「最近、なんだか口臭が気になる」
「丁寧に歯磨きをしているのに口臭がとれない」
このような悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。その原因は、実は親知らずにあるかもしれません。親知らずはお口の奥に位置しているため、自分でのケアが難しく、気付かないうちに細菌が繁殖してしまうことがあります。その結果、親知らずが口臭の原因となってしまうことがあるのです。本記事では、親知らずと口臭の関係や、考えられる原因、具体的な対策や予防方法について詳しく解説します。
親知らずがあると口臭が強くなる?

親知らずは、奥歯のさらに奥に生える永久歯で、第三大臼歯(だいきゅうし)とも呼ばれます。生え方には個人差があり、まっすぐ生える方もいれば、斜めや横向き、あるいは歯茎に埋まったままの方もいます。これらの親知らずが、口臭の原因になることがあります。
親知らずはお口の中の奥にあるため自分でのケアが難しく、プラーク(歯垢)や食べかすがたまりやすいため、細菌が増えやすい部分です。その結果、強い口臭を引き起こします。
親知らずで口臭が強くなる原因

親知らずで口臭が強くなる原因として、主に親知らずのケア不足とむし歯や歯周病の影響が考えられます。それぞれを詳しく解説します。
ケア不足
親知らずによる口臭の主要な原因として、ケア不足が挙げられます。親知らずは、お口の奥にあり、歯みがきがしづらく、食べかす、みがき残しがたまりやすい、という特徴があります。
親知らずが生える場所は奥歯のさらに奥であるため、スペースがなく横向きに埋もれたり、斜めに倒れたりすることが少なくありません。親知らずはそれ以外の歯に比べて歯磨きがしづらく、日常のケアだけでは対処できないこともあります。取り除けなかった食べ物や食べかすの腐敗が進み、お口の中で食べ物の腐ったような匂いがし始めます。
むし歯や歯周病の影響
親知らずによる口臭の原因には、むし歯や歯周病があります。それぞれを詳しく見ていきましょう。
むし歯
初期のむし歯が口臭の原因となることは少ないですが、むし歯が進行すると口臭の原因になる場合があります。むし歯を引き起こす細菌は、歯に付着した食べ物のかすを分解します。その際に口臭のもととなる気体ができます。口臭の大部分は、お口の中で発生する気体に由来していると考えられています。
むし歯の進行に伴い、むし歯菌が増えます。そうすると口臭の原因となるガスがたくさん出て、口臭が強くなります。むし歯による口臭は、卵が腐ったような、と例えられることがあります。これはむし歯菌が硫化水素というガスを発生させるためです。むし歯がさらに進行し根元まで広がると、歯茎に膿がたまることがあります。膿は菌のかたまりであり、それ自体が強い臭いを放ちます。膿が流れ出すと強い口臭の原因となります。
歯周病
歯周病とは、歯茎や歯を支える骨が壊されていく病気です。これは歯周病を引き起こす細菌の感染によって引き起こされます。歯周病の原因となる細菌は、口臭のもととなる物質を作ります。代表的なものにメチルメルカプタンといわれる気体があり、これは強い臭いにつながります。口臭が強くなってきたときには、歯周病がないかチェックすることも必要です。
【原因別】親知らずの口臭への対策

親知らずの口臭への対策は、その原因に応じた適切なアプローチが重要です。原因を把握し、それぞれに対応した治療法を選択することで、効果的な口臭への対策につながります。
【ケア不足】歯磨きやフロスで丁寧にケアする
ケア不足が原因で、親知らずの口臭が引き起こされている場合は、歯磨きやフロスで丁寧にケアすることが大切です。
毎回の食事の後に歯磨きをすることで、食べ物のかすや歯垢を取り除き、菌が増えるのを防ぐことができます。ただし、歯と歯の間の食べ物のかすや歯垢は歯磨きだけでは取り除けないことが多いとされています。このため、歯と歯の間をきれいにするための、デンタルフロスの使用が推奨されています。
フロスはいわゆる糸ようじのことで、歯と歯の間に糸を通し、汚れを取り除く道具です。歯磨きを歯ブラシだけで済ませている方は、歯と歯の間をきれいに保つためにフロスを使用しましょう。
【むし歯や歯周病】歯科医院で治療を受ける
むし歯や歯周病が原因となっている口臭に対しては、自宅でのケアだけでは限界があります。歯科医院で治療を受ける必要があります。
親知らずや親知らずの隣の歯がむし歯になっている場合、その部分のむし歯の治療をすることで、臭いの原因を取り除くことができます。むし歯の治療では、むし歯の部分を除去し、適切な材料で修復を行います。むし歯が進行している場合には、神経の治療が必要になることもあります。
歯周病の治療では、歯みがきの指導や歯石除去などのクリーニングが行われます。病状が進行している場合には、歯茎の手術が必要なこともあります。
歯科医院で、むし歯や歯周病の専門的な治療を受けることで、口臭を改善させることにつながります。
親知らずの生え方が原因でケア不足やトラブルが起こっている場合

親知らずは、通常の歯と同じように、真っ直ぐに生えているとも限りません。親知らずの生え方に問題がある場合、適切なケアを行うことが困難となります。親知らずの生え方が原因でケア不足やトラブルが起こっている場合を詳しく解説します。
歯茎から親知らずが一部だけ見えている
斜めや横向きに生えた親知らずは、歯茎から一部分だけ見えていることがあります。このような状態では、歯ブラシが到達できない部分が多くケアが難しくなるため、汚れがたまりやすくなります。汚れがたまってくると、歯茎に炎症を起こしたり、むし歯や歯周病の原因になったりすることがあります。
親知らずの場合、智歯周囲炎(ちししゅういえん)という特有の炎症を起こすことがあります。智歯周囲炎は、智歯(親知らず)が原因で起こる歯茎やその周囲の組織の炎症を指します。お口の中の一番奥にあること、正常に生えないことなどから、歯をきれいにすることが難しく、歯茎の炎症を引き起こします。智歯周囲炎はだんだんと悪化していきます。痛みがないからといって放置していると、細菌が増え、膿がたまることがあります。お口の中に膿が出ると、口臭が悪化します。
親知らずが歯茎に完全に埋まっている
親知らずが、横を向いた状態で歯茎の下に完全に埋まっていることもあります。こういった場合は親知らずが完全に歯茎に覆われた状態であるため、親知らずに炎症などを起こすリスクはあまり高くないと考えられます。ただ、まれに親知らずの周囲に嚢胞(のうほう)とよばれる膿がたまった袋のようなものができることがあります。膿がたまった嚢胞は、痛みなどの症状はないこともありますが、骨を溶かしてしまう可能性があります。
親知らずの抜歯について

親知らずだから抜く、というわけではありません。親知らずの抜歯は、口臭を含むさまざまな問題がある場合に、その問題を解決するための治療の一つです。抜歯にはメリットとデメリットがあり、患者さん一人ひとりの状況に応じて慎重に判断する必要があります。
抜歯を検討すべきケース
親知らずの抜歯を検討すべきケースには、むし歯や歯周病がある(もしくはその恐れがある)場合などが挙げられます。以下に具体的なものを示します。
- 親知らずの痛みや、腫れがある
- 歯並びがおかしい(親知らずが歯並びに影響を与えている)
- 親知らずや親知らずの隣の歯がむし歯になる
- 口臭の原因になる
このように、親知らずがあることでさまざまな影響がでている場合には、親知らずの抜歯が検討されます。ただし、親知らずが口臭の原因となっている場合には、歯磨きなどのケアを十分に行っても、症状の改善が見られないときに抜歯が検討されます。
抜歯するメリット
親知らずを抜歯するメリットは以下のようなものが挙げられます。
- 問題となっている原因の除去
- 隣の歯を守る
問題を起こしている親知らず自体を取り除くことで、繰り返す炎症や口臭の原因を取り除くことになります。特に、どれだけケアをしても改善しないような親知らずの場合、抜歯によってお口の中の状態が改善し、口臭が軽減する可能性が高まります。また、智歯周囲炎を繰り返していた場合、抜歯は根本的な解決となります。
また、親知らずを抜歯すると、手前の歯との間に汚れがたまらなくなります。これにより隣の歯がむし歯になるリスクや、歯周病のリスクを減らせる可能性があります。将来的な口臭発生源も減ることになります。
抜歯するデメリット
親知らずを抜歯するデメリットは以下のようなものが挙げられます。
- 外科的な処置(手術)による身体への負担
- 処置による合併症のリスク
- 親知らずの有用性の喪失
親知らずの抜歯は外科的な処置が必要です。外科的な処置とは、わかりやすくいうと手術のことで、抜歯はお口の中の小さな手術です。局所麻酔を行いますが、抜歯の後は痛みや腫れ、出血が起こることがあります。
またそのほかにも合併症が起こる可能性があります。下顎の親知らずの抜歯では、神経を傷つけることによる下唇や顎のしびれ・麻痺が起こるリスクがあります。また、上顎の親知らずでは、顔の中にある鼻とつながった空洞と交通してしまう(穴が開く)合併症などが起こりえます。特に生え方に問題がある場合は合併症が起こる可能性は高くなります。こうしたリスクは小さくても手術である以上、ゼロではないことを理解しておく必要があります。
なかには親知らずがきちんと機能しており、ほかの歯を失ったときのブリッジ(土台)に利用できるケースがあります。また、ほかの歯を失った際に親知らずを移植できる場合もあります。さらに、上下どちらかの親知らずが欠如してしまうと、噛み合わせが悪くなります。こういった場合、抜歯をしてしまうと、存在していることで得られた親知らずのメリットが失われます。このため基本的には、現在問題がある場合に親知らずを抜くことを検討します。
親知らずによる口臭を予防する方法

親知らずによる口臭の予防は、早期発見と適切な管理によって効果的に行うことができます。予防的なアプローチは、治療よりもはるかに負担が少なく、長期的なお口の健康の維持にも重要な役割を果たします。
歯科医院で定期的に状態を確認してもらう
歯科医院で定期的に状態を確認してもらうことは、口臭なども含めたお口の中のトラブルを防ぐために不可欠です。特に親知らずがある方は、自分では見えにくい部分の磨き残しや、歯茎の状態をチェックしてもらうことができます。
また、歯科医院では必要に応じてレントゲン撮影で親知らずや周りの骨の状態を確認されることがあります。埋もれてしまっている親知らずは特に自分では気付きにくいことがあるため、歯科医院でのチェックが大切です。
さらに、歯科医院ではデンタルケアの指導が行われます。デンタルケアの指導では、一人ひとりに合った歯の磨き方や歯間ブラシやフロスなどの補助的な用具の使い方を教えてもらいます。親知らずの生え方、歯茎の状態などは、その方によって違うため、自分に合ったケアの方法を知ることがとても大切です。
歯科医院でクリーニングしてもらう
歯科医院でクリーニングしてもらうことも、たいへん重要な予防方法です。歯科医院で行うクリーニングとは、歯の汚れや歯垢、歯石などを取り除く処置のことを指します。特に、歯石は自宅でのケアで落とすのは難しく、歯科医院で処置をしてもらう必要があります。口臭の原因となる歯垢や歯石を除去すると、口臭の改善につながります。また、口臭だけでなく、むし歯や歯周病の予防にもなりえます。定期的に歯科医院でクリーニングしてもらうことで、お口の中をきれいに保ちましょう。
ただし口臭を防ぐには、日常生活での丁寧なケアが欠かせません。歯科医院でクリーニングしてもらうことと、自宅でのケアを併用し、口臭の予防につなげましょう。
歯科医師と相談して抜歯を検討する
親知らずは、すべて抜かなければならないわけではなく、症状や生え方によってはそのまま様子を見ることがあります。
しかし、生え方に異常があったりして、むし歯や歯周病、口臭の原因となる場合は、抜歯を検討します。ただし、口臭が原因で抜歯を検討する場合は、口臭の問題だけではなく、お口全体の状態と照らし合わせて考える必要があります。また、抜歯には処置による合併症も起こりうるため、歯科医師とよく相談し、抜歯をするか検討しましょう。
まとめ

親知らずがあると口臭が強くなる可能性があります。親知らずと上手に付き合うことが、口臭を予防するために重要です。親知らずがあっても、正しくケアされ、健康に維持されていれば抜歯をする必要はありません。しかし、親知らずのケアは難しいことも多いため、歯科医院で定期的にチェックをしてもらうとよいでしょう。定期的な歯科医院でのチェックとクリーニングによって、お口の中の状態を改善できます。親知らずがあり口臭がきになる場合は、早めに歯科医院を受診しましょう。
参考文献