れ歯が自然に外れることはほとんどありません。ただし、時間の経過とともに骨の吸収や歯茎の形の変化が起こるため、吸着が弱くなってしまうこともあります。その場合は、歯科医院での再調整が必要です。きちんとフィットした入れ歯であれば、食事中や会話中も気兼ねなく使用できます。
- 上顎の総入れ歯の入れ方や外し方を教えてください。
- 上顎の総入れ歯を装着するときは、前歯側の中央から斜め上にやさしくあて、奥に向かって均等に押し込みます。無理な角度で力をかけると歯茎を傷つけたり、入れ歯が変形したりするおそれがあるため、鏡を見ながら慎重に行いましょう。左右の指でバランスよく押し込むと吸着しやすいです。装着後にお口を軽く閉じ、舌で上顎を数回押すとフィット感が高まります。取り外す際は、奥歯側の縁に指を添え、下方向にそっと引き下げます。空気が入ることで吸着が弱まり、スムーズに外れやすいです。無理に強く引っ張ると歯茎を傷つけたり、入れ歯が壊れたりすることがあるため注意が必要です。
上顎の総入れ歯でよくあるトラブルの原因

- 上顎の総入れ歯が落ちてしまう原因を教えてください。
- 上顎の総入れ歯が落ちる主な原因は、吸着力の低下や骨の痩せによるフィット感の不良です。上顎の総入れ歯は、適切に作られていれば吸着力によりしっかりと固定されますが、「使っているうちに外れやすくなってきた」と感じる方も少なくありません。入れ歯そのものの問題だけでなく、口腔内の変化や生活習慣が影響している場合があります。上顎の総入れ歯が落ちてくる主な原因は、以下のような要素です。
- 入れ歯が合っていない(精度不良)
- 噛み合わせのズレがある
- 入れ方が不適切
長く使い続けた入れ歯は、歯茎の骨が痩せることでお口の中の形が変わり、徐々に合わなくなっていきます。会話や食事中に外れたり、ズレや違和感が生じたりしやすいです。また外れやすいからと義歯安定剤に頼りすぎると、かえって吸着が悪くなり不安定になることもあります。
- 上顎の総入れ歯で食べ物を噛むときに痛みを感じる原因を教えてください。
- 上顎の総入れ歯で噛むときに痛みを感じる原因は、入れ歯が粘膜に合っておらず圧迫やずれが生じているためです。「入れ歯でしっかり噛みたいのに、噛むたびに痛む」そんなお悩みを抱える方は少なくありません。特に上顎の総入れ歯では、食事中に前歯の裏側や奥歯の歯茎に強い圧を感じる、入れ歯が沈み込むような痛みが出るなどの症状が見られることがあります。このような痛みは、単に入れ歯が合っていないだけでなく、口腔内の状態や噛む力に原因が潜んでいるケースが多いです。具体的には、次のような原因が挙げられます。
- 粘膜に炎症を起こしている
- 入れ歯の底面が硬く歯茎を圧迫している
- 食事中に入れ歯が動いて擦れている
- 噛み合わせ不良
硬いものや粘り気のある食べ物で痛みが出る場合は、入れ歯が歯茎に合っていないか、力が一部に偏っている可能性があります。噛むたびに浮いたり揺れたりする場合も、設計や噛み合わせの調整が必要です。
- 上顎の総入れ歯で嘔吐反応が起こる原因を教えてください。
- 上顎の総入れ歯を使い始めた方のなかには、「装着した途端にオエッとなる」「吐き気が止まらず長く使えない」といった嘔吐反射に悩む方も少なくありません。これはお口の奥に異物が触れることで身体が自然に反応する生理的な現象です。
上顎の義歯は構造上、喉の奥に近い場所まで広く覆うことが多いため反応が出やすいといわれています。
実際に、以下のような要因が嘔吐反応の引き金となります。- 入れ歯の設計が大きすぎる
- 装着時に過度の緊張がある
- 嘔吐反射がもともと強い体質
嘔吐反射は個人差が大きく、歯ブラシが奥に当たるだけで反応する方は、入れ歯でも同様の症状が出やすくなります。入れ歯への違和感やストレスも反射を強める原因になりやすいです。軽度であれば、装着時間を少しずつ延ばしたり、呼吸を整えたりすることで改善することもあります。
上顎の総入れ歯のトラブルの対処法

- 上顎の総入れ歯が落ちてしまう場合の対処法を教えてください。
- 入れ歯が外れやすいと感じる場合、まず検討したいのが歯科医院でのリライニング(裏打ち)という処置です。入れ歯の内側に新たに樹脂を追加して、現在の歯茎の形に合わせてフィット感を高める方法です。長期間使っていると、加齢や骨の吸収によって歯茎が痩せ、入れ歯が緩くなるため微調整が必要になります。さらに、以下のような対処法も検討できます。
- 義歯安定剤の一時的な使用
- インプラントを併用した義歯に切り替える
- 噛み合わせ全体を見直す
いずれの対処法においても、自己判断で長期間使い続けるのではなく、定期的に歯科医師の診察を受け、現状の口腔内に適切な状態に調整してもらうことが大切です。違和感やズレを放置すると、痛みや粘膜の炎症、食事、会話への悪影響につながることもあるため、早めの対応を心がけましょう。
- 上顎の総入れ歯で食べ物を噛むときに痛みを感じる場合の対処法を教えてください。
- 上顎の総入れ歯で噛むときに痛みを感じる場合は、歯科医院で入れ歯の調整や粘膜の状態を確認してもらうことが効果的な対処法です。食事中に上顎の入れ歯で噛むとズキッと痛んだり、奥歯が沈み込むような感覚を覚えたりする場合、それは入れ歯が正しくフィットしていないサインかもしれません。放置してしまうと痛みが慢性化し、入れ歯を使うこと自体が苦痛になりやすいです。痛みの多くは入れ歯の調整や使い方を見直すことで十分に改善可能です。以下の対処法を通じて、より快適な装着感を得られるようになります。
- 歯科での調整(当たっている部分を削る)
- やわらかい食事に変更して負担を軽減
- 粘膜の炎症があれば一時的に装着を中止し治癒を待つ
また、入れ歯が痛むときにはどの部位でどのような食べ物を噛んだときに痛いかを記録しておくと、歯科医院での調整がスムーズです。具体的な状況を伝えることで、より的確な処置が受けられます。
- 上顎の総入れ歯で嘔吐反応が起こる場合の対処法を教えてください。
- 上顎の総入れ歯で嘔吐反応が起こる場合は、慣れるまで装着時間を少しずつ延ばしたり、入れ歯の形状調整や呼吸法の工夫を行ったりすることで緩和が期待できます。上顎の総入れ歯を装着したときに嘔吐反応があると、入れ歯を入れること自体がストレスになり、食事や会話に支障が出てしまいます。嘔吐反射は、物理的な刺激や精神的な緊張が原因です。適切に対処すれば、無理なく慣れていけるケースも多いため、あきらめずに段階的に対策を講じることが大切です。
- 粘膜への接触が少ない軽量タイプに変更
- 慣れるまでの段階的装着訓練
- 精神的な緊張をほぐす
嘔吐反射があるからといって、入れ歯が使えないと決めつける必要はありません。大切なのは、自分に合う入れ歯に出会い、少しずつ慣れていくことです。
編集部まとめ

上顎だけを総入れ歯にすることは可能であり、多くの方が見た目や機能の回復のために選択しています。使用する際は落ちやすさや痛み、嘔吐反応といったトラブルが起こることも少なくありません。
原因には入れ歯の適合性や噛み合わせ、個人の体質や使用習慣が関係しており、適切な対処を行えば改善が期待できます。無理に我慢せず、少しでも違和感があれば歯科医院に相談し、調整を受けることが大切です。
上顎の総入れ歯とうまく付き合っていくには、定期的なメンテナンスと自分に合ったケア方法の実践が欠かせません。正しい知識を持ち、不安や疑問をそのままにしないことが、快適な入れ歯生活への第一歩となるでしょう。
参考文献