歯茎に黒い点があると不安になってしまいますね。歯茎の黒ずみの原因はさまざまで、特に問題のない場合もありますが、なかには悪い病気のサインの可能性もあり、放置しておくと症状が悪化することもあります。また、口内環境の悪化が原因の場合では、歯科医院で清浄の必要もでてきます。そこで今回は、歯茎の黒い点の原因やその対処法についてまとめてみました。歯茎の黒ずみが気になっている方は、ぜひ参考にしてみてください。
歯茎の黒い点の正体とは
歯茎にある黒い点は、内因性または外因性の色素沈着、色素性母斑、悪性黒色種、血豆などの疾患と関連することがあります。
内因性の色素沈着
歯茎の黒い点の原因の一つに、内因性の色素沈着があります。内因性の色素沈着とは、身体の内側に何かしらの変化が起こり、歯茎の色そのものが変わってしまうことを指します。 歯茎を含む口腔粘膜は、通常、色素沈着の原因となるメラニン色素が、皮膚よりも少ないとされています。しかし、加齢や病気などで身体に変化があると、歯肉や口唇、口蓋、頬粘膜などに生理的にメラニン色素が沈着することはしばしば起こります。こうした色素沈着は、びまん性メラニン色素沈着や生理的色素沈着となります。 このほかに、副腎皮質の慢性機能不全により皮膚や粘膜の色素沈着をきたすアジソン病や、全身の皮膚にミルクコーヒー色の色素性母斑が多発するレックリングハウゼン病、手足や口腔粘膜の多発性色素斑と胃腸にポリープが生じるポイツ・ジェガース症候群などの疾患である可能性もあります。
外因性の色素沈着
外因性の色素沈着として考えられる原因は、水銀や銀などの金属による変色が考えられます。過去に薬剤として亜鉛や水銀を投与されたり、鉛、水銀、銀などの金属に触れる機会が多かったりすると、これらの金属が歯肉などの慢性炎症のある部位に取り込まれて着色することがあります。
色素性母斑
色素性母斑とはいわゆるほくろのことで、何らかの理由でメラニン色素を作り出す細胞が増えてしまったことで発生します。良性のほくろもありますが、悪性のものと見分けるため、また悪性黒色種や血管腫との鑑別のためにも医師による判断が必要となります。
悪性黒色腫
悪性黒色腫とは、きわめて危険度の高いタイプの腫瘤です。硬口蓋や上顎歯肉、下顎歯肉、頬粘膜などにも生じます。黒褐色の腫瘤で、大きさや形はさまざまで、明らかな着色がない場合もあります。リンパ行性あるいは血行性の転移が多く、予後もとても悪い病気です。
血豆
血豆とは血の塊のようなもののことを指し、食事中に誤って舌やほおの内側を噛んでしまったときなどにできます。初めは赤い色をしていますが、時間が経つごとに変色し、最後には黒色になります。一時的な怪我としてとらえられていますが、なかには後天性血友病のような病気のサインの場合もあるため、注意が必要です。
歯茎の黒い点の原因と対処法
それでは歯茎の黒い点を見つけた場合、どう対処すればよいのでしょうか? ここからは、原因別に対処法をご紹介します。
内因性の色素沈着
内因性の色素沈着は、生理的なものや加齢が原因であるため、特に治療の必要はありません。ただし、その他の疾患が原因である場合は治療が必要です。 例えば、アジソン病では副腎皮質ホルモン製剤の投与などの治療が必要で、場合によっては切除をすることもあります。また、レックリングハウゼン病では腫瘤が小さい場合は治療の必要はありませんが、口腔機能に障害があるものは切除することもあります。ポイツ・ジェガース症候群は放置することも可能です。 特に治療の必要がない内因性の色素沈着でも、審美性に問題がある場合は、脱色をするなど、歯科医院での治療対象となることもあります。治療が必要な色素沈着かどうかは、自己判断ではなく、医療機関で診てもらうようにしましょう。
外因性の色素沈着
金属を原因とする外因性の色素沈着に対しては、審美目的でのレーザー治療などが施されることがほとんどです。特に病気の心配がなく、見た目も気にならない場合は、経過観察の場合もあります。ただし、将来的に金属アレルギーが心配な場合は、専門的な治療を受けるようにしましょう。
色素性母斑
ほくろは良性のものと悪性のものがありますが、口腔内にできる場合は悪化することもあるため、摘出が望ましいとされています。また、悪性黒色種や血管腫との鑑別も必要であることから、ただのほくろと放置をせずに、早めに医療機関に相談するようにしましょう。
悪性黒色腫
悪性黒色種はとても危険性の高い病気であるため、早期発見、早期治療が大切です。少しでも疑わしい場合は、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。治療はリンパ節の郭清を含めた外科手術のほか、化学療法なども補助的に行われます。
血豆
血豆の原因が食事中の怪我の場合は自然治癒することがほとんどですが、なかには後天性血友病や特発性血小板減少性紫斑病などが疑われる場合もあります。このような病気の場合は専門的な治療が不可欠なため、少しでも異変を感じたら必ず医療機関を受診するようにしましょう。
その他の歯茎が黒くなる5つの原因
上記のほかにも歯茎が黒くなってしまう原因はあります。ここからは、歯周病や歯の根の変色など、その他の要因についても解説します。
歯周病
歯茎が黒くなってしまう原因の一つに歯周病があります。歯周病で歯茎が黒く変色するのは、歯茎そのものが黒くなる場合と、被せ物と歯の間に歯周病菌や汚れが溜まって変色する場合の2パターンがあります。また、被せ物をしている場合は、そのなかに汚れが溜まって黒っぽく見えたり、歯周病菌が繁殖をして歯茎に炎症が起き、変色していることも考えられます。 この部分がを歯茎の中に隠れている歯根に歯石が付着する場合があります。この歯石は黒い場合が多いため、歯石の色が歯茎から透けて見えるため、結果として歯茎が黒ずんで見えることがあります。 歯周病で歯茎そのものが黒く変色している場合は、歯茎に炎症が起きている証拠です。初めは赤みを帯びていた箇所が紫色になり、さらに進行すると黒く変色してしまいます。 また、被せ物をしている場合は、そのなかに汚れが溜まって黒っぽく見えたり、歯周病菌が繁殖をして歯茎に炎症が起き、変色していることも考えられます。いずれにしても、歯周病は放置すると、歯を支えている骨が溶け歯が抜けてしまったり、全身疾患に波及したりする恐ろしい病気です。早期に歯科医院を受診して治療することをおすすめします。
歯の根が変色している
歯の根元が黒く変色している場合は、歯の神経が死んでしまい変色しているケースが考えられます。これは、事故などで歯をぶつけてしまったり、歯科医院で神経の治療をした際に、歯の神経が通る歯髄の細胞が死んでいることが原因です。歯髄が死んでいると、歯やその周りの歯茎が黒っぽく変色してしまうのです。このような変色は一般的な治療では完全にもとに戻すことは難しいので、審美目的の歯科治療を検討してみるのもよいでしょう。
被せ物の金属部分が見えている
被せ物の金属が見えてしまって、歯茎が黒くなることをメタルマージンといいます。歯に被せ物をしている方のなかには、メタルマージンが発生している場合が少なくありません。特に、前歯の被せ物には内側に金属フレームが使用されているものが多く、治療後すぐには見えることは少ないのですが、装着して時間が経って隙間ができると、黒く見えるようになってきてしまいます。 被せ物と歯の間に隙間があると、むし歯菌や歯周病菌などの細菌が入りこみやすくなるため、隙間ができないよう精度の高い歯科治療を受けることが大切です。また、将来のメタルマージンが心配な場合は、金属フレームを使用していない被せ物を使うという選択肢も検討しましょう。
金属イオンが歯茎に沈着している
歯の根元がむし歯になった場合、根の上に土台を立てて被せ物をする治療法が一般的です。このとき、土台の素材に金属を使用すると、時間が経つにつれて金属イオンが溶け出し、根に染み付いて黒く変色してしまうことがあります。これをメタルタトゥーといいます。メタルタトゥーが原因の変色は、メタルマージンの治療よりも難しいとされています。。メタルタトゥーでお悩みの場合は、まずは一度、歯科医院のカウンセリングを受けることをおすすめします。
メラニン色素の沈着
歯茎が黒くなる原因でよくあるのが、メラニン色素の沈着です。メラニン色素は紫外線や口呼吸などさまざまな理由で沈着しますが、なかでも多くの場合は喫煙によるものであるとされています。喫煙が原因である場合は、まずは禁煙することが重要です。ひとりで禁煙が難しい場合は、禁煙外来などの専門医を受診するようにしましょう。
歯茎が黒くなったときの対処法
では、上記のような原因で歯茎が黒くなった場合の対処法はどのようなものでしょうか? ここでは、5つの方法をご紹介します。
歯科用薬剤を使用する
歯茎の黒ずみを改善する方法の一つに、歯科用薬剤を使用する方法があります。歯科用の特殊な薬剤を使用して歯茎を火傷のような状態にします。歯茎上皮の入れ替えを促進することで黒く変色した部分を除去する方法です。ピリピリとした痛みは感じますが、表面麻酔を効かせて行うことも多く、痛みはかなり軽減されます。 ただし、歯茎に対する影響が大きいため、治療経験が豊富な歯科医院で受けることがおすすめです。主にメタルタトゥーやメラニン色素の沈着に対して行われます。
歯科用レーザーを使用する
歯科用レーザーを使用して歯茎の黒ずみを除去する方法もあります。この方法では、歯茎の黒ずんでしまった部分をレーザーで焼いて取り去ります。歯茎を焼くことによって一時的に炭化させ、黒ずみを除去するものです。痛みを感じることも少ないとされており、1週間程で健康的な歯茎の色に戻すことができる場合もあります。
詰め物や被せ物の素材を替える
詰め物や被せ物によるメタルタトゥーを起こさないために、セラミックやジルコニアなどの非金属製の素材も広く使用されています。歯茎の黒ずみを予防するだけでなく、金属アレルギーを起こさないためにも、詰め物や被せ物をする際は非金属製の素材がおすすめです。 ただし、症例によっては適用できない素材もありますので、必ず事前に歯科医院に相談するようにしましょう。
歯科クリニックのメンテナンスを受ける
歯周病による歯茎の黒ずみや歯の根元の変色などは、速やかに歯科医院の治療を受ける必要があります。金属製の詰め物や被せ物のメタルタトゥー、メラニン色素の沈着を防ぐためにも、歯科クリニックの定期検診を受けて口腔内のメンテナンスを怠らないようにしましょう。 定期的にクリニックを受診していれば、歯茎の黒ずみだけでなくその他の口腔内のトラブルも早期に発見し、治療につなげることができます。
丁寧な歯磨きと禁煙
毎日の歯磨きを丁寧に行うことは大切です。歯周病での歯茎の黒ずみを予防したい場合は、歯周病予防の歯磨き粉を使うと歯周病菌の繁殖を防ぐ効果が期待できます。 歯磨きと合わせて、歯間ブラシやデンタルフロスを用いるのも効果的です。歯と歯の隙間は歯ブラシが届きづらいため、丁寧な歯磨きを心がけたとしてもどうしても磨き残しが発生します。歯間ブラシやデンタルフロスを使用することで歯垢除去率が20%以上アップするという報告もあり、効果的に歯周病やむし歯を予防することが期待できるでしょう。 また、喫煙も歯茎の黒ずみの大きな要因となります。タバコはメラニン細胞を刺激して歯茎に色素を定着させてしまうだけでなく、血行が悪くなることで黒ずみを促進することもあります。禁煙が難しい場合は、徐々に本数を減らしたり、禁煙外来を利用するなどして、喫煙習慣の改善に取り組みましょう。
歯茎が黒いのは放置しても大丈夫なのか
歯茎が黒くなってしまった場合、放置をしても大丈夫なのでしょうか? ここまで見てきたように、歯茎が黒くなる理由はさまざまです。加齢などによる色素沈着であれば放置することは可能ですが、歯周病や歯の根が死んでいる場合などは治療が必要です。 また、一見、問題がないように思えても、危険な病気が関連している場合もあります。正しい診断を受けるために、一度は歯科医院を受診することが望ましいといえます。また、放置をして問題のない黒ずみであっても、審美的に改善したい場合などは、前述の歯茎の処置などの相談をすることをおすすめします。
まとめ
歯茎の黒ずみは生理的な問題のない色素沈着であることも少なくありませんが、口内の金属が溶け出していたり、歯周病や歯の根元のトラブルの場合もあります。また、さまざまな病気と関連している可能性もあり、自己判断は危険です。まずは歯科医院を受診し、正しい診断を受けるようにしましょう。さらに、口腔内を清潔にすることは、歯茎の黒ずみ予防だけでなく、歯や身体の健康にもつながります。日々の歯磨きやお口のメンテナンスをしっかりと行って、自信の持てる口元を保ちたいですね。
参考文献