むし歯治療や不慮の事故などで、歯を失ってしまうことがあります。
歯を失うと食べ物を食べづらくなるだけでなく、お口を開けたときに隙間が見えてしまうことが気になり、食事や会話が楽しめなくなってしまいます。
失った歯を埋める治療として、広く使用されているのが義歯です。義歯を使用することで、健康的な食生活を送ることができるだけでなく、見た目も気にすることなく食事や会話を楽しむことができます。
治療に使われる義歯にも、実はさまざまな種類があり、その一つ一つにメリットとデメリットがあります。
さまざまな種類があるなかで、義歯と同じく耳にするのは、入れ歯です。入れ歯と義歯は同じものかと思ってしまいますが、実は違いがあります。
この記事では、入れ歯と義歯の違いに加え、それぞれの種類によるメリットとデメリットについて解説します。
入れ歯と義歯の違い
義歯とは、むし歯や不慮の事故やその他の理由によって失った自然歯の代わりに使用する人工の歯のことを指します。
入れ歯は義歯のなかの種類の一つで、部分的に人工の歯を入れる部分入れ歯や、お口のなかの歯をすべて人工の歯にする総入れ歯のことを指します。
義歯には入れ歯のほかにも、インプラントやブリッジといった種類があります。
義歯と差し歯の違い
義歯は失われた歯を補綴する人工歯のことですが、では差し歯も義歯に含まれるのでしょうか。
結論から述べると、差し歯は義歯に含まれません。理由は治療法にあります。
義歯を使う治療法は、歯根も含めてすべてを失ったときに行われます。失われた歯というのは、歯根も含めてまったく歯がない状態を指すのです。
差し歯は歯根部分を利用して行う治療です。歯根にコアと呼ばれる支柱を入れ、被せ物をして歯冠部分を補います。
つまり、歯根が残っていない場合は義歯の治療、歯根が残っている場合は差し歯となるのです。
差し歯の特徴や差し歯ができないケースについても詳しく見ていきましょう。
差し歯の特徴
差し歯は神経を取った歯や歯質の欠損が大きい場合に行われます。神経があった場所にコアを差すので差し歯と呼ばれています。治療期間は、1ヵ月~2ヵ月程です。
差し歯には、プラスチックを使ったレジンやセラミック、ジルコニアなどがあります。レジンは保険適用で、5,000〜10,000円程で作ることができます。
セラミックやジルコニアは保険の適用範囲外で、素材にもよりますが100,000〜150,000円(税込)程です。
レジンは費用を抑えることができますが、長く使用していくうちに歯茎との間に変色が起こります。セラミックやジルコニアは費用は高額になりやすいですが、見た目がとても自然で審美性があり、変色も少ないです。
差し歯ができないケースもある
差し歯をするには、根管が残っていることが必要です。根管がまったく残っていない場合には、土台を作ることができず、差し歯での治療はできません。
根管にひびが入っている場合も難しいです。差し歯ができないときは、入れ歯やインプラントなど義歯の治療になります。
差し歯と義歯のどちらがよいのかは、患者さんのお口の中の状態によっても変わります。治療の際には、歯科医師と相談しながら治療法を決めていくことが大切です。
入れ歯の種類とメリット・デメリット
ひとことで入れ歯といっても、すべて同じではありません。
残っている歯の本数や保険適用なのか保険適用外なのかなど、治療内容によって入れ歯の種類は異なります。
ここでは入れ歯の種類と入れ歯のメリット・デメリットについて解説します。
種類
入れ歯には大きく分けて2つの種類があります。部分入れ歯と総入れ歯です。
部分入れ歯は、欠損した歯が一部分の場合に使用します。部分入れ歯を支える歯があれば、1本から治療を受けることが可能です。
すべての歯を欠損している場合や部分入れ歯で対応が難しい場合は、総入れ歯が検討されます。入れ歯には保険適用の入れ歯と保険適用外の入れ歯があり、素材が異なります。
- 歯茎に似せたピンク色のプラスチックで作られたレジン床は保険適用です。
- 金属床やノンクラスプは保険適用外です。
金属床は金属を使った入れ歯で、チタンやゴールドを使った入れ歯があります。金属の種類によって機能性や耐久性が異なります。
金属はアレルギーの心配がありますが、チタンやゴールドは親和性が高いため、金属アレルギーのリスクが低いです。コバルトクロムはチタンやゴールドに比べると安価ですが、金属アレルギーを起こしやすいため注意しましょう。
ノンクラスプは人工樹脂を使った部分入れ歯です。金属のクラスプを使わないため目立ちにくいのがメリットですが、やわらかいため着脱のたびに緩むことがデメリットとして挙げられます。
メリット
入れ歯は部分入れ歯と総入れ歯があり、欠損した歯の本数に応じて作製することができます。ブリッジのように健康な歯を削る必要がないため、残っている歯へのダメージも少ないです。
インプラントのように外科治療が必要ないため、短期間で治療が終わるのもメリットです。入れ歯は取り外しができるため、清潔に保つことができます。
入れ歯の種類のところでも触れましたが、レジン床は保険適用なので費用を抑えることができます。
デメリット
デメリットは、日々のお手入れが必要であることや、定期的なメンテナンスが必要なことです。
お口のなかにあるので、当然汚れが付着したり、変形したりします。セルフメンテナンスや、歯科医院での定期メンテナンスは行うようにしましょう。
総入れ歯には、ほかにも以下のようなデメリットがあります。
- 舌の動きで動きやすい
- 前歯が噛み合わせられない
- 土手が減ると装着しにくくなる
- 噛み合わせが変わると動きやすくなる
- 噛む力のコントロールが必要
- 唾液が減るとずれやすくなる
総入れ歯は上顎には固定しやすいですが、下顎は舌の動きに影響されるため動きやすいです。
前歯が強く噛み合うと総入れ歯の状態にも影響が出るため、あえて少しずらしてあります。それにより、前歯で噛むことが難しくなります。
土手とは、元々の歯茎のことです。土手があることで総入れ歯が固定しやすくなるのですが、加齢とともに土手が減ると、総入れ歯の固定しづらくなります。
加齢に伴う顎の関節や筋肉の変化により、噛み合わせが変わることがあります。噛み合わせが変わると総入れ歯も動きやすいです。
総入れ歯は強く噛むと、その力で押し出されることがあります。食事の際には噛む力を強くしすぎないことが必要です。
唾液も年齢を重ねるなかで減っていきます。唾液が減ると総入れ歯の固定がずれやすくなるため、保湿剤を使用しながら使うことが必要です。
入れ歯以外の義歯の種類とメリット・デメリット
入れ歯以外の義歯には、インプラントとブリッジがあります。
インプラントは、歯がなくなった場所にチタン製の歯根を差し込み、被せ物をする治療です。
失った歯の部分だけに使用するので、周囲の歯に負担をかけることがありません。
ブリッジは、失った歯の両隣または隣の歯を土台にして、義歯を装着します。
隣り合う自然歯を使用して固定するので、その自然歯が安定していることがブリッジの条件です。
それぞれに種類やメリットとデメリットがあるので、解説していきます。
インプラント
インプラントの種類やメリット・デメリットは以下のとおりです。
種類
インプラントには、2ピースと1ピースの二種類があります。
インプラントは、チタン製のネジになっているインプラント部分・歯になる被せ物・それらをつなぐアパットメントで構成されています。
2ピースはインプラント部分とアパットメントが分かれているのが特徴で、1ピースはそれらがひとつになっているのが特徴です。
メリット
2ピースは、1ピースよりもツーピースインプラントアバットメントの種類を選択できるため、さまざまな状況に対応しやすいです。
アパットメントが独立しているため、お口の状態や必要に応じて付け替えることができるのも特徴です。
1ピースは、強度に優れています。アパットメントと一体化しているため、手術回数が1回に抑えられたり、費用も抑えられたりするのも特徴です。
2ピースと比べて、ネジが緩む心配もありません。
デメリット
2ピースのデメリットは、手術回数が増えることと、高額になりやすいことです。外科手術を2回行う必要があり、患者さんの負担が大きくなります。
部品数も増えることから、費用も1ピースと比較して高額になりやすいです。
1ピースのデメリットは、何らかの理由によりインプラントに支障が出たときには、インプラント全体を交換しなくてはならないことです。
ブリッジ
ブリッジの種類やメリット・デメリットは以下のとおりです。
種類
ブリッジには、義歯を固定する位置により2つの種類があります。
義歯を装着する部分の両隣に自然歯がある場合には、その両隣の自然歯を削り、ブリッジの針金部分を使用し義歯と被せ物を固定します。
治療を行うのが最奥歯の場合には、両隣には自然歯が存在しません。そのときは、遊離端ブリッジというものを使い、隣の2本を使用してブリッジを固定することになります。
メリット
ブリッジは、入れ歯と違って付け外しの必要がありません。
固定には自然歯を使うので、噛む際にも違和感は少なく済みます。治療後は自然歯で噛んでいるのとあまり変わらないのが特徴といえるでしょう。
見た目も自然歯のときとほとんど差がないため、審美性の面でも優れています。
デメリット
デメリットは、隣り合う歯を削る必要があることです。
ブリッジは隣り合う歯を土台にして、被せ物をします。そのため、歯を削らないといけません。
また、義歯にかかる噛むときの力は、土台にした自然歯にかかります。ブリッジの義歯は噛む力を支えることはできないため、隣の歯が分担して受ける必要があります。
ブリッジは本数によって土台の必要数も変わってくるため、土台が少なければブリッジは使えません。
その場合には、インプラントやほかの治療に切り替える必要があります。
失った歯を放置するデメリット
歯を失った後も、費用や治療のスケジュール確保など、さまざまな理由で治療をせずに放置してしまうケースもあります。
食事はほかの歯で噛めばよいと考えることもあるかもしれませんが、失った歯を放置しておくと、さまざまなデメリットが出てきます。
歯を失ったときには、歯科医院を受診するようにしてください。健康的な生活を送るためにも、歯は必要です。
失った歯を放置するデメリットについて解説します。
歯並びや噛み合わせに悪影響を与える
歯並びは、隣り合う歯があることで全体のバランスが保たれています。
もしどこかひとつの歯を失うと、隣の歯は開いたスペースの方に傾いてきてしまいます。
そうなると、歯並びが崩れ、噛み合わせも悪くなることでお口全体に影響が出てくるので注意が必要です。
顔の輪郭など見た目が変わる
お口の周りや頬は、歯があることで膨らんで見えています。
お口の周りや頬が萎んで見えてしまうのは、お口のなかの歯が失われたことで膨らまなくなったことが原因です。
健康的な見た目を維持するためにも、歯は必要になってきます。
認知症のリスクが上がる
食べ物を噛むときの刺激は、脳にも伝達されています。
もし歯を失ったままにしておくと、咀嚼による脳への刺激が減ってしまい、認知症のリスクが高まります。
まだ食べられるから失ったままでよいとは考えず、脳への刺激のためにも治療を放置しないようにしてください。
食べられるものが制限される
歯を失うと、これまでよりも硬いものが噛みづらくなってしまいます。
噛み切ったり擦り潰したりが十分にできなくなり、大きいまま飲み込んでしまうことで胃腸への負担が増えることもあるでしょう。
噛みにくいことで、食べ物もやわらかいものばかりを選ばなくてはならなくなることもあります。
さまざまな食事をしっかりと噛むことは、身体全体にとっても必要です。
発音に影響が出る
もし前歯を失った場合には、発音にも影響が出てしまいます。
言葉を発するときに、隙間から息が漏れてしまうことで、正しい発音になりません。
特に、さ・た・な・ら行が発音しにくくなり、家族や知人との会話や仕事などにも悪影響が出てしまいます。
会話がしにくくなり、無意識に会話を避けるようになってしまうこともあります。その場合は人間関係の悪化や、活力の低下などさまざまな影響につながってしまうため、注意が必要です。
まとめ
入れ歯とは、さまざまある義歯のなかの種類のひとつです。
義歯には、入れ歯・インプラント・ブリッジがあります。
そのどれにも特徴やメリットとデメリットがあり、お口のなかの状態や進行に合わせて適切な治療を歯科医師と相談しながら行っていく必要があります。
歯を失った後に治療をせずに放置しておくと、健康的な食生活や活動にまで支障が出てくることもあるでしょう。
まだほかの歯があるから大丈夫とは考えずに、歯科医師に相談するようにしてください。
参考文献