部分入れ歯を長い間使用していると、入れ歯が合わなくなってきたと感じる方がいるのではないでしょうか。
入れ歯を支える顎の骨は、年齢とともに痩せていきます。部分入れ歯や総入れ歯に限らず定期的なメンテナンスが必要です。
では実際に調整が必要な入れ歯にはどのような特徴があり、どのような調整方法があるのでしょうか。
今回は部分入れ歯の調整方法や調整が必要な入れ歯の特徴、調整にかかる費用などを解説します。
部分入れ歯の調整方法・特徴
- 部分入れ歯の調整方法について教えてください。
- 義歯(部分入れ歯)の調整方法は、大きく分けて3つです。
- 義歯床粘膜面の調整
- 人工歯の調整(咬合調整)
- クラスプの調整
義歯床粘膜面は、入れ歯のピンク色の部分の歯茎と触れる部分をいいます。基本的に、歯茎に強く当たっている部分を削るといった方法で調整するものの、長期間使用していたといった理由から大幅に適合しない場合は、リラインやリベースを行う必要があります。
リラインやリベースは、義歯床粘膜面全体を新しく貼り直す方法です。現在は、リラインが主流となっており、リベースを行う場合はほとんどありません。リラインは、義歯と歯肉(歯茎)との接着面にレジン(プラスチック)を補填し、歯肉に接着できるよう形を整える方法です。人口歯の調整(咬合調整)はかみ合わせが不適合の場合に選択される調整方法で、入れ歯の白い部分(人工歯)の調整を行います。クラスプが緩くなったり、変形したりした場合にはクラスプを曲げるといった方法で調整します。
- 調整が必要になる部分入れ歯の特徴はありますか?
- 調整が必要となる部分入れ歯には、以下のような特徴があります。
- 入れ歯のサイズが合っていない
- 装着すると痛みが出る
- 入れ歯を装着してもすぐにずれる
部分入れ歯に限らず、入れ歯は新たに型取りをして作ると、材質の特性によっては歯型よりも少し小さく完成する場合があります。自分の歯形より小さな入れ歯を使うと、噛み合わせた際に特定の箇所に強い圧力がかかり、痛みを感じることがあります。痛みが出る箇所はその方によってさまざまですが、装着時に痛みが出た場合にはその都度調整し、自分のお口に見合った入れ歯にしていく流れです。
調整が必要なケースは、作ったばかりの部分入れ歯だけではありません。長期間にわたり部分入れ歯のメンテナンスをせず使用していると、顎の骨が痩せたり歯並びが変化したりして部分入れ歯のサイズが合わなくなるのです。結果的に誤って頬や舌を噛んでしまったり、口腔内の違和感や自分の発音に変化を感じたりします。
作ったばかりの部分入れ歯は基本的に2週間〜1ヶ月間装着しているうちに、歯茎に馴染んで違和感や発音の変化を感じなくなる場合もあります。数ヶ月経っても改善しない場合には、調整が必要かどうかを歯科医師に相談してみてもよいでしょう。
- 合わない部分入れ歯を使っているとどうなりますか?
- 合わない部分入れ歯を使っていると、以下のように食生活のみならず認知機能や身体機能も影響を受けます。
- 歯周病や誤嚥性肺炎
- 嚥下機能をはじめとする摂食機能の低下
- 認知機能の低下
合わない入れ歯を使い続けると、食べにくさだけでなく噛み合わせが悪化します。噛み合わせが乱れるとやわらかい食べ物を好むようになり、その結果、口腔内に汚れがたまりやすくなるのです。特に高齢者や口腔がんなどで入れ歯を使用している方は、免疫機能が低下しやすいため、歯周病や誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。
やわらかい食べ物ばかりを食べると、顎の骨が痩せる原因となり、結果的に噛み合わせの悪化や咀嚼機能の低下を引き起こします。咀嚼には唾液の分泌を促すだけでなく、脳に酸素を送り神経細胞を活性化させる役割もあり、咀嚼の機会が減ると認知機能や嚥下機能の低下につながるでしょう。
部分入れ歯のサイズが合わない、または長期間の使用で食べづらさを感じる場合は、早めに受診して入れ歯のメンテナンスを行いましょう。
部分入れ歯の調整が必要になる原因
- 部分入れ歯の調整が必要になる原因はなんですか?
- 部分入れ歯の調整が必要となる原因には、以下のようなものがあります。
- 下顎骨や歯茎自体が痩せてしまった
- 部分入れ歯そのものが経年変化した
- 装着方法の使い方が間違っている
年齢とともに顎の骨や歯茎が痩せると、入れ歯のサイズが合わなくなります。顎の骨が痩せることで歯茎の状態も変化し、入れ歯が口のサイズより大きくなって装着時に違和感を覚えることがあります。また、長期間にわたる入れ歯の使用は義歯床(入れ歯の土台部分)のサイズ変化だけでなくクラスプ(金属の留め具)の劣化にもつながるでしょう。
たとえクラスプに丈夫な材質を使用していても、経年劣化により金属が折れたり曲がったりすることがあります。クラスプは部分入れ歯の装着において重要なパーツであるため、自分で形を整えず、歯科を受診して調整してもらいましょう。
また、入れ歯の使用初期に多く見られるのが、装着方法の誤りです。誤った方法で入れ歯を装着すると、クラスプが曲がったり折れたりするだけでなく、入れ歯全体の変形を引き起こす可能性があります。
- 部分入れ歯の調整はどのくらいの期間が必要ですか?
- 部分入れ歯の調整期間はその方の口腔内の状況により異なりますが、一般的な目安は1〜3ヶ月です。部分入れ歯の調整には、入れ歯を口腔内にしっかりとフィットさせる目的があります。
その方の噛み合わせの状況や実際に入れ歯を装着、使用した状況によって調整期間が長くなったり短くなったりします。
- 部分入れ歯に痛みがある場合調整はしてもらえますか?
- 部分入れ歯に痛みがある場合は、歯科医院での調整が可能です。新しく作った部分入れ歯の場合、入れ歯が口腔内に順応するまで数週間〜1ヶ月かかる場合があります。順応するまでの期間は、入れ歯装着時の痛みや圧迫感を感じるケースが少なくありません。
ただし順応するまで痛みを我慢しなければならないわけではなく、痛みが我慢できない場合や違和感が強い場合は適宜調整し口腔内に順応できるようにしていきます。しかし、長年装着している入れ歯を付けて痛みを感じた場合には、入れ歯に何らかの不具合がある場合や下顎が痩せてしまった場合が考えられるため調整が必要です。
部分入れ歯の調整方法で気を付けること
- 部分入れ歯の調整方法で気を付けることはありますか?
- 部分入れ歯を調整しているときは、入れ歯と口腔内を清潔に保ち、洗浄する場合は優しく取り扱う必要があります。部分入れ歯の調整中は口腔内と入れ歯がしっかりとフィットしていないため、食べかすが口腔内に残りやすい状況です。
口腔内の形状にフィットしない入れ歯を付けたままにすると、歯垢が溜まったり歯肉炎や歯周病を引き起こしたりします。歯茎に炎症が起きると調整期間が長引くだけでなく、サイズが合わなくなる原因になるため口腔内と入れ歯は清潔に保ちましょう。
また調整期間中はサイズが合っていないと感じたり違和感を感じている場合には、我慢せず歯科医師に伝え、しっかりとフィットするよう調整してもらうのも大切です。
- 部分入れ歯の調整が必要なくても定期検診には行くべきですか?
- 部分入れ歯を付けている方は調整の必要がなくても定期的に歯科受診し、メンテナンスをしてもらうよう心がけましょう。高齢の方や歯肉炎がある方の場合は、歯茎が痩せたり歯肉炎によって歯茎が腫れたりします。
歯茎の状態変化は、入れ歯が口腔内の形状に合わなくなる原因のひとつです。特に高齢になると加齢に伴い下顎の骨は年々痩せていくため、噛み合わせに変化を感じたり入れ歯装着時に痛みを感じたりする前に定期的に口腔内をチェックする必要があります。
- 自費診療での費用相場について教えてください。
- 自費診療で部分入れ歯を作る場合の費用は100,000〜500,000円(税込)以上かかる場合があり、基本的に高額です。自由診療の入れ歯を作るメリットは、材質に制限がなく審美性や強度に優れた材質を用いた部分入れ歯の作成が可能な点にあります。しかし費用は保険診療と比較すると高額になる場合がほとんどであるため、費用が高額になる点がデメリットです。
その一方で費用に関しては、医療費控除や歯科ローンを利用できるケースもあります。高額療養費制度は保険診療のみと限定されているものの、医療費控除に関しては一部保険適用外も対象となるため費用が心配な場合はあらかじめ市町村窓口や病院で相談してみるとよいでしょう。
- 保険適用の費用相場について教えてください。
- 保険診療で部分入れ歯を作る場合の費用相場は、病院にもよりますが3割負担の場合で5,000〜10,000円(税込)前後です。大学病院の高度な歯科診療に対応した医療機関で部分入れ歯を作る場合、保険診療でも100,000円(税込)以上の費用がかかるケースもあります。
部分入れ歯は入れ歯を作る場所や残っている歯の状態、歯茎の状態など一人ひとりの口腔内の状態によって必要となる材質や金額が異なります。
編集部まとめ
部分入れ歯は私たち人間が食事をするために必要な歯を補うために作る重要な治療法で、作成してからもメンテナンスが欠かせません。
入れ歯は作って終わりではなく、自分のお口にしっかりとフィットするよう維持することが大切です。
お口の健康を保つだけでなく身体の健康を保つためにも、入れ歯は正しく扱いこまめにお口の中や入れ歯の状態をチェックするとよいでしょう。
また入れ歯を作成したり調整したりする場合は多様な材質や調整方法があり、保険診療外で入れ歯を作る選択肢もあります。
入れ歯は決して安価な治療法ではないため、歯科医師に相談しながら自分に見合った入れ歯を作るのが大切です。
参考文献
- 完成した局部床義歯がうまく入らない時にはどうしたらよいでしょうか?
- リラインとリベースのガイドライン
- 入れ歯の調整はなぜ必要?|岩手医科大学歯学部 歯科補綴学講座 有床義肢補綴学分野
- 義歯を修理で対応する場合と再製作を行う場合の判断基準はありますか。
- 口腔機能低下症を伴う義歯不適合の高齢者に対して口腔健康管理を行った症例
- MMSE により認知機能低下が疑われる義歯装着高齢者の口腔内評価―義歯を必要としない高齢者との比較および欠損形態による相違―
- 咬合・咀嚼と認知機能
- 部分入れ歯の上手な付き合いかた|旧・東京医科歯科大学
- 有床義歯補綴診療のガイドライン(2009改訂版)
- 補綴科|東京歯科大学 水道橋病院
- No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例|国税庁
- 国立大学法人東京医科歯科大学病院諸料金規則の一部改正