むし歯の治療で行われる詰め物にはさまざまな種類があるのをご存じですか?
見た目や耐久性など詰め物の種類によって特徴が異なり、どういった治療結果を求めているのかによっても適切な詰め物は異なりますので、それぞれの種類についての特徴を知って、自分にあったものを選んでみてください。
歯の詰め物とはどのような治療?
むし歯は歯に付着した細菌が作り出す酸によって歯に穴が開き、歯の内部まで菌が感染していくという歯の病気ですが、むし歯菌は薬などで簡単に除去できないため、治療を行う際にはむし歯菌に感染している部分を削るという方法で行われます。
しかし、歯を削ってできた穴をそのままにしておくと歯の内部に汚れや菌が入りやすくなってしまいますし、噛み合わせにも影響がでてしまううえ、歯は一度削ってしまうと自然に元の状態に戻ることがないため、歯を削ってできた穴を何かしらの方法で塞ぐ必要があります。
そこで行われる治療が詰め物で、コンポジットレジンとよばれる歯科用の素材を充填する方法と、インレーと呼ばれるものを接着するという2つの方法があります。
コンポジットレジンとは特殊な光を当てると硬くなる樹脂素材の液体で、歯を削った場所にコンポジットレジンを流し込み、光を当てて硬化させてから歯の形に合わせて余分な部分を削って整えるという形で治療を行います。
一方のインレーは金属やセラミックなどの素材で歯を削った部分の形に合うように作られたもので、歯を削った場所にインレーをはめ込み、歯科用の接着剤で固定するという方法によって行われます。
コンポジットレジンの充填による方法はすぐに治療が完了しますが、インレーを作成する場合は歯科医院で採取した歯型などをもとに、歯科技工士などが作成するため、むし歯を削ってからインレーを入れるまで1~2週程度の時間が必要となる場合もあります。
そのため、インレーを作るまでの時間は仮蓋が必要となりますが、この仮蓋はセメント、天然ゴムなどの素材を使用して行われます。
詰め物での治療が行われるケース
詰め物による治療は、むし歯の症状が軽度の場合に行われます。
むし歯は初期の段階では歯の表面にあるエナメル質の層を少し削る程度ですが、時間が経過するにつれて少しずつ歯の内部に感染を広げ、歯の内部にある象牙質や、神経などが集中している歯髄、そして歯の根の部分へと進行していきます。
むし歯を治療するためには菌に感染している部分を徹底的に除去する必要があり、感染範囲が広くなる程歯を残せる量も少なくなるため、例えばむし歯が歯髄にまで広がり、歯の土台部分以外のほとんどを削らなくてはいけないような状態では、詰め物による治療が行えません。
詰め物以外の治療法
むし歯の治療では、削った歯の保護や噛み合わせの調整を行うために、詰め物ではなく被せ物(クラウン)と呼ばれる方法で治療が行われる場合もあります。
被せ物は歯を削って作った土台に、人工的に作った歯を被せて接着剤で固定するという方法で、以前は歯の土台に対して差し込む形状が主流であったため、差し歯とも呼ばれます。
被せ物の治療はむし歯が歯髄にまで広がってしまっているなどで歯の大部分を削る必要がある場合に行われます。 なお、むし歯が歯髄まで広がってしまった場合には、感染してしまっている神経を除去する必要があり、根管治療と呼ばれる治療が行われることがあります。 根管とは歯の根っこ部分にある神経などが通っている箇所のことで、神経を除去してむし歯菌に感染している箇所を除去することで、歯を抜かずに保存しておけるようにするという治療です。
歯の内部に対する治療であるため、歯内療法とも呼ばれます。 ただし、根管治療は感染部分の完全な除去などが難しい治療であるため、むし歯の再発などのリスクも高く、また、歯は根管を通して栄養などを取り込んでいるため、歯の神経を除去してしまうと中長期的には歯が脆くなってしまうといったリスクもある治療です。
根管治療でも対応が難しいようなケースでは、抜歯をして入れ歯を使用したり、ブリッジやインプラントといった人工歯による治療で噛み合わせを改善させる場合もあります。
詰め物による治療のメリット、デメリット
詰め物や被せ物による治療は、それぞれむし歯の進行状況や歯を削る分量などに応じて行われるため、どの治療法がより優れているかというものではなく、また天然の歯は一度削ってしまうともとに戻せないため、一般的にはなるべく歯を削らない治療がよいという考え方になります。
その点でいえば、詰め物による治療はまだ歯の大部分を残せる場合の治療であり、天然の歯を保存しておける治療法であるという点が大きなメリットといえるでしょう。
一方で、詰め物の治療を行う際にはしっかりと接着させるためにある程度の範囲を削る必要があり、場合によってはむし歯に感染している範囲よりも広く歯を削る場合があることや、接着剤の経年劣化などによって外れてしまう可能性がある点、そして詰め物を作る材質によっては見た目が不自然になることや、金属アレルギーなどのリスクがある点などがデメリットといえます。
保険診療で受けられる詰め物の種類
詰め物のうち、保険診療で作ることができるものは銀歯、レジン、CAD/CAMインレー(ハイブリッドセラミック)の3種類です。
それぞれの種類の特徴やメリット、デメリットについてご紹介します。
金属の詰め物(銀歯)
歯の詰め物として、従来特に多く利用されてきたものがメタルインレーと呼ばれる銀色の詰め物です。
銀歯と呼ばれますが、素材としては純銀が使用されているわけではなく、金やパラジウム、銅といった金属と組み合わせた金銀パラジウム合金や、亜鉛やスズなどと組み合わせた銀合金などが使用されます。
メタルインレーは保険適用で治療が行えるため治療費を抑えることができる点や、耐久性が高い金属の素材であるため、長期的に使用しやすい点、薄くても頑丈な詰め物を作ることができるため、歯を削る量が少なくてもしっかりと治療が行いやすい点などがメリットとなっています。
一方で、銀色の見た目であるため見た目が悪く審美性に欠ける点や、唾液中に金属のイオンが溶けだすことで金属アレルギーを発症させてしまうといった点がデメリットで、金属アレルギーを持つ方は銀歯での治療を受けることができません。
また、溶けだした金属イオンが歯肉に入り込んでしまうと、歯茎が黒ずむメタルタトゥーとよばれる状態になる点も、銀歯のリスクの1つです。
歯科用レジン
歯科用レジンには、歯を削った場所に充填して固めるといった形で治療を行うコンポジットレジンと、インレーなどを作る物などさまざまな種類があり、レジンを使用して作成を行うインレーについても、保険適用で受けることができます。
歯科用レジンで作るインレーは、銀歯と異なり歯の色に合わせて作成することができるため、見た目の不自然さが軽減できる点や、金属アレルギーの心配がないという点がメリットです。
また、やわらかい素材のため修理などが行いやすいという点もメリットで、長期間使用していて歯の形に合わなくなってきた場合には調整などがしやすいといえます。
一方で、レジンは着色や変形をしやすく、見た目を維持し続けにくい点や、そのやわらかさから強い力がかかると割れてしまうなど破損の可能性が高いため、奥歯などの治療では利用できないといった点がデメリットです。
CAD/CAMインレー
CAD/CAMとは、パソコン上で設計などを行うという意味でのCADと、そのデータをもとに工作機械を制御するプログラムを作成するシステムであるCAMという言葉が組み合わさったもので、コンピューターを使用して作成するインレーのことです。
CAD/CAMインレーは、歯科医院や歯科技工所に設置されたミリングマシンと呼ばれる機械が、歯科用素材のブロックを自動で削りだして作成する詰め物で、細かな調整などは手作業で行われるものの、おおよその形は機械が作成を行うため、素早く、効率よく治療を進めることができます。
2022年から一部の歯(奥歯)での治療に使用する場合に保険適用で行うことが可能となっていて、ハイブリッドセラミック(またはハイブリッドレジン)というレジンの素材とセラミックをかけ合わせた素材の詰め物を作ることができます。 CAD/CAMインレーで使用されるハイブリッドセラミックは、歯科用レジンよりも強度が高く、奥歯の治療に利用できるため、奥歯を保険適用で白い歯にする治療を受けたいという場合や、金属アレルギーがある方が治療を受ける場合に適している治療法です。
一方で、あくまでもレジンの特性を持つ素材であるため強い力がかかると割れてしまうなどのリスクがある点や、変色の可能性がある点、そして保険適用で治療を受けるためにはいくつかの条件があるため、誰でも利用できるというものではないという点がデメリットといえます。
保険診療で治療が受けられるかどうかは残っている歯の状態などにもよりますので、歯科医院で相談してみるとよいでしょう。
自費診療による詰め物の種類
保険診療ではなく、自費診療で詰め物を作成するのであれば、より見た目や耐久性の高い詰め物を作ることも可能です。
自費診療による詰め物の種類と、それぞれの特徴をご紹介します。
セラミックインレー
セラミックとは個体材料の中で、非金属元素で構成される無機質の材料を指します。
歯科素材で使用される金属やレジンではなく、セラミック素材を使用して作成するものがセラミックインレーです。
セラミックには陶材であるポーセレンや、強化ガラスセラミックであるe-max、人工ダイヤモンドとも呼ばれるジルコニアなどがあり、それぞれ審美性や耐久性に違いがあります。
セラミック素材のメリットは審美性と耐久性の高さで、セラミックは天然の歯ととても近い色や透明感を実現できるため、治療を行っている歯と気付かれないような、自然な仕上がりの治療を行うことができます。
また、セラミックは頑丈で変形や着色しにくい素材であるため、長期的に使用し続けやすいという点もメリットです。
一方で、金属素材である銀歯と比べると耐久性は低く、強い力がかかると割れてしまうリスクがある点や、保険診療のため費用が高額になりやすい点がデメリットといえるでしょう。
セラミック素材のうち、ポーセレンやe-maxは審美性に優れる一方で強い力がかかると割れやすいという性質があるため前歯などの治療で使用されるケースが多く、ジルコニアはとても硬いため奥歯で利用される一方、審美性についてはポーセレンなどに劣るため、前歯の治療では積極的に使用されないといった特徴があります。
金歯
金属素材の詰め物としては、銀歯のほかに金歯も利用されています。
金はもともとやわらかい素材で、純金では歯科治療に適さないことから、治療に利用されるものは18金などの金とほかの金属が混ざった素材となります。
金は金属素材であるため耐久性が高く、イオン化しにくいため金属アレルギーの心配が少ない点や、場合によっては売ることもできるといった点がメリットです。
また、金はそのやわらかさから適合性が非常に高く、どのような歯の状態でも使用しやすいという点や、装着後に新たな虫歯が発生しにくいといった点もメリットとされています。
一方で、見た目の自然さは期待できない点や、素材として混ざっている金以外の金属が影響して金属アレルギーを生じることがあるといった点、そして治療費用が高額になりやすい点がデメリットといえるでしょう。
詰め物の種類による違い
詰め物の種類による違いは、下記のような点にあらわれます。
見た目の自然さ
詰め物は、銀歯や金歯といった目立つものから、歯科用レジンやセラミックといった目立血にくいものまでさまざまな種類があります。
特に見た目が自然な治療はセラミックによるもので、歯の色だけではなく、適度な透明感まで表現が可能であるため、天然の歯と比べても違和感のない治療が実現しやすいでしょう。
歯科用レジンによる治療は歯の色は再現できるものの、透明感の再現が難しいことや、着色しやすい性質があるため、完全に目立たない治療は難しいといえます。
時間による劣化のしやすさ
詰め物の作成に使用される素材はそれぞれ耐久性が異なります。
金属系の素材は割れたりする可能性が低く、時間による劣化がしにくい一方で、歯科用レジンは変形や破損の可能性が高いため、定期的な調整や作り直しが必要となります。
また、セラミック素材は耐久性が高く変形などはしにくいものの、強い力がかかると割れてしまう可能性があるため、場合によっては作り直しが必要となるでしょう。
接着方法の違い
詰め物は歯科用の接着剤で固定するとご紹介しましたが、実は金属素材で作成したものの固定は合着とよばれ、セラミックなどの素材は接着と呼ばれるように、やや方法が異なっています。
合着というのは歯と金属の詰め物の間にセメントを入れ、摩擦力によって固定するという方法になっているため、セメントが経年劣化すると隙間ができやすくなり、むし歯の再発といったトラブルにつながる可能性が高くなります。
一方で接着を行う場合はより密接に固定されるため、経年劣化で隙間ができるなどのリスクが低く、長期的に安心感のある治療が行いやすくなっています。
金属アレルギーの影響
銀歯や金歯による治療では、金属アレルギーのリスクがあります。
レジンやセラミックの治療でも接着剤に対するアレルギーのリスクなどがないわけではありませんが、金属アレルギーの可能性と比べれば低リスクでといえるでしょう。
ケアのしやすさ
詰め物のなかでも、特にセラミックは表面に汚れが付着しにくいという性質を持っているため、治療後にケアがしやすくむし歯予防などの効果が得やすいといえます。
レジンや銀歯などは歯磨きなどで表面が傷つくと汚れの付着や菌の繁殖が起こりやすくなるため、ケアのしやすさという点ではセラミックに劣るといえるでしょう。
まとめ
詰め物にはさまざまな種類があり、それぞれにメリットやデメリットが異なります。
治療に必要な費用や、使用可能な期間などいろいろな面で比較して、自分の目的に合わせた理想の治療を受けてくださいね。
参考文献